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警告!
ここに書かれている内容は『妖精的日常生活10話』までと『少年少女文庫の感想掲示板』でのジャージレッド様の発言を元にして、南文堂が面 白おかしく勝手気侭に設定を推測したものを基本としており、ネタバレではありませんので、本 編がこれとは違うものになったとしても、その件に関して、南文堂は全く全然ひとつも責任を持たず、感じませんの で、その点はご了承の上、お楽しみください。

特別調査室指令:妖精の秘密に迫れ!

♪ちゃんちゃらりらりーんちゃちゃらんっ
特別調査室へ指令:
妖精の秘密に迫れ!!
――妖精と妖精界の真実が今ここに明らかに!

「チーフ。本部から指令が入っています」
 いかにもキャリアウーマンの秘書という女性が、少し若作りの壮年の男性にFAXを手渡した。
「ご苦労。ふむ、妖精と妖精界の秘密を探れ……か」
「妖精、ですか?」
「ああ、君も知ってのとおり、日本は妖精に召喚されるものが多い。妖精大国とも呼ばれている。統計では、全国に約2万5000人の召喚に応えたものがいる そうだ」
「2万5000人ですか……」
「妖精は、その子供達を含めれば、15万は下らないと言われている。そういえば、君は妖精をどれぐらい知っているかね?」
「妖精ですか? えーと、ちっちゃい、かわいい、空が飛べる。それと、コンピューターがダメ。ぐらいですね」
「あと、発情期があるぐらいが、よく知られていることだね」
「……」
「ああ、すまない。さて、それじゃあ、全員を集めてくれるかな? 会議を開く」
 彼女の無言の抗議に彼は苦笑を浮かべながらそれをかわした。
「了解しました。チーフ」
 彼女のほうも深追いせずにそれ以上の抗議はしなかった。

「しかし、なんで今更、妖精なんですかね? 6、7年前ならいず知らず、そんなに多くはないけど、珍しくもなくなっているのに」
 今風のラフな格好をした若者が、指令書をひらひらと振りながら正直な感想を漏らした。
「だからだよ、高橋君」
「?」
「妖精と言う存在に、我々はすでに慣れてしまっている。もう、ずっと昔からいるようにね。しかし、実際のところどうだろう? 妖精のことについて、我々は 何も知らない」
「たしかにそれはそうですが……」
「知りもしないのに馴染んでいる。馴染むほどに増えている。そろそろ我々も妖精のことをもっとよく知っておかなければならないのではないかな?」
「……」
「じゃあ、チーフ。何から調べましょう?」
「そうだな。妖精の最大の謎といえば、なにかな?」
「やはり、その侵略している敵でしょう」
「いえ、妖精そのものでは?」
「コンピューターに近づけないというのもありますね」
「飛べるということも結構謎ですよ。航空力学的にあの羽根で飛行できるとは思えませんし」
「なるほど。それでは、先ずは専門家の話を聞いてみよう。恵理子君」
 秘書の女性はコンピューターで何かを入力すると、一人の男の写真がでてきた。
「松屋町工科大学(通称MIT)の南 文人(みなみ・ふみひと)教授。妖精研究で最近論文を発表しています。妖精の召喚の目的について、斬新な意見を出さ れたそうです。この方から窺ってみるのはどうでしょうか?」
「そうだね。それでは、早速、アポイントを取ってくれたまえ」

「――これが妖精の召還する時の事情説明だ。一言一句同じというわけではないが、概ねこのようなことが言われる。実はこの中にとんでもないことが含まれて いるのだ」
 本当に教授の待遇を受けているのか、というよりも本当に教授なのか疑わしくなるような狭苦しい部屋の中で、南は妖精の資料ときつねの写真に囲まれて訪れ た特別調査室の面々に熱弁を振るっていた。
「とんでもないこと?」
「人間を召喚する事を試みたが、どういうわけだか、失敗して、身体だけしか召喚できなかった。彼らはそう言っているね」
「ええ、確かに」
「その為に身体を交換する事で召喚する事を成功させたと言ってますね」
「確かに、そう言っている。しかし、よく考えてみたまえ。これは脅しとも取れる発言ではないかね?」
「脅し?」
「なるほど。召喚に応じないのなら、強制召喚する。そうすれば、あなたは死ぬ事になるんですよってことですね」
「その通り。首筋に刃物を当てられながら、『お願い』されているのだよ」
「では、妖精は召喚を断りつづけた人間を!」
「いや、そういうことはないようだ」
「何故、そう言い切れるんですか! 証拠も残さずに人が一人消える。完全犯罪ではないですか! そういうことをしているかどうかすらも分からないじゃない ですか」
「これは、妖精召喚の報告のあった国々の、ここ十数年の行方不明者数の推移を表にしたものだ。年々増えていく傾向はあるが、妖精召喚の活発になった6年前 に特に増加したという傾向はない。前年の推測範囲内に収まっている。その後も推測範囲内を推移している。これを見る限りでは、妖精が召喚に応じない人間を 強制召喚によって消し去っているわけではない」
「では、何故、脅しと?」
「断れば断るほど、同じ事を聞く事になるから、その事に気が付く可能性が高くなる。やらないという保障がないことは、不安を増大させて心理的プレッシャー をかけられる。逆に、強制召喚すると直接的に脅された方が、交渉の余地があるから、突破口を探れるが、その事を匂わせるだけで、交渉する余地を与えない。 見えない敵に囲まれて、こっちの心が折れるのをじっと待つというわけか」
「時間がない割には悠長ですね」
「しかし、効果的だ。断られて、殺すよりもね」
「魂の波長が同じ人間がどの程度の割合で存在するかどうかは不明だが、それほど多くもあるまい。大抵の場合、何度も同じ妖精に召喚を申し込まれていること を考えるとね」
「なるほど。殺してしまっては、数少ない適合者を減らす事になるというわけですね」
「と理解していても、実際、不安を感じずにはいられない」
「そう考えると、妖精って狡猾ですね」
「それだけ、必死という事だろう」
「しかし、変ですね。それをもっと効果的にやるのでしたら、多少の犠牲を伴っても、最初にある程度の数を強制召喚してしまう方が、より早くその事に気が付 くのではないですか?」
「な、なんてことを言うのよ!」
「いや、その、俺の意見じゃなくて、妖精側の立場だったら、妖精が必死ならそうするんじゃないかって……」
「確かに効率的だね。その現象があることを知っていれば、強制召喚しないという保障がないどころか、実例がある。不安は現実のものとして、断る事はしにく くなるな」
「ほら、チーフだって……」
「チーフ! 言っていいことと、悪いことが――」
「ありとあらゆる可能性を考えて、それを解決する。それが我々の役目だ。不吉だからと目をそらせていてはいけないのだ。だが、今回はそうであるにもかかわ らず、そういう事態が発生していない。このことをどう思う?」
「そうですね。強制召喚は難しいのでは?」
「しかし、妖精たちは最初にそれを試した。つまり、彼らにとって、一番やりやすい方法だったわけだ。それなのに、難しいという事はどういうことだろう?」
「それじゃ、こういうことなんじゃないですか、強制召喚自体は出来なかった。つまり、身体だけも召喚できなかった」
「なるほど。その可能性はあるが、先生はどのようにお考えです?」
「実に興味深いね。強制召喚は出来たと思われる。でなければ、自分の生命を危機に晒して召喚する事になる。もし、妖精の身体だけ人間の世界に召喚されたの なら、召喚者は死んでしまうからね」
「つまり、身体だけ召喚できる事を確認したから、自分の体を交換する事で問題を解決したという事ですか?」
「そういうことになる」
「待ってくださいよ。それじゃあ、なぜ、強制召喚しないのですか? 妖精のモラルですか?」
「切羽詰っていると言っても、最初からそうであったわけではないだろうから、最初の頃は道義的にそれをしなかったかもしれないが、最近は詐欺まがいな手口 で名前を聞き出す妖精も多くなってきている。道義的な理由からそれをしていないわけではないだろう」
「しかも、今までであれば、ある程度同意がなければ出来なかった召喚を、半ば強引に召喚するケース増えてきているそうですね」
「その件も、この強制召喚をしない理由と関係あると私は睨んでいるのだよ」
「? それは一体、どういう?」
「まあ、落ち着きたまえ。まず、これを見てくれたまえ。強引な召喚をした妖精の羽根の種類を分類したものだ。圧倒的に、鳥タイプが多い。以前までは鳥タイ プの召喚は数が少なかったが、ここ最近で増えつづけている。どうしてだと思うかね?」
「鳥タイプは人気があるからですからね?」
「バカ? こっちの人気なんて、妖精側には関係ないでしょう!」
「……私が妖精に召喚された人たちを尋ね歩いて聞き取り調査した時に、面白い話を聞くことが出来た。本当かどうかは確認しようがないが、『妖精の羽根の種 類によって階級が分かれていて、昆虫タイプ、トンボやチョウタイプは一般市民階級、蝙蝠タイプは武士階級、鳥タイプは貴族階級、鳥の中でも純白のものは王 族』ということらしい」
「階級か……」
「階級というよりも、羽根がその妖精の魔法力を表すということらしいと私は考えている。実際、一時的ならば、違う羽根を出す事も可能ということは確認して いる。但し、自分と違うタイプの羽根を出す事は非常に難しいらしく、すぐに維持できなくなる。魔法力に見合ったのが、その妖精の羽根の形となっているよう だ。昆虫タイプが鳥タイプの羽根を出すと、それを維持しつづけることが出来ずに消えてしまう。逆に鳥タイプが昆虫タイプの羽根を出すと、今度はそれが気を 抜くと勝手に鳥の羽根の形を取ろうとする」
「そうなのですか。それは知りませんでした」
「羽根を出す時の練習で、トビウオのイメージを固めると、トビウオの羽が出てしまうという報告を聞いたので、もしやと思ってね。知り合いの妖精に協力して もらった。想像力がそこそこあれば、それほど難しくはないらしい。話が脱線してしまったね。元に戻そう。何故、強制召喚しないかだね?」
「はい、そうです。何故なんでしょう?」
「貴族階級、魔法力の強い妖精を最近こちら側に送り込むようになってきた。そこがその原因となるのだよ」
「といいますと?」
「最初の段階で魔法力の強い妖精を召喚要員として採用せずに、そこそこの者たちを召喚要員にした。これは妖精界でも魔法力がまだ必要であったためと考える のが妥当だろう。まあ、それはさて置き、貴族階級が数が少ないといっても、魔法が通じない相手に魔法力がいくらあっても無用の長物なのだからね。魔法力の 高いものに強引に召喚させた方が魔法力の高いことの利点を活かせる。しかしそうしなかった」
「やっぱり、召喚するのは向こうにとってもいやな事なんではないでしょうか? 特権階級となれば、その、エリート意識が強いでしょうから」
「しかし、多くの平民が召喚に名乗り出て、必死の説得をしているところを見ると、特権階級がそれでは軋轢を生じるだろう。下手すれば、内乱になりかねな い。妖精界は文字通り、世界的危機にあるのだから」
「そうですね。では、召喚をしなければ厳しい罰則が……」
「まあ、そう考えるのも妥当だと思うが、では、何故、ここにきて貴族階級の召喚が増えたか。その理由は何かわかるかね?」
「え、えーと……」
「私が考えるに、魔法力を必要としなくなったか、もしくは、魔法力を別の事に使用する事に方針が変わったのではないかな」
「別の事?」
「そう。妖精界の人間界への召喚のために」
「!!」
「ど、どういことですか!? それは」
「つまり、妖精はロボットと戦争状態にあるが、その勝ち目が薄いと判断したのだろう。そうなれば、今度はどこかへ撤退する事を考える。その逃げ込み先がこ の人間界というわけだ。妖精側からのコンタクトはあるが、ロボット側からのコンタクトがあったという報告は受けてない。つまり、ロボット側はこの人間界に 干渉できないのであろう。そうなると、人間界はうってつけの逃げ込み先というわけだ。強制召喚しない理由も、逃げ込み先の感情を害さないようにするためで はないだろうか?」
「ま、まってくださいよ。それがそうだとしても、最初は戦うために召喚していたんでしょう? それなら、その時には逃げ込む先の感情を云々は関係ないので は?」
「最初から、この計画もあったと考えるべきだろう。つまり、逃げ込み先に逃げ込む道を作るのに時間がかかることがわかっていたので、その準備もしていたの だろう。妖精たちも、できれば妖精界にとどまりたい。そう思って戦っていたと思う。だが、どうも分が悪い。仕方ないので、予備としていた撤退の準備に力を 入れるようになったというわけだ」
「なるほど。最初から強制召喚をしなかったことも、最初から撤退の事も視野に入れての配慮というわけですね」
「そういうことだ」
「妖精をこちらに送り込み、こちらに魔法力を持つものを集め、何らかの方法で妖精界の妖精をこちら側に召喚するつもりなのだろう」
「そんな事が可能なのですか?」
「難しくはあるが、可能だろう。魔法は羽根の件でもわかる通り、イメージの問題と考える。その為のノウハウが我々にないから魔法が使えないだけなのだろ う」
「そうです。それです。そのような大掛かりな魔法を我々にできるとは思えない。彼らは我々が魔法を使えるようになることをまっているのでしょうか?」
「妖精界と通信して、やり方を教えてもらえばいい。向こうは妖精の魔法技術を交渉条件に持ってくるだろう。『元の身体に戻れるかもしれない』というかも ね。どっちにしても人間には魅力的な提案だと思う」
「でも、どうやって通信を?」
「簡単だよ。召喚の呼びかけが通信じゃないか。つまり、妖精との連絡係を誰かにやってもらえばいい。又聞きになるがね。連絡を密にすれば問題ないだろう」
「すると、すぐにどこでも寝れる『のび太』みたいな人が必要ですね」
「でも、要領が悪い人はきっちり連絡するには向いてないとおもいますよ」
「まあ、たしかに、世界の命運をそういう人に任すのはアニメの中だけにして欲しいよね」
「ははは。たしかにそうだね」南はそう言うと、同時に電話のベルがなった。断りを入れて、電話を資料の山から引き出して受話器を上げた「はい、私だ……な に?! それは本当か! わかった、すぐに行く!」
「教授?」
 怪訝な表情をする特別調査室の面々を全く意に介さず、そそくさと出かける準備を始めた。
「すまないが、急用が出来た。大体、私の研究については話したつもりだが、また、何かわからないことがあったなら、聞きにきてくれたまえ。いつでも歓迎す るよ。それでは、急がなくてはならないので、失礼……待っててね、子狐ちゃん♪ いま、会いに行くよ〜……」
 踊るようにして南が去った後、面々は呆然とその後姿を眺めているだけしかなかった。
「行ってしまいましたね」
「ああ……」
「どうしましょう?」
「そうだな……妖精になった人の話も聞いておきたいね」
「あの……」
 チーフが取材方針を考えていると、南教授の研究室にいる女子学生がおずおずと話し掛けてきた。
「はい? なんでしょうか?」
「うちの大学にも妖精さんがいるので、紹介しましょうか?」
「ああ、それはありがたい。ぜひお願いできますか?」
「はい。今は食堂にいると思いますので案内します」

「え? あたしにお客さん? もぐもぐ」
 食堂でお子様ランチのように様々なおかずの並んだトレイを前に旺盛な食欲を余すところなく見せ付けていた赤い髪の蝶タイプの妖精が彼らを出迎えた。
「雛子ちゃん、食べながら喋って、行儀悪いわよ」
「ごめんごめん。……んぐっ。はぁ、しあわせ〜」
「本当に妖精さんはおいしそうに食事するんですね」
 秘書の女性は感心するように、その至極満足そうな表情を見つめていた。
「妖精になったら得することは、空を飛べることと、食べ物が何でもおいしく感じる事といわれてるからね」
「そっ! だから、めい一杯楽しまなきゃ♪」
「だからって、雛子ちゃんは食べ過ぎだって」
「そんな事ないよ。妖精研究の本によれば、妖精の食事量はおおよそ72gで、人間の食事の体重に対する比率で換算すると、およそ20倍ほどになるの。これ は身体の体重あたりの表面積が6.5倍になるから、食物摂取量は単純に6.5倍になるのに加えて、飛んだりすること、妖精狂いの季節は食事が少なく可能性 があるからその備蓄、ついでに言うと女性の場合、その後の妊娠にも備えての体内にエネルギーを蓄えるため、20倍となっているの。それに、これはあたしの 想像だけど、魔法力の蓄積のために必要なんじゃないかと思うの」
「魔法力の蓄積?」
「ほら、妖精って、召喚して体を交換しているじゃない。ということは、この体は魔法が使えるのでしょ。使えないのは使い方を知らないだけ。それなら、魔法 の源を何かの形で溜め込んでいるって思えない? 人間で言う脂肪みたいに。妖精っていくら食べても肥らないじゃない。だから、脂肪じゃない、何かにそう やって溜め込んでるんじゃないかな? そういう理由なら、太らないってことも、納得できると思うの」
「なるほどね。でも、ただ単に一日の運動量が食事量とバランスが取れているだけじゃないの?」
「南教授の調査の結果、明らかにオーバーしてるみたい。大体、1/2ぐらいで充分なんだって、教授の試算では。それでね、妖精の魔法って、飛べるだけと 思っているかもしれないけど、実を言うと、食べる事にも魔法があると思うの」
「というと?」
「本当なら、これだけの食べ物を食べるとしたら、一日中食事をしなければならないのよね。ネズミとか雀とか、基本的にずーと食べてるでしょ? 取らないと いけない食事量に対して、消化器官の許容量が小さいからね。だけど、妖精はそうじゃないでしょ? だから、妖精の消化器官は魔法力の行使する事によって、 その許容量は大きくなっていると考えられるの。この他にも、栄養過多(塩分の取りすぎなどによる腎障害)を引き起こすはずだけど、妖精の肝機能を始めとす る内臓の処理能力は大きくて、それらの毒素や過分の栄養をろ過する事ができるの。その上、貧乏舌であるために、食事に飽きる事がなく、大量の食物を苦もな く食べれる。よく考えられているよね」
「なるほど」
「ついでに言うと、妖精になった最初の食事で食べ過ぎてしまってお腹を壊すケースが多いけど、あれはもちろん食べすぎであることも原因の一つだけど、妖精 になったばかりで妖精の強力消化器官のコントロールが十分に行う事が出来ない――寝起きに大量の食物を食べた状態に近いから、消化器官が突然の食物に驚い てしまった結果なんだよね。実際、最初にお腹を壊した量って、今あたしが食べてる量と比べて、そんなに多くないんだよね」
「だから、雛子ちゃんは食べ過ぎなんだって」
「……ずいぶんとこだわるけど、なんで?」
「だって、悔しいじゃない。必死でダイエットしているのに、その横で一杯食べられるの」
「……じゃあ、やってみる? 妖精ダイエット。体重275分の1になれるわよ」
「それは遠慮します」
「妖精になっての数少ない楽しみなんだから、お願いっ」
「……かわいいっ。ああ、何でそのうるうるした目で見られると逆らえないの。雛子ちゃんのお母さんに言われてるのに〜」
「ははは、妖精の最大の武器ですね」
「うん。あ、そーだ。妖精が魔力を溜め込む理由は、人間界に妖精界を召喚するときに必要な魔力を蓄えるためだと南教授が言ってたっけ。教授の書いた本にそ の事は載ってるよ。ただし、と学会にリストアップされているけど」
「わかった。読んでみるよ。食事中に申し訳なかったです。ありがとう。また、何かあったら、お話聞かせてくださいね」
「うん、あたしにわかることなら」

 オフィスに戻り、早速、南教授の書いた本を読破したチーフは、目頭を押さえて、疲れ目を癒していた。
「チーフ。何かわかりました?」
「うん。南教授の推測では、妖精は『電池』ではないかと言う事だ。つまり、
 妖精は人間によって作られた存在で、その用途は『人間が集めることのできない魔法力(もしくはオーラ)を集積貯蔵するシステムの一部』というわけらし い。
 人間が、特殊な人しか使うことのできないエネルギーを使えるようにするために妖精を作ったわけということだ。
 そのシステムの一部である妖精に思考能力や感情があるのは、魔力の集積に必要なためかもしれないと推測している。
 その魔法力をエネルギー源にして稼動するロボットを人間が作った。これが、妖精たちの使い魔で、ロボットを動かすためのエネルギーを妖精が供給し、人間 がそれを動かす。という仕組みらしい。もちろん、いつでもどこでもロボットを取り出せるように、普段は異次元の倉庫に収納しておいて、必要な時に妖精に召 喚させる。4次元ポケットのようなものでもあったわけだな。
 さて、どう言うわけだか、人間がいなくなった。理由は、妖精にとっての侵略者であるロボットに関わりがあるかもしれないけど、そうでない方が理由がしっ くりくる。その場所を放棄したというのが一番しっくり来るらしい。これは後で説明するとして、とにかく、いなくなる前に人間はあるロボットを作った。それ が、機械妖精ロボットであったらしい。
 妖精は感情や思考を持つために扱いが人間と同じで難しい、それを廃したものを作れないかというコンセプトで作られたのだろう。だけど、この機械妖精は魔 法力を集積する能力がない、もしくは著しく低い。それでは役に立たないのだが、あるシステムでそれを補った。それが、『エナジードレイン』。妖精の蓄えて いる魔力を強制的に奪うシステムであったらしい。
 このために妖精は近づくと魔力を吸い取られて、活動不能状態に陥るというわけだ。つまり、侵略者は機械妖精ロボットということだ。
 パソコンや携帯電話は、エナジードレインのシステムの一部が偶然使用されていたのだろう。発達した科学の世界では現在の機械は旧式過ぎて基本原理が異 なっているために、妖精の世界では、機械が妖精に悪影響を与えることはなかったのだろう。もしかしたら、たまたま旧式の機械が発掘されて、それを稼働させ たところ、そういう現象があったので、それを利用したかもしれないという事らしい」
「でも、それなら、昔からいたということになりますよね、侵略者ロボットが」
「そう。今まで、その侵略者はどこにいたのか? その答えは謎だな。だが、私の推測では、人間によって開発されたものの、さすがに人道的に反するといっ て、封印されたんではないかと思う。そして、長らく忘れられていたものを、妖精の誰かが召喚してしまった。まあ、その妖精は魔力を吸い取られて、もういな いだろうがな」
「なるほど。そう考えると自然ですね」
「南教授の最初の考えは、とりあえず、ロボット相手に生身の人間はまずいだろうと言うので、ロボットに対抗する手段を想像したらしい。それをもとに調査研 究を進めて、妖精が『使い魔』を召喚して、交換召喚した人間がその『使い魔』に乗って戦うという結論に行き着いたわけらしい」
「ロボットアニメみたいですね」
「まさに、そんな感じだね。原動力である妖精も一緒に乗り込むことになるのだが、ロボットが妖精の魔力を吸い取ろうとしても、人間がその防御してくれるシ ステムになっていると考えられる。
 これは、かつて人間がいた時に、機械妖精ロボットに対抗する手段として確立されたシステムだったのだろう。ただ、ロボットが出現した時が、妖精のみと なった世界だったので、そのシステムが機能せずに、妖精はなす術がなかったというわけでだ」
「そのシステムの存在が妖精が人間が必要な理由なんですね。そして、その身体能力はあまり気にしていないという理由でもあると」
「そういうわけだね。最初は妖精たちは、それでロボットたちに対抗していたが、結局、数の上の勝負ですごく不利という事はわかるね。『使い魔』を使って、 ロボット1体と互角とすると、人間と妖精のペアで1体にやっと対抗できると言うことになる。どっちにしても、妖精の有効兵力は人間の数。最大兵力は妖精人 口の半数となるから、当然だね」
「そのために、召喚脱出を計画することになったというのは、先日、南教授に教えてもらったやつですね」
「そうだね。最初は、魔力の強いものを召喚に使うと、つかえる『使い魔』のレベルが下がるので、ぎりぎり召喚できる魔力を持つものが多かったが、今度は、 召喚脱出するための魔力を人間界に集中させるために、魔力の高い妖精を召喚に参加させるようになった。これが鳥タイプが最近増えてきた理由なんだろう」
「なるほど。でも、貴族とか言う特権階級がよく、そういうのに応じますね」
「世界がかかっているんですもの、そんなの当然でしょう?」
「いや、なんたって、相手は貴族様だぜ。世界が滅亡しかけてますってことで、あっさり応じるとは思えないな。話が大きすぎて実感も湧かないだろうし」
「たしかに、その可能性は充分に考えられるね。確かに、魔力の強いものは、それには難色を示していたかもしれない。その反発を抑えるために王族の誰かが自 ら率先して召喚することにしたかもしれない。探せば、純白の羽根の妖精も一人か二人はいるんじゃないかな?」
「見てみたいですね。純白の羽根。きっと、綺麗でしょうね」
「そうだね」
「でも、それにしても、なんで、人間は妖精界に行けないんでしょうね? 行ければ、もっと話は単純だったかもしれないのに」
「そこが、妖精を作ったのは人間なのに、妖精界に人間のいない理由だろう」
「というと?」
「これも南教授の説なんだが、妖精を利用して戦争をする人間に嫌気が差して、妖精が異次元に逃亡したのではないかというのがある。私の考えでは、ちょっと 違うがね。一部の人間が、戦争に利用される妖精を異次元に妖精を逃がしたのではないかという考えだ。そして、人間達の中で魔法の使えるものが、人間の魂が 外に行けないように結界を張った。その結界が作動中で、人間を召喚できないというわけではないかな。これなら、自然だと思う」
「では、妖精は行き来できるのですか?」
「おそらくね。多分、その実例があるから、人間界を逃げ場所に選んだんだろう」
「でも、どうして人間界なんでしょうね。他の次元じゃダメなんですかね」
「人間界に張ってある結界を利用して、機械たちの追っ手を振り切るつもりなんだろう」
「ということは、妖精と一緒に機械も人間界に来るということですか?」
「ああ、多分ね。そうでなければ、妖精が人間界をわざわざ逃げ場所に選んだ理由が見当たらない」
「大変だ!」
「妖精たちが素早くゲートを閉じたとしても、機械がある程度はこちらにやってくるだろう。だが、今度は妖精になった人間も戦力足りうるし、人間になった妖 精も、生粋の妖精もいる。もちろん、大勢の人間もな。有利な戦闘を展開できるだろう。普通に行けばね」
「普通じゃないというと?」
「各国が有利な戦況に自国の利益を優先させたりして足並みが揃わなければ烏合の衆だ。有効兵力がなければ、数の有利は語れない。それに、数の上で有利とは いえ、こちらは侵略者たる機械相手の戦闘は未経験の新兵だ。加えて、相手は必死だ。最初はそれほど楽観できないだろうな。そこを充分に理解していれば、普 通に勝てる。だが、忘れれば、やばいかもしれない」

プルルルルルル プルルルルルル

「はい、こちら特別調査室………………チーフ」
 秘書は困惑した表情を浮かべて、チーフの方へ受話器を差し出した。
「どうした?」
 チーフの問いかけに、秘書は通話をスピーカー通話に切り替えた。
『……コレ以上、妖精ニハ関ワルナ。関ワレバ、オ前タチモ、南ノヨウニナル。クリカエス、コレ以上、妖精ニハ関ワルナ……』
 無機質な音声がオフィスに流れた。
「なんです、これは?」
「知らないわよ、電話に出てから、延々同じ事を繰り返しているんだもの」
「何者なのだ?」
「そうだ! 南教授がどうとか」
「連絡をとってくれたまえ」

 MITに連絡すると、妖精を紹介してくれた女子学生が教授の様子がおかしい事を彼らに伝えてくれた。早速、彼らは、若い高橋君を電話番に残して、MIT へとやってくると、その女子学生が出迎えてくれた。
「よく来ていただきました。南教授、あの日、あなた方が来られた日に出かけて、戻ってきてから様子がおかしいんです」
「どんなふうに?」
「じゃあ、一緒に来てください。……教授失礼します」
「ああ、入りたまえ」
「失礼します」
「やあ、これは先日の。また何か質問でも?」
 南は先日あった時と変わらなかったが、背広ではなく、赤いジャージを着ており、部屋に張ってあったきつねの写真ははがされ、代わりに眼鏡をかけた小学生 らしき少女の写真が壁を占拠していた。
「いえ、近くを通ったものですから、先日のお礼に」
「いやあ、すまないね。あの事は忘れてくれたまえ。私もバカな事を行ったものだと反省している」
 南がいきなり頭を下げた。
「?」
「妖精が電池? 妖精界が人間界に来る? まったく、どうかしていたよ」
「教授?」
 いきなりの言葉に調査室の面々は面食らって、どう対応すべきか、戸惑っていると、案内してくれた女子学生が、すっと会話に割り込んできた。
「教授。お昼を頼みますが、なんになさいます?」
「そうだね。今日は月見そばをお願いするよ。おっと、そうそう、今日は3時から日○小学校である集会に出かけるので、そのつもりでいてくれたまえ」
「はい、わかりました」
「それでは、お昼時にすいませんでした。ご用事もおありなようなので、私たちはこれで」
「ああ、すまないね。――果○ちゃん、今日は集会にきてくれるかなぁ?」
 その呟きを背に受けて、調査室の面々は教授の部屋を後にした。
「どうです? 変でしょう?」
 女子学生は不安な表情を隠しもせずにチーフに訴えかけた。
「ああ、確かに。自説を曲げるとは、よっぽどの事だろう」
「そうなんです! 南教授がお昼に『きつねうどん』以外を頼むなんて信じられません。いつもはお稲荷さんとセットなのに。それに、ここしばらく、子狐に会 いに行っていないんです。近くの動物園に今年生まれた子狐を毎日のように見に行っていたのに、それを聞いても、『もう、そんなことはどうでもいい』という んです。あんなの、南教授じゃありません」
「ふむ。何かあったのかな?」
「あ、あのー……」
 チーフが考え込んでいると、ぱたぱはと羽音を響かせて、一人の妖精が近寄ってきた。
「君は確か、雛子君だったけ?」
「はい。憶えてくれてたんですね。あの、あたし見たんです。あの日、教授が子狐に会いに出かけていこうとした時に、ワンボックスの車から赤いジャージを着 た男たちが出てきて、教授を攫っていくのを」
「なに! 本当か!?」
「はい。でも、教授も何事もなく、帰ってきましたし……それに、あたし、怖くって、誰にもいえなかったんです。ごめんなさい……」
「謝ることはないよ。よく言ってくれた」
「あの……」
「どうかしたのかい?」
「教授が、もし自分に何かあった時は、信頼のおける人間に渡して欲しいものがあると言われてるものがあって……」
「なに!」
「これも何かの縁だと思うので、引き取ってくれませんか?」
「しかし……」
 女子学生のほうをちらりと見た。
「私は別に構いません。私よりも、あなた方のほうが有効に活用してくれそうですし、教授がああなったということは私も……」
「そんな事にならないように……充分に気をつけるんだよ」
 それだけかよ! という突っ込みは入れる人物も居らず、唖然としている女子学生を他所に、チーフと秘書は雛子に案内されたロッカーを開けると、お菓子袋 が溢れかえっていて、その奥からDVD−RAMを取り出した。
「これです。キーワードは『MORUMO1/10』だそうです」
「ありがとう。きっと、南教授の無念を晴らして、敵を取ってあげるよ」
 まだ死んでいないと、雛子は突っ込みを入れようとしたが、入れてはいけない気もして、差し控えておいた。

「これもだめ!」
 パスワードエラーの警報音が響いて、秘書は椅子の背もたれに体を預けた。
「難航しているようだね」
「パスワードがわからなければ、どうしようもありませんわ」
「こまったな。てっきり、『MORUMO1/10』と思っていたが、どうも違うようだし」
「考えてみれば、パスワードを口頭で伝えるはずありませんものね。何かの暗号が隠されているのでしょう」
「しかし、君がここまで苦労するとは、珍しい」
「私も人間ですから」
 彼女は苦笑を浮かべた。正真正銘のUSAのMITを卒業した才媛もさすがに今回はお手上げらしく、肩をすくめた。
「たっだいまー! どう調子は?」
「あなたは気楽でいいわね」
 陰鬱な気分の彼女にとっては、陽気な高橋ほどいやな相手はいなかったので、露骨にいやな顔をした。
「そんな言い方はないんじゃない? パスワードは解けた?」
「まだよ」
「まだ、かかってるのか。キーワードを教えてもらったんだろう。パパっとそれを打ち込めばいいんじゃないのか?」
「それがダメだから、こうしているんじゃないの! 『MORUMO1/10』なんて、何度も打ち込んだわよ!」
「『MORUMO1/10』?」
「そうよ!」
「じゃあ、簡単だ。ちょっと、どいてくれ」
「えっ?」
 驚く彼女を席からどかせるとキーボードに向かって、なにやら呪文なような言葉を呟いた。
「えーと、じゅげむじゅげむごこうのすりきれ……」
「ちょっと?!」
「よし、入力終了」
 パスワードOKとプロテクトが外れたことの確認画面が現れた。
「うそ?! どうして?」
「『MORUMO1/10』に出てくるマッドサイエンティストのコンピュータのパスワードが、『じゅげむ』だったんだよ。それに引っ掛けたんだろ? そん な事にも気が付かないなんて、才媛の名が泣くぜ」
「そんなの気が付くか!」
「とにかく、パスワードは解けたんだ。どんなデータが入っていたんだ?」
「そ、そうですね。えーと、映像データのようです。再生してみますね」
 映像データを再生ソフトにかけた。しばらく乱れた画像の後に、最近に何度か見た人物が画面に現れた。
「南教授……」
『……この映像を見ているということは、私は既にこの世の人間ではないのだろう。しかし、私が死すともきつね萌えはなくならないのだ! ……いや、すまな い。関係ない話だったな。私は、軍関係より、妖精界の秘密を入手する事に成功したが、それ以来、度重なる妨害を受けてきた。赤いジャージの男たちによっ て。これを見ている諸君も充分に気をつけるように。これは、軍によって製作された妖精界の闘いの真実なのだ。
 軍はここまでわかっていながら、民間に公表していない。私は、この事実を公表するべく、この身がどうなろうとも戦うつもりだ』
「しかし、『この身』は保ったけど、『好み』は変えられてしまったな」
 チーフは自分の萌えすらも変えてしまう敵に、少しうそ寒いものを感じた。
『それでは、君たちに未来がかかっている。よろしく頼む』
 そして、自主制作映画よろしく、カウントダウンの数字が踊る。
……5……4……3……2……1……
 『使い魔』の目を通して映し出される映像にエノレフィンはうんざりした。緑だった大地を埋め尽くすのは黒く無粋な金属の塊。それらの放つ波動は妖精たち を活動不能にする。こうして、人間によって守られたコックピットの中でも、その不快な波動を感じずにはいられない。それが例え錯覚だとしても、事実、不快 な事には変わりない。
「殿下。そろそろ、号令をかけてください」
 『使い魔』のパイロット、エノレフィンのパートナーである人間となった妖精、アヒカノレは目の前に広がる絶望的な風景も、風光明媚な観光地を眺めるかの ような、そんな感じを受ける、のんびりとした口調でエノレフィンに催促した。
「はぁ、あなたは肝が据わってていいわよね。他の兵士は浮き足立っているわよ」
 少数精鋭といえば聞こえはいいが、内情はそうでも言わなければやってられない。彼我の兵力の差は歴然としている。浮き足立たない方が、どうかしているの である。
「女の人は肝が座っているんです」
「つい最近、なったばっかりで、最近まで男だったくせに」
「そうでしたっけ?」
 少し知的な顔を小首をかしげてとぼけて見せた。そのささやかなギャップが、エノレフィンにもおかしかったのか、硬かった表情を少し和らげた。
「そうよ。しかし、あの敵の数を見れば、男も女も関係なく、浮き足立ちたくもなるわよね」
「その為にも、殿下の激励が必要なんですよ。殿下の激励は、兵士にとっては100万の援軍よりも心強いですからね」
「それじゃあ、回線を開いて。あ、それと、二人だけの時は、エノレフィンでいいっていってるでしょ?」
「そうでしたね。おやじ達にやかましく言われるので、つい」
 ぺロっとかわいく舌を出して、肩をすくめた。
「そんな事を殊勝に聞くタマでもないでしょうに」
 そんなおどけた表情を苦笑を浮かべた。
「そうでもないですニャー♪」
「そうやって、ふざけてなさい」
「さて、それでは、回線開きます。エノレフィン様」
 エノレフィンはそれまでの表情を一変させて、真剣そのものでマイクを手にとった。
「……勇猛果敢なる兵士諸君! 決戦のときが近付いて来た。私、エノレフィンは諸君の働きを期待する。だが、国を守るとか、家族を守るとかは考えるな!  私が諸君に欲しているのは、敵を倒す事ではない。生きて帰ることだ! 私は諸君が生きて帰れるように最大限に努力する。だから、私を信じて、ついてきて欲 しい! こちらには常勝アヒカノレがいる。私たちは絶対に勝つ。勝って、生きて帰れる! これは命令です。死なないで生きて帰れ。以上」
「回線閉じました。兵士達の士気も上がったようですね」
「アヒカノレ。ワタシはバカだね。たくさん死ぬってわかっているのに。それに、うそつきだね。死ねって命令する事もあるのに」
「そんなことは後で考えましょう。私も早く帰って、シオちゃんにミルクあげなきゃだめだから、シオちゃんはミルクが続くと機嫌が悪いんです。早く帰って、 お乳をあげないとね」
「あなたと話していると、自分がバカみたいに思えてくる」
「あれ? エノレフィン様はバカじゃなかったんですか?」
「もうっ!」
「それじゃあ、一つ頑張るとしましょうか。100人の戦死者を101人にしないように」
 戦闘の発端は通常どおりのお互いの前衛に砲弾を打ち込むことから始まり、その砲弾の中を前衛同士が距離を詰めて、混線に持ち込む。前衛に支援砲撃できな くなると装填に時間がかかる砲撃をやめて攻撃力を下げた中距離弾を本陣に打ち込むが、お互いにそれは結界によって被害を最小限に抑えあう。そうしている間 に右翼と左翼が各々、敵陣を引き裂くために蠢動を始める。それをさせじと、それに呼応するようにまた軍が蠢く。数の上では圧倒的に少ないが、その分を補う 火力や機動力、そして気力で妖精軍は善戦していた。しかし、気力がいつまでも持つものでもなく、徐々に劣勢にたたされていっていた。
 何度かお互いに再編のために軍を退き、その度に明らかになってくる劣勢。じわじわと染み込む恐怖が妖精軍の士気を奪ってくるのがわかるだけに、エノレ フィンは爪を噛んだ。
「右翼にひびが入ってますね。何とか、楔は打ち込まれないように粘ってますが、打ち込まれるのも時間の問題でしょう」
「あと少しで、こっちも、相手の中央と右翼の間に楔を打ち込めるのに!」
 やっとの事で作った好機が味方の窮地と天秤にかけられた。逆にいうと、窮地を作る余力で好機を掴んだともいえないくもない。
「おそらく、相手のほうが早く打ち込むでしょうね。右翼を捨てますか?」
 あっさりと言い放つアヒカノレに眉根を寄せた。
「後衛をバックアップさせれないの?」
「退路を確保しなくていいのなら」
「嫌な言い方しないでよ。こっちから回せない?」
「そうなれば、楔を打ち込むのに時間がかかります。ここで勝つための最善の策は右翼の兵力を中央に寄せて残りを捨てる。肉を切らせて骨を断つ。相手の右翼 を分断できれば、この後の展開が楽です」
「できるわけないでしょう」
「ですね。今後の戦闘を視野に入れるなら、得策ではありませんね」
「試した?」
 あからさまに機嫌の悪い表情を見せた。
「いえ、信じてただけです。まだ、冷静のはずと」
「で、そういうからには策があるんでしょうね」
「さあ? オノレフィーナが、お客人をもてなす用意を何かしているはずです」
「……あなたの妹君を信じましょう」
「中央から右翼に兵を裂きます。こちらは楔を打ち込むことは出来ませんが、右翼の入り込もうとした楔は押し返せるでしょう。それをきっかけに、相手もこち らの楔を押し返して、来るでしょうから、無理せずに引きます。相手も余剰はないので、深追いしては来ないでしょう。してきても充分叩けます。引いた後に間 が空きますので、そのタイミングを逃さずに、この丘を放棄して、谷まで退きます」
「ちょっと! それじゃあ、不利になるじゃない」
「オノレフィーナが『危なくなったら、この丘を捨てて。でも、できれば、混戦状態で退かないでください』と言ってましたから。どうします? あと少しで戦 況が変わるので、その後なら少し被害が出る退き方になりますよ」
「ああ、もう! 何で、こう、時間がないの。わかったわよ。さっさと撤退して」
 アヒカノレは手早く命令を下して、楔を打ち込もうとしている兵力の一部が中央に戻し、右翼にその分が割り振られる。タイミングを間違えば、相手に打ち込 もうとしている楔は崩壊して、逆にピンチを迎えるのに、あっさりとそれをなしえてしまう。増強も的確で、一瞬、ひびを大きくして、虚をついて、半包囲のよ うな陣で楔の先端を集中的に叩く。それによって、先頭で混乱した楔が本隊へと戻ろうとして、本隊側の機械と混雑混乱状態を招き、そこを一気にひびを埋め て、押し返す。
 アヒカノレの予想通りにことが運び、妖精軍は粛々と丘を放棄した。当然のように機械軍は丘の頂上に陣を進める。突撃するのも、砲撃するのも、丘の上が有 利なのはどこの世界でも同じである。
 しかし、それが機械軍の致命的ミスとなった。
 ゴウンッ!!!
 機械軍が丘の上に陣を展開した頃に丘の頂上が喪失したのであった。
「なに?!」
 当然、丘の上に展開した機械軍の大半も姿を消した。
「全軍突撃ぃ!」
 それを予期していたのか、アヒカノレは驚いているエノレフィンに構わず、全軍に命令を下した。谷まで退いていた妖精軍は、そのいきなりの号令にわけもわ からず反応して、丘の上の敵陣を目指した。
 降り注ぐはずの弾もなく、あっさりと丘の上にたどり着いた妖精軍は、その理由にやっと、納得した。
「落とし穴……」
 丘の頂上部がカルデラ火山の火口のように窪み、念入りに底には尖った岩が剣山のように無数に突き出しており、機械達がその餌食になっている。完全に統率 を失った機械軍は混乱の中でその窪みから脱しようとしていた。
「砲撃兵は短距離砲で、落とし穴の残存兵力を殲滅。敵右翼全部と中央と左翼の一部がまだ残っている。左翼と中央は敵右翼と中央を半包囲、右翼は敵左翼を包 囲掃討。深追いはするな逃げる分は逃がしておいていいから」
 アヒカノレの命令で掃討戦が展開された。
『殿下、アヒカノレ様。ご無事でしたか?』
「落とし穴なんて! オノレフィーナは何を考えてるのよ! ワタシたちがいたときに落ちたらどうするつもりなの!」
『申し訳ありませんです。でも、魔法力で、天井補強した落とし穴ですから、妖精がいくら乗っても落ちません。混戦になると危ないので、その前に退いてもら うようにお願いしました』
「機械が魔法力を吸い取ることを見越したブービートラップだね。機械にスキャニングできないように細工しておいたわけだ。うん、よく出来てる」
『ありがとうございます、アヒカノレ様』
「こっちは心臓に悪い!」
『申し訳ありません、殿下』
「あなたたち兄妹は、そろいも揃って、物覚えが悪いのね。個人的回線なら、名前でいいって言ってるじゃない」
『申し訳ありません。エノレフィン様』
「まあ、勝てたから、いいとしましょう。このトラップ作成の標準書を作っておいてね。他でも使えそうだし。できれば、この応用バージョンも」
『了解しました、エノレフィン様。すぐに提出します』
「さて、ワタシたちも行きましょうか。アヒカノレと一緒に出陣するのはこれが最後になるでしょうし、思う存分暴れ収めしないとね」
「……残念です」
『……』
「別に死ぬわけじゃないのよ。ちょっと、人間になるだけじゃない」
「シオちゃんはエノレフィン様のふわふわの羽がお気に入りだったのに……」
 アヒカノレは心底、残念そうに呟いた。
「それはお生憎様でした!」
「しかたありませんね。王族の務めですから。しかし、今度は失敗できないですね」
「あれは失敗といわない! 召喚相手が間抜けなだけよ」
『たしか、召喚しようとしたら、相手がお風呂場で寝てて、呼びかけようとする前に溺れかけて、目を覚まされたんですよね』
「さすがはエノレフィン様と魂を同じくする人ですね」
 アヒカノレは実に楽しそうであった。
「……何が言いたいわけ、アヒカノレ! ワタシはあんなに間抜けじゃない!」
「向こうも同じように思ってますよ。自分は間抜けじゃないって」
「う〜」
『アヒカノレ様ぁ〜、あんまり、エノレフィン様をいじめないでくださいよぉ』
「いじめてないわよ。からかってるだけ。さーて、さっさと、済まして、帰りましょう。シオちゃんにお乳をあげるのと、エノレフィン様の羽根にもしばらく触 り納めだから、思う存分触らせてあげないとね」
「いや〜! ヨダレまみれになるのは、いや〜!!!」
 こうして、ゴタゴタの丘会戦は妖精軍の勝利に終わり、撤退までの猶予を稼ぎ出したのであった。
………………………………………………
夕日に沈む戦場をバックにスタッフロールが流れる。
………………………………………………
声優……
エノレフィン……長谷川美女臣
アヒカノレ……滝三尺汐海
オノレフィーナ……比條巴
脚本……
南文堂
演出……
まんぼういるか
製作……
陸軍仲野予備校

 そして、映像は終了して、パソコンの画面は通常の壁紙へと変わった。

「どう思う?」
 チーフは一緒に見ていた二人に話し掛けた。
「もうちょっと、機械との戦闘の描写を細かくしてくれると臨場感が……それと、フルポリゴンのメカはきれいですけど、動きが滑らか過ぎて重量感がないです ね。キャラクターの作画とも差があって、かえってマイナスポイントですね」
 と、高橋。
「内容的にも魔法が全然出てこないのも少しさびしいですね」
 と、秘書。
「そうですね。話の内容的にもオチもご都合主義的でしたし、もう少し、凝ってもよかったのではないかと思いますね。それと、中国の下請けに発注したのか、 作画のスタッフが全員中国人だったのはいいのですが、ちゃんとしたところに頼まなかったんでしょう。結構つくりが雑でしたね」
 と、再び高橋。
「そうですね。時々、素人の私でも気が付くような粗がありましたし。それと、もっとキャラクターにも凝った方がよかったかもしれませんね」
 と、こちらも再び秘書。
「別に作品の批評を聞いたわけではないが、まあ、そのとおりだな。これが軍で製作したという事らしい」
「……色々な意味ですごいとしか言い様がありませんね。軍製作のアニメーションって」
 二人の感想は、共通であった。

♪ちゃんちゃんちゃんちゃん ちゃちゃーちゃんっ

「携帯電話が鳴ってますよ、チーフ」
「切れてしまっている。ダイヤル発信者は……謎の人Mr.JR。何者だ?!」
「リダイヤルで返信してみては?」
 言われるまでもなく、リダイヤルをするチーフ。ワンギリのだったら、どうしようか、ちょっとドキドキであった事は秘密である。
『もちもち……』
 しかし、電話に出た声は、全員が予測していたどの声とも違っていた。ちょっと、生意気盛りの幼い男の子の声であった。
「?」
『ああ! こらっ! とおさんの携帯に悪戯するんじゃありません! きっちゃだめ! めっ!』
 なにか、どたばたする音が聞こえていたが、すぐに収まった。
「あの〜……」
『あ、すいません。ちょっと、油断した隙に……えーと……(発信者確認中)……(滝汗)』
「もしもし?」
『ふふふ、さすがだ、特別調査室諸君。もう、ここまで調べ上げているとはね』
「え、えーと……我々の調査力を見くびってもらっては困りますね。Mr.JR」
『よく憶えておこう。しかし、君たちの調査は無意味だ』
「そんなことはない。私たちの調査で、妖精の秘密に光を当ててやる。そして、貴様もな、Mr.JR」
『ふふふ、若いな。うむ、若い。悔しいが、私よりも若い。いいんだよ、どうせ、私はおじさんさ……』
「……」
『と、とにかく! 君たちの調査結果は間違っているのだよ。いくら矛盾点がなくても、それだけは仕方ないのだよ』
「なに?! どういうことだ、Mr.JR」
『もう、決めてしまった設定は変えられないのだよ。ちょっと早まったと思っても、それで突っ走るしかないのだよ。ふははははははは……はぁ……』
「よ、よくわからないが、貴様の思い通りにはさせないぞ」
『そんな事、言われたって、もう仕方ないのだよ。シェアワールドにしてるから、そっちで書くという手がある。パラレルワールドってことで、それじゃ、だ め?』
「シェアワールドって……」
『あ、ちょっと、失礼……――はいはい、行きますよ。そんなに慌てなくても、特売の卵は売り切れませんって。……――え? トイレットペーパーもあるから 急がないとダメ? ……――お一人様一つだから、並ばないといけないのか? ベンチで座ってたらダメ? ……――ああ、ごめんなさい、ボーナスお小遣いが ないとオフ会に行けないの〜…………』
「もしもし?」
『……(まったく、人使いの荒いブツブツ)……あ、えーと……ふふふ、それでは、これ以上、深入りする事は君たちの幸せにもならないぞ。これは忠告だ。い ずれ時がくれば明かされるのだから、その時を待て。それでは、さらばだ。ふはははははは(バンっ!)っげほっげほっ、こら、背中を叩くんじゃありません!  ああ、折角、かっこよく去ろうと……あっ、はいっ! すぐいきます! それではさらばだ! ぷつっつーつー』
「……」
「チーフ……」
「報告書を作成してくれたまえ。結論。妖精はよくわからない。それ自身も、それに関わる人も」
「はい。チーフ」
「しかし、だからこそ、人を魅了するのかもしれないな。それでは、この件はこれで、調査を終了する」

 こうして、妖精の謎は再び闇へと消えたのであった。しかし、数年後、数年後までにはきっと全てが明らかになっているのだろう。
 そう願う、特別調査室の面々であった。

――調査終了――


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