
『大日本帝国』(1982年)
『大日本帝国』(1982年)を見た。『二百三高地』とほぼ同じスタッフ、キャストの東映映画。82年ならもっとマシな映像にならんかったのだろうかと思わないでもないが、真珠湾から東京裁判まで描いた180分の超大作。ぽんぽん話が進むのだが、柱は3つ。東條英機(丹波哲郎)を中心とした大本営の話。これは意外と出番が少ない。もう1つはあおい輝彦の話。床屋の長男だが兵隊にとられて小田島中隊長(三浦友和)のもとへ。サイパンで玉砕するまでの転戦と、内地での妻(関根恵子)とのエピソードがある。最後はクリスチャンの篠田三郎が神風特攻隊に志願するも生き残ってしまい、戦犯裁判で銃殺されるまでのエピソード。篠田の恋人役は我らが夏目雅子嬢。
で、このものものしいタイトルと妙なキャッチコピーから右翼映画と思われがちだが、全然そんなことはない。そういうのを期待していると多少肩透かしを食う。が、左翼が見たら右翼映画だなんて言うシーンもありそうだ。別段思想に支配されて話が歪んでいる風ではない。ちなみにキャッチコピーはこんなの。
「その時、日本は東条にすべてを託した!」
「今甦るトージョーの伝説」
東條そんなに出番ないので、これに騙されてはいかん。まあ、他にも「これが戦争だ!」とか、「男は黙って戦場へ発った」とかまあそういう左翼が喜んで攻撃しそうなもの。でも、よう分からんのもあった。
「1982 ザ・ビッグ・シネマ ディスカバー日本人 40年の奇跡」
はい? 意味が分からんです。
まあ、『二百三高地』だって「壮大なロマンが火を噴いた」とか言ってたので、まあそんなものだろう。
さておき、戦闘場面は模型とか使って頑張っているのだが、戦場の泥っぽさはイマイチ。顔が黒くなって汚れていくのはいいんだが、何にせよ血が少ない。『プライベート・ライアン』で戦争映画の歴史は変わったが、あの映画の衝撃はこれまでの映画における戦争シーンを全て否定するかのような凶悪なものだった…。でも、映画はそれだけじゃない。『大日本帝国』は多々雑な感があれど、実によく丹念にドラマが進んでいくので180分を通しで見れてしまうのだ。関根恵子とあおいの夫婦の話とか。
この2人の場面はあまりにも真剣すぎて面白いところが多々あり。出征前日に結婚した2人の初夜から始まる一連の性的な描写(というほどのものでもないけれど)は特に。初夜、向かい合ってぎこちなく座る2人だが、突然あおいが「あのう…、触っていいすか」。ぐは!なんだこの童貞。いやしかし笑ってはいかんのう。「いいすか」ってのがいい。で、太ももを触ります。シャバいあおいに対して関根恵子はたくましい。するすると服を脱いでくれます。
それから、負傷して内地に戻ってきたあおいが、すぐにでも前線に復帰したいと言うと、出先なのに関根はおもむろに服を脱いで夫を誘います。実にたくましい。結局あおいのもとには召集令状が来るんだが、その晩、彼らは3回セックスをします。台所だったり風呂だったり。で、朝起きるとまたします。わかったよ、もう。という感じ。赤とか緑とかの謎の照明が回ってるし。82年の映画ですからな。
最後までこの人たちは面白いんだが、戦後子供を抱えてヤミ市でたくましく働く関根恵子が、海岸を歩いてると向こうから帰ってくるんだ、あおい輝彦が。サイパンで玉砕したんじゃないのか!しかも、何で海岸で再会なんだ!いや、しかしそれがまた感動的なのだよ。もともと関根は戦争なんてバカらしい、というような考えの持ち主で「アメリカでも日本でもいいから、どっちかが早く負けてくれればいい」なんて言う非国民なのだが、夫を取った戦争、あるいは天皇陛下を恨んでいるわけですな。で、最後、夫の帰還は戦争から夫を取り返したという勝利なのだ。この涙が結構美しくて見せる。そういうのがこの映画の優れているところなんだろう。いかにおかしくても。
で、そのあおい輝彦が戦闘を共にするのが小田島中隊長だ!これが、めっちゃくちゃカッコイイ。手にするのは日本刀。どんな時でも日本刀は手放さない。戦闘でも銃なんて撃たない。日本刀を振り回して敵をなぎ倒す。上官には「歴戦の将校」と讃えられるカリスマ中隊長。演じるのがまた三浦友和なんだ。『226』でカリスマ青年将校、安藤中隊長を演じた三浦。通じるものがある。部下思いで、戦闘では鬼のように強くてなおかつ非情。

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小田島中隊長。
結婚はしていないが沖縄人の情婦がいて、彼女には優しい。もちろん、彼女もとても立派な生き様を見せる。あおいも含む一行はサイパンが陥落した後に洞窟に隠れてるんだが、水を汲みに沖縄彼女が洞窟を出て行く。投降するのかと疑って止めようとする軍曹に、「こんなところでいばってないで、上に行ってアメリカ兵を殺してきな」と言い捨てる。す、すごい。で、水汲みしてるところを米兵に見つかり発砲されるも、日の丸を敷いて手榴弾で自決。
さて、生き残った数人。せめて部下の命は救ってやりたいと願った中隊長は米兵との交渉を決意。日本刀をあおいに託して1人で洞窟を出て行く。で、海岸で遊んでる米兵を発見。交渉に臨むが、浜辺に捨てられた白骨を見つけるや、やっぱり銃をとって米兵を射殺してしまう。中隊長も撃たれて死んでしまう。交渉も失敗。
この辺り、実に深い。野ざらしになった白骨のそばで遊んでいる米兵を見て、許せなくなってしまう中隊長。投降なんてできないと思ってしまうんだな。こういう部分のドラマがね、実に見せるというわけなのだよ。
それとか、クリスチャンで戦争に反対していたはずの篠田が、最後は「天皇陛下万歳!」と叫びながら死んでいくまでの過程とか。

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夏目雅子。三つ編みセーラー服を披露してくれます。美しい…。
夏目は現地のマリアとの二役。篠田はマリアに惹かれてしまうんですな。で、現地人の密告を防ぐため、また足手まとい、口減らしということで殺さざるをえなくなる。で、その罪を背負った篠田は、自分が実行役ではなかったけれど、裁判で何も申し立てずに刑に処される。ここにはもう1人生粋の軍人がいて、こやつがそういった汚い部分を一手に背負ってくれるんだ。この軍人の生き様がまた篠田に影響を与えている。彼は最後まで天皇陛下が助けに来ると信じ、冷酷なまでに軍務に忠実で、軍人の誇りに生きる男なのだ。対立し、大喧嘩までするんだが、戦犯になった後はこやつは篠田を庇って1人で罪を背負おうとするんだ、これが。
善悪とかそういう尺度は通用しない一筋縄ではいかん。
最後に、丹波哲郎の東條は、ちょっとカッコ良すぎやしないか。