ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・
規則正しく刻まれる鼓動の響き
その音は生物のそれとは微妙に異なるものだと無意識に理解していた
しかし、その鼓動の心地よさはなにか懐かしさを感じさせてくれるものだった
そう、かつて聞いたことがあるのだ、その鼓動を、その響きを
それがなにかを認識したとき、言いようのないひどい不快感に襲われた
「・・・イン・・・・・・ク・・・」
まばゆい光に包まれた空間全体に声が響く
(・・・何だ?何を言っている?)
その場に突き出された漆黒の左手が、わずかに反応を示す
「・・・『シャインスパーク』だ。『シャインスパーク』を出せ」
(シャイン・・・スパーク!?何を言っているんだ?)
「『シャインスパーク』・・・それは、内なるエネルギーをすべて出し尽くすことだ。・・・貴様はわかっているはずだ、これから何が起きるのか、何をせねばならないか」
(何を言っている!?・・・俺には何もわからない)
「そうか、それもいいだろう。・・・とにかく『シャインスパーク』を出せ」
(いい加減にしろ!何を言っているんだ!?・・・それに俺はすべての力をもう出し尽くしたんだ。これ以上何もできない)
「果たしてそうかな?貴様は例えるなら、剣を鞘におさめたまま斬りつけているようなもの。なぜ剣を抜かない?抜き身の剣がそれほど恐ろしいか?」
(!?・・・なぜだ?なぜあんたにそんなことがわかる!?)
「いい加減認めたらどうだ?貴様の力の本質は、その身にまといし闇だ。その内に秘めし漆黒の光だ。兄のようなまばゆい光は貴様の力とは異質なものだ」
(兄貴の力を否定するのか!)
「そうではない。適性の問題だ。貴様の力の根源は深い闇なのだよ」
空間の光はさらにその輝きを増す
左手を取り巻くわずかな闇は、まさに風前の灯火だった
「まばゆいばかりの光は闇をかき消す。そして生物は本能的に闇を恐れる。だから貴様は自分の能力を忌み嫌った。光に取り入ろうとした。自分の能力の使用を拒絶した。それが年々力を失って行くという結果に結び付いたのだ!」
(ならば!・・・ならば、光の能力を極めればいい)
「無理だな。貴様は普通の『能力者』とは明らかに異なる。『能力者』とは森羅万象から力を借りることが可能な者たちのことだ。貴様の兄も同様、光から力を得ていた。だが、貴様は根本的に違うのだよ。貴様は闇から力を得ているわけではない。闇を支配しているのだ」
(闇を・・・支配だと!?)
「闇は貴様の内から湧き水のように生まれる。その流れはいずれ泉となり、力の奔流となって無限にあふれ出す!」
(それが闇を支配するということか?)
「闇は宇宙に無限に広がっている。つまり、闇を支配することは宇宙を支配することと同義だ。より大きな闇の力は、より大きな空間の支配につながる。空間を喰い合う戦いにおいて、まさに究極なのだよ。だが貴様は無意識のうちに己の力に上限を定めてしまっている。これが壁となり、闇の支配を弱めている」
(上限?)
「貴様は気づいているはずだ、その力の強大さに。だからこそ貴様は恐怖でその力を押し殺してしまっているのだ」
意思がゆらぐ
闇がゆらぐ
「そして原因はもうひとつ。貴様は湧き水の入り口に蓋をしてしまっている」
(蓋?)
「その蓋とは貴様の兄だ。そして、霞だ」
(なんだって!?)
「兄の血を取り込んだことで、光の力を得られた。だが、同時に闇の力を押さえ込むことになってしまった。光と闇の反発。結果、闇の力だけでなく光の力さえ弱くなってしまったのだ。さらに霞への想いは戦う意思を萎縮させた。だから力が徐々に弱まっていくと感じたのだ・・・事実を受け入れろ!兄を葬れ!霞を捨てろ!光を消し去れ!さすれば闇の力を無限に支配できる」
(兄貴を、霞を捨てる?ふざけるな!そんなことができるか!)
(もういい、もういいんだ、煉羅)
内から別の意思が響く
(兄貴!?兄貴なのか!)
(僕にとらわれるな。お前はお前だ)
(だ、だけど!・・・だけど、俺は兄貴を守れなかった)
(・・・正直僕は嫉妬していたよ、お前のその無限の可能性を秘めた能力に。その嫉妬心がお前の能力の低下を招いたのだ)
(なに言ってるんだ、兄貴?・・・違う、そんなことない!絶対ない!)
(いいんだよ、もう。不殺も俺のためだろう?)
(そ、それは・・・)
(俺の呪縛から解き放たれろ!お前はお前の使命を果たすんだ)
(使命?なんなんだ、それはいったい?・・・兄貴?兄貴!?)
意思はすでに内から消え去っていた
また別の意思が響く
(神威・・・ごめんね、勝手なことばかりして)
(か、霞!?)
(私の人生はまるで死んだようなものだった。だけど神威がそれを変えてくれた。初めて生きた気がした。短い間だったけど、神威と過ごした時間は楽しかった。幸せだったよ)
(だが、俺は君を守れなかった)
(神威のせいじゃないわ。私が自分の意思でしたこと。神威には関係ない。だからもう私にとらわれないで)
(でも、俺は・・・)
(あなたの潜在能力は無限よ。闇はすべての能力を吸収する。あなたは敵の能力を吸収し、どんどん強くなるわ。神威、強くなって!それが『大いなる意思』が望んでいること)
(『大いなる意思』?なんだ?何を言っている?・・・霞?霞!?)
もう意思は響かなかった
(・・・これが・・・これが受け入れるということか)
「そうだ。貴様は2人が死んだことを受け入れることができなかった。だから心の中に2人の存在を置いた。それがこのざまだ。心の中に残すなどという利己的な考えが生み出した結果だ。もう2人はいないんだよ、神威」
(くっ)
「神威、貴様の祖先はある帝国の帝王として、『人類』に、『ゲッターロボ』に戦いを挑んだ。貴様は再び『ゲッターロボ』に戦いを挑む。これは貴様の宿命なのだ!」
(あんたらは・・・あんたらは何をしようとしてる?あんたは神にでもなったつもりか!)
「神か。これはそんな抽象的なものではない。『大いなる意思』が導く絶対なる使命なのだ」
(・・・ゲッター・・・『ゲッター』とは何だ?『ゲッター線』とは!?『大いなる意思』はいったい俺に何をさせようとしているんだ!?)
「本能だ!本能に身をゆだねればすべてがわかる。我々にはこれしか道がないことも」
(本・・・能・・・?)
左手から闇が溢れ出す
体が逆流する
埋もれていた肢体が光の園に君臨する
全身が露になる
その肉体は、黒い輝きを放っていた
「そうか、そうだったのか!だからあんたは俺に・・・」
「そうだ」
「だから俺は・・・、俺は『ゲッター線』を必要とし、『ゲッター線』もまた俺を必要としていたのか」
「だから我々は戦い続けなければならない。永劫なる進化の道を妨げてはならない」
神威の周りを覆っていた白い光は、黒い闇に侵食されて行く
闇が広がって行く
際限のない空間に際限のない闇が覆う
「そうだ。己の力を解き放て!それが進化の源だ!」
「うおおお!ゲッタァァー!『ゲッターロボ』!!その光が星々の希望を奪い去るのなら、俺は『ゲッターロボ』の壁になる!あくまで抵抗するぞ、ゲッタァァァー!!!」
闇がその空間のすべてを支配した
「シャイィィィィンスパァァァァク!!」
西暦4XXX年 神威の戦いが、今、幕を開ける