9月3日
年休を使い、朝7時台の東北新幹線に乗車した。
予定していた旅行ではない。会社関係で告別式に参列するため、今月になって急遽切符を手配したのであった。
約3時間乗車して在来線に乗り換え、会社の人たちを乗せた2両編成の普通電車は目的の駅に着く。出迎えのメンバーが車で葬祭場へ案内してくれた。
彼の突然の別れに誰もが驚き悲しみに暮れた。
粛々と進行し、やがてお坊さんが退席する。親族のお見送りを受けて式は終了した。
ひとまず駅に向かう。彼の友人達はどこかでお清めをするのだろう。同乗したタクシーをおりて分かれていった。
会社関係の人たちは、後の手伝いやらなんやらで斎場で別れている。
僕は同期のSと2人駅に取り残された形になった。僕らは彼よりも一回り年上であり、かつて上司として関わったことがあるのだ。
タクシーの中では無言であった。5分くらいであったがなんともいえない時間であった。
時刻は昼時であり、朝も早かったことから腹が減った。Sと二人盛岡に行くことにした。普通電車でもさほど時間はかからない。
同期のHが盛岡支店にいることを思い出す。理由はともあれ、折角遠くまで来たのだから昼飯でもと思い電話する。しかし生憎業務で出ており盛岡には居ないとの事だった。
盛岡駅で観光案内所に入り、とある食べ物屋を紹介してもらう。駅から歩いてすぐの場所である。
Sと二人して暖簾をくぐった。
お、いきなり積み重なった御椀が目に入ってきた。
そう、わんこそばを食べに来たのであった。
この店は勿論普通のお蕎麦メニューもある。そして多くのひとは普通のメニューを召し上がっている。
盛岡はわんこそばをはじめ、冷麺、ジャージャー麺など麺類が有名である。盛岡冷麺は食べたことがあるが、わんこそばだけは未だ食べたことが無かった。
今日はSという連れがいる。一人では出来ないが、今日はちょいとチャレンジしてみようじゃないかということになったのだ。
お姐さんが注文を取りに来て、得意げにわんこそばを頼む。
適度に腹は減っている。この時結構やる気マンマン(笑)

このように専用の前掛けが準備される。

蕎麦が出る前に、お姐さんがいろいろと説明をしてくれる。
ここにあるのは薬味であります。わんこそばでなければ、酒のつまみになるものばかりですが、ほとんど手をつけることはなかった。
手前の黒い蓋付きの器を手に持ち、そこにお姐さんが蕎麦を入れる(放る)。
入れられた蕎麦を一本も残さずに食べて蓋をしたところで終了。蓋をするまでは、永久に蕎麦は器に入れられ続けるのだ。
右にある大きな黒い器は、手持ちの器に溜まったつゆを捨てるものです。
さて戦闘開始です。
Sと向かい合わせに座り、一人のお姐さんが付きっ切りで僕らの器に投入する。
大きなお盆には、小分けにされた蕎麦の器が載せられている。20個くらいだろうか。
一杯はほんの少しの量であった。店の説明によると、15杯で普通の盛り蕎麦1枚に相当するのだとか。
初めて口にしたお蕎麦は温かく短く切られていた。盛り蕎麦を小分けにしたものだと思っていたが、温かいのが意外であった。食べやすい(飲み込み易い)ように短く切られているようであったが、なんだか釜に残った切れっ端の寄せ集めのような気もする。何杯も出すわけであるから、決して寄せ集めなんかではないのだが。
「はい、じゃんじゃん!」
「はい、どんどん!」
お姐さんは僕らの食べるペースに合わせて、こうした掛け声をかける。
そのリズムにあわせて(煽られて)箸を動かす。
最初のうちは楽勝である。お姐さんのもってくる手持ちの蕎麦は2人ですぐに平らげる。
「替わりのそばをお持ちします」
と言って、お姐さんが奥にさがる。その間につゆを捨て少々の薬味を口にする。そして写真を撮る。
いくつかののテーブルからも掛け声が聞こえる。
振り向くとそうでない客がこちらを見ている。なんとなく冷ややかな視線で。
お姐さんがやってきて次のお蕎麦の掛け声をかける。
やはり難なく平らげ、次の蕎麦を待つ。

ここで、江戸ピン59杯、S46杯。まだ行けます。
お姐さんが下がってから次を持って来るまでの時間が長い気がしてきた。
満腹中枢が働く前に食わないと食べられないじゃないかと焦りだす。
じゃんじゃんどんどんのペースにだんだん追いつかなくなってきた。

縦の一列は15杯です。 江戸ピン98杯 S80杯くらい。
とりあえず100杯は越えよう!
次にお姐さんが新たな蕎麦を持ってきたときから、箸の動きが鈍くなった。
100杯を越えている。急に妙な事を考え始める。
「オレ、血糖値高いんだよな」
「ダイエットはどうしよう」
「お姐さんは付きっ切りで大変だなあ」
「そういえば、今日は何しに来たんだっけ」
弱気になってくる。お姐さんの掛け声がそれを煽る。
キリのいい111杯で終わろうと思い、食べきったところで蓋を閉める。
お姐さんは
「最後の一本まで食べきりましたか?」
と尋ねた。
最初の説明のとおり、食べ切って蓋をしているかを見せてという。
確認をしてもらおうと思い、蓋を開けたら・・・
かぱっ!
「はい、じゃんじゃん!」
(泣)
「何しやがんだよ!」
仕方なくまた食べ始め、一本残さず平らげる。
向こうも百戦錬磨だ。蓋をされる前の隙を逃すまいと構えに入っている。
こうなると、
もはやお姐さんは敵である。
疑心暗鬼という言葉は、このために生まれた言葉だ。
さて、どのようにして終結をむかえようか?
こちらは体力を消耗(笑)し、向うは弾薬(蕎麦)を沢山所持しているのだ。
戦争は始めよりも終わりのほうが難しいのだ。
お椀は115杯だ。必死に食べきると、おわんを放り込まれる。
クールを装い、隙を見て119杯目で一気に食べ切りついに蓋をする。
キリのいい120を目指したかったが、次の隙がいつ出来るかわかったもんじゃない。
程なくしてSも終戦を迎えた。100杯だった。
いやーー。食ったよ。
「只今の記録! 江戸ピン119杯! S100杯!」←びっくり日本新記録風

わんこそばを食べるとこの店ではこうした証明書をくれる。
そして、100杯をクリアした人には手形もくれるのだ。
会計のオバサンに何杯食べたかを聞かれた。119杯と答えると「今日の1番です」と言われた。なんだかなあ。
店を後にして盛岡駅に向かう。
明日は仕事なので帰らなければならない。Sはちょっと一人でもう暫くブラブラするという。駅で別れ一人新幹線乗場へ。
彼には悪いのだが、Sと一緒に盛岡でエンジョイしてしまった。
でも、わんこそばの思い出とともに、君のことは忘れないであろう。
少しばかり鉄になる。

はやて号到着。

連結器が現れる。

秋田からのこまち号がやってきて。

近づき。

連結しました。
3時間弱で夕方の都内に舞い戻りました。
<感想>
わんこそば屋は人件費率が高いと思う。
<結論>
この戦争は間違っていました。永久の平和を望みます。
<おまけ>
結局、腹いっぱいでお酒は飲まなかった。

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