一発の銃声
その乾いた音が、この双子を永遠にわかつことになる
その音の発信源は重火器ではない
ただの短銃である
長距離からの射撃のため、殺傷能力はあまりに低い
致命傷となるには相当に確率の低い話である
だが事実、それは起きてしまった
銃弾は迷うことなく心の臓を貫いた
「しっかりしろ」
「どうやらここまでみたいだ。ここから先は1人で行ってくれ」
「そんなこと、そんなことできるものか!」
「行くんだ!お前ならそれができる」
一方の少年が倒れていた他方の少年を見やる
その少年の目には、涙が溢れていた
「なぜだ!?なぜあれほどまでに簡単に『人』を殺せていたお前が僕を捨てられない?」
「兄貴にはわからないさ。僕の気持ちは」
「煉羅・・・」
「兄貴があいつらを守ろうとしたように、僕は兄貴を守りたかった。ただそれだけだ。『能力者』とか『人』とか、そんな違い、僕にはどうでもよかったんだ」
煉羅が倒れていた神羅を担ぐ
「一緒に行くんだ、兄貴」
「れ・・・ん・・・ら・・・」
―――『神のほこら』
「たどり・・・着いた・・・よ・・・、ほら・・・兄貴・・・」
同じ顔を持った2人の少年は、その場に崩れ落ちた
「・・・う・・・ん」
「お目覚めですか?マスター」
ベッドに寝ていた少年はおもむろに体を起こした
頭がふらつく
貧血だ
「まだ体調は万全ではありません。もう少し横になっていて下さい」
ここで少年は奇妙なことに気がついた
「なんだ!?どこから声が聞こえる?」
四方から声が響いている
姿なき声にとまどう煉羅
「申し遅れました。私はこの宇宙船リリス=クレサードのブレーンです」
「宇宙船!?『神のほこら』のことか?」
「はい、その通りです。私はそのメインコンピューターです。ご希望ならば、姿をお見せしましょうか?」
そう声が響くと、煉羅の前に1人の女性の姿が現れた
「あれ?これでは少し年齢が不釣合いですね」
そう言うと、女性は少女の姿に変貌した
ちょうど煉羅と同じくらいの年齢だろうか
「うわっ!いったい何をしたんだ!?」
余りの出来事に驚きの声を漏らす
「はじめまして、マスター。この姿は立体映像です」
「マスター!?・・・僕のことを言っているのか?」
少女はその問いに、満面の笑顔で答えた
「そうです。この船はマスターを主としています」
「なぜだ!?」
「そうプログラムされているからです」
そのとき、煉羅の脳裏に漢羅の顔がよぎった
ふと、違和感に気づく
いるはずのものがいなかった
「・・・兄貴!?兄貴はどうした?」
その問いにばつの悪い表情を見せる少女
「兄貴は・・・死んだんだな?」
少女は首を縦に振った
「そうか。・・・兄貴の遺体はどこにある?」
その言葉を聞き、一層顔が険しくなる少女
明らかに何かを隠していた
「・・・どうしても、彼を見ますか?」
煉羅は大きくうなずいた
案内された場所
そこに存在するは1体のミイラ
全身の血を抜かれ、皮と骨だけになったもう1人の自分がいた
「なっ!そ、そんな・・・!?これが、これが兄貴だと言うのか?」
「はい・・・。ここにたどり着いたときにはすでに絶命していました。またマスターの出血もかなりひどく、そのままの状態ではとても助かりませんでした。船内には医療設備はあっても、輸血可能な血液が存在しないのです。そこで、このような・・・苦肉の策を講じました」
「兄貴の、兄貴の血を・・・僕に移したって言うのか?」
「はい」
煉羅の全身が打ち震える
それは悲しみからなのか、恐怖からなのか
「ふざけるなっ!そんな・・・兄貴を・・・くっ・・・うわあああああああーーー」
右手を振り上げ、力任せに寝ていたベッドを叩き壊した
そのまま少女に殴りかかる
だが拳は少女の体を通過した
体調が完全に回復していないため、そのまま床に倒れ込む
「兄貴を、僕は兄貴を守りたかっただけだ。なのに、なのにこんなことになるなんて、そんなことって・・・」
煉羅の目からは大粒の涙が溢れていた
雫は煉羅の右手に降り注いだ
そのとき、煉羅の右手が淡い光で包まれた
「こ、これは!?」
煉羅が右手に力を込めると、より一層右手の光が増した
「これは、この光は兄貴の能力。兄貴は、兄貴は僕の中で生きているのか!?」
涙をぬぐい、立ち上がる煉羅
その目にはもう迷いはない
決意の光が見えた
「兄貴、僕は生きるよ。兄貴の分まで」