2013/3/25

こころ改版  (ショップ:楽天ブックス)   小説

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■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
 ただ一つ私の記憶に残っている事がある。或(あ)る時花時分(はなじぶん)に私は先生といっしょに上野(うえの)へ行った。そうしてそこで美しい一対(いっつい)の男女(なんにょ)を見た。彼らは睦(むつ)まじそうに寄り添って花の下を歩いていた。場所が場所なので、花よりもそちらを向いて眼を峙(そば)だてている人が沢山あった。
「新婚の夫婦のようだね」と先生がいった。
「仲が好(よ)さそうですね」と私が答えた。
 先生は苦笑さえしなかった。二人の男女を視線の外(ほか)に置くような方角へ足を向けた。それから私にこう聞いた。
「君は恋をした事がありますか」
 私はないと答えた。
「恋をしたくはありませんか」
 私は答えなかった。
「したくない事はないでしょう」
「ええ」
「君は今あの男と女を見て、冷評(ひやか)しましたね。あの冷評(ひやかし)のうちには君が恋を求めながら相手を得られないという不快の声が交(まじ)っていましょう」
「そんな風(ふう)に聞こえましたか」
「聞こえました。恋の満足を味わっている人はもっと暖かい声を出すものです。しかし……しかし君、恋は罪悪ですよ。解(わか)っていますか」
 私は急に驚かされた。何とも返事をしなかった。


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2013/3/16

<『こころ』などを収録> 夏目漱石全集(8) [ 夏目漱石 ](ショップ:楽天ブックス)  小説

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■目次
こころ/道草


■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
+目次

上 先生と私




 私(わたくし)はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚(はば)かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執(と)っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字(かしらもじ)などはとても使う気にならない。


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