幼女を殺した少年の
とある公判の話
ブロック状の空気のかたまりが 法廷の真ん中に居座っていた
鉛色の扉を開ける音
黒服2人に連れられて 少年はやってきた
ブロック状の空気が 背の低い少年の人型にえぐられて
少年の形のまま 空気が崩れ落ちていくのがわかった
色はなく 音もなく でも立体メガネをかけなくても
哀しそうな空気が 僕にははっきりと見えた
少年を睨む遺族は
奴にどんな気持ちで視線を送ったんだ?
開廷を告げる裁判長
一点に集まる目という目
少年のシルエットだけが 艶やかに色付けされる
少年はまっさきに口を開き モノクロの群集に言い放った
鋭く 冷淡に 言い放った
「殺した日のことが 思い出せません」
その刹那 遺族の胸は張り裂けて
怒りとも呼べぬ、ただ激情の波動を乗せて
胸から惨い触手が飛び出した
打ち合わせどおりの役目を終えた少年は
一言告げると 歳老いた代打みたいに ゆっくりと 椅子に腰を下ろした
その後続いたのは 見るも無惨な弁護の嵐
「少年の精神は おかしかった」
「少年には 責任能力がない」
でも少年が殺した 少年が殺した 少年が殺した
それは一片のフィクションもない事実なのに
「少年の記憶は 断片的だ」
「少年は 衰弱している」
でも
少年が殺したんだ 少年が殺したんだ 少年が殺したんだ
「少年に極刑は相応しくない」
少年が殺したのに 少年が殺したのに 少年が……
奴が あの笑顔を奪ったのに
ここは10年後の どこかにある独房
命が保証された少年が ゲーテを読みながらこう叫んだ
「生きてるって すばらしい!」
妙に精を持った声が コンクリートに響く……。