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妖精的日常生活 第 14話

少年少女文庫版おまけSS

あの日の夜にあったこと

by ジャージレッド




「自分と同じサイズの妖精に囲まれるのは良いとしても、私はパーティーなんて嫌いよ。隠された目的が、妖精狂いの季節のお相手を見つけることだというなら なおさらね」

 しつこく今度の妖精の集会に出かけるように勧める剣持さんに対して、私はできる限りの忍耐力を総動員して丁寧にお断りをしていた。なんだったらこのまま 外に飛んで逃げて行っちゃいたいくらいの気持ちなんだから、私の努力を評価して欲しい。

「まあ、そう言わないで。詩衣那君はもっと他人と交流したほうがいい。せめて研究所の中だけで残りの人生を過ごすだなんてことは言って欲しくないんだ」

 さらにおせっかいを焼く剣持さん。私が人間だった頃、彼とは恋人同士の関係になるまであと1歩というところだったからかもしれないが、何かと世話を焼き たがって困る。

「ダメなものはダメ。妖精狂いの季節のお相手は、またおじい様に見つけてもらうわ。かわいい女の子の妖精をお願いするから問題ないわけ。集会に出て探さな くてもね」

 もうこれで話は打ち切りということで、私は剣持さんに部屋から出るようにと手で合図をした。しかしいつもなら素直に出て行くはずなのに、今日ばかりは様 子が違っていた。

「今度、白い羽をした妖精の女の子に研究の手伝いをしに来てもらうことは話したけど、実は彼女もその集会には出席すると思うんだ。いや、こんな娘なんだけ どね」

 いつも着ている白衣のポケットから、剣持さんは写真を1枚取りだすと、それを私の前に差し出した。白い羽を背中に生やし青い髪と目をした妖精少女をその 写真の中に見た瞬間、私は心のスイッチが切り替わるのを感じていた。
 ほとんど無意識のうちに、その写真に手が伸びた私は、妖精の私からするとちょっと小さめのポスターぐらいの大きさが有るその写真を剣持さんの手から奪い 取っていたのだった。

「可愛い娘だろ? 詩衣那君が好みそうなタイプだと思うんだけど」

 剣持さんは私が写真を手に取ったことを、単純に私がその写真に写っている妖精少女が好みの娘であるからだと思っているようだ。しかし事実は違う。

「この妖精の女の子、なんだか妖精召喚事件全体に関わってくるような気がする……」

 写真に写っている女の子から視線をそらすことなく、私は、自分の印象を素直に口にしてみた。

「また予知かい? まあ、何にしても関心を持ってくれたことは嬉しいけどね」

 妖精の魔法を強化増幅し、有効利用しようという研究をしている剣持さんでさえ、機械によって計測されない種類の魔法というものは信じられないらしい。ま あ、いつものことだけど。

「いいわ。今度の集会には出てみることにします。この娘に会えるなら、ちょっとくらいのわずらわしさなんか何でもないわ」

 私は剣持さんに笑顔を向けた。それにしてもこの感覚。懐かしいような、それでいて気圧されるような感覚は何だろう。私が持っている蝶の羽のような虫の羽 ではなく、鳥の羽をした妖精はもともとの妖精世界においては王族や貴族クラスの階級に属しているらしいということは分かってるけど、まさかそれが理由とい うわけでもないだろうし。

「そうか、行く気になってくれたのか。きっと良い気分転換になるはずだよ」

 私が久しぶりに笑顔をみせたからだろうか? 剣持さんも妙に嬉しそうにしている。まったく子供なんだから。

「それで、この娘の名前はなんていうの?」

 背中から生えている蝶の羽をゆっくりと動かし、私は剣持さんの顔に近づく。

「美しい姫と書いて美姫、長谷川美姫君だ」

 その名前を聞いた瞬間、私の中でその妖精の女の子のイメージは、かわいいプリンセスそのものになってしまった。




「……看板に偽りあり。ということなのかしら?」

 ビルの屋上に設けられた妖精の集会会場のテーブルの上で、私は隣のテーブルで繰り広げられている馬鹿騒ぎを見ていた。そこには写真そっくりの顔をした妖 精少女、長谷川美姫さんがいたのだが、とてもその行動は、『かわいいプリンセス』からは程遠いものだった。

「それにしてもなんてメンバーが揃っているのかしらね」

 私は同じテーブルにいる子供を連れた、おそらく妖精の夫婦達と一緒に食事をしながら、ちらりちらりと美姫さんの様子を見ている。ちなみに妖精狂いの季節 の際のパートナーを探すのが真の目的であるこの妖精の集会で、子供がいる夫婦の妖精達が集まっているこのテーブルほど落ち着けるところは無い。まあ、独り 身の私だけが浮いた格好になっているが、独り者ばかりが集まるテーブルで男女双方の妖精から迫られるよりはよっぽどましである。

 それはともかく問題は美姫さんがいる隣のテーブルだ。日本で一番最初に妖精に召喚されたという大島眞利菜さんだなんていう超大物もいるし、あのコウモリ 羽の男の子は最近このあたりで有名な滝沢海斗君ではないだろうか? それから有名といえばあの軟派でヒモな佐々山時雄さんもいる。もう1人の可愛らしい男 の子のことは知らないけど、あれだけの美形な少年は、もともと美形ぞろいの妖精の中でも群を抜いている。

「ほんとに、つくづくすごいメンバーで集まっているわね」

 周りで騒いでいる子供達の相手を適当にしながら私は、『さてどうしたものか?』と考えていた。私自身としては、なぜか心ひかれる美姫さんに会って、話で も出来ればと思ってここに来たのだが、このままでは落ち着いて彼女と話が出来る機会などとれそうにないからだ。

「ま、どうせもうしばらくしたら研究所のほうにやってくるっていうし、今日のところは顔を見られただけで良しとしたほうが良いのかしらね」

 誰に話すでもなく、私はそうつぶやくと、もう少し食事をしてから帰ってしまおうと決心した。しかし私が食事をしている間に、事態は大きく進展していたの である。



「あはははははーーーーッ♪ みきちゃん、なんらかきもちいい〜〜」



 聞こえてきたその声に、私は食事をする手を休めて美姫さんがいるテーブルをふりかえる。この声はもしかしなくても美姫さんの声? いったい何があったん だろう。

 何となく想像出来なくもなかったが、実際に見て確信することが出来た。美姫さん達は酒盛りをしていたのだ。
「まったく、しょうがないわねえ」

 このような集会に来た妖精達が、夜も深まり酒盛りを始めることはよくあることである。実際に今の時期、つまりは発情期である“妖精狂いの季節”以外の時 期における妖精の最大の楽しみと言えば、飲むことと食べることしかないということを思えば、当然のことと言っても良い。

 しかし、限度というものが厳然としてあるということもまた事実なのだ。私は紫の蝶の羽を優雅に展開すると、ふわりと浮き上がって隣のテーブルに向かって 飛んだのだった。



「あッ! おきゃくさんら〜。こんばんわ〜」

 目ざとく上空の私を見つけた美姫さんが、私に向かって手を振っている。なんというか、もう完全に出来あがっているじゃないの。私は大きな不安を抱えなが ら、テーブルの上の美姫さんたちがいる場所に着地した。

「お邪魔しても良いかしら?」

 私としては美姫さんとだけで話がしたかったのだけど、不本意ながら美姫さんと酒盛りをしているその他メンバー4人に対しても挨拶をするのだった。

「ええ、けっこうですよ。美しいお嬢さん。ああ、今夜はなんてすばらしい夜なんでしょう。2人が出会ったこの瞬間に乾杯させてください。ささ、どうぞ♪」

 白いスーツを着こなした妖精の男が私にグラスを勧める。香りからするとワインだろう。

「ありがとう」

 グラスを受け取った私は礼を言うと、そのグラスを軽く上に持ち上げて乾杯の気持ちを伝えた。

「こちらこそありがとうございます。私の名前は……」

 同じく手にしたグラスを軽く上げると、彼は自己紹介を始めようとする。しかし私はそれをさえぎるのだった。

「待って。あなたの名前は存じておりますわ。佐々山時雄さんでしたっけ」

 ちょっとだけ笑みを浮かべながら、私は彼の名前を言い当てる。

「おや、これはまことに光栄な! あなたのような方に私の名前を覚えていただいていたなんて!」

 大げさに驚いて感動してみせる佐々山さん。演技がかったその言い方を好ましいと思う妖精の女もいるのだろうが、私は違う。というわけでちょっと意地悪を することにした。

「だって佐々山さんって言ったら、女とみれば誰かれ構わず口説きまくるということで有名ですもの。貢がせるだけ女に貢がせといて、『お礼は子宝で』なんて 言われそうで怖いですわ〜♪」

 コロコロと響く笑い声をたてながら、私は佐々山さんを撃退した。にこやかでいながら辛らつという、このような反応は予想していなかったのか、次の言葉が 出てこない佐々山さん。勝負ありね。

「それはそうと先ほどから隣のテーブルから見ていましたけど、未成年の女の子にお酒を飲ませるのはやめたほうが良くありませんか?」

 テーブルの上にぺたんと座り、クスクス笑いながら幸せそうな笑顔でグラスを傾けている美姫さんを指差しながら、私はその場のメンバーに向かって言うの だった。

「まあまあ、そうは言いますけど、戸籍上はともかく肉体的には妖精の年齢なんて本当のところは分からないんですから、ちょっとは大目にみてもらっても良い んじゃないですか?」

 ここのメンバーの中で唯一、私が名前を知らない超美形の男の子が、私に話しかけてくる。白い肌がほんのりと赤くなっているところをみると、この子もそれ なりに飲んでいるらしい。それにしても、まるで女の子のように美しい妖精の男の子。男ものの服を着ていなかったら、本気で女の子と間違えてしまいそうだ。

「はいはいはい、みきちゃんはもうおとらで〜す。あははははっ♪」

 会話に割りこんでくる美姫さん。まったく、大人がそこまで我を忘れるほどお酒を飲んでどうしますか。

「こんな状態になるまで飲んじゃうなんて子供の証拠です」

 美姫さんをにらみつける私。まるで幼稚園の保母さんになった気分。

「みきちゃん、おとらなのに〜」

 笑っていたかと思えば泣きだすし……。私は頭を抱えたくなってきた。こんな調子で研究所にやってきて大丈夫なんだろうか?研究所に美姫さんがやってきて も、絶対にお酒を飲ますことだけはしまいと私は決心するのだった。

「まあまあ、私たちだって限度を見ながらやってますから、そんなに心配することはないですよ。それはそうと加賀詩衣那さん、いつもお世話になっています」

 さすがに何度か顔を会わせたことがある大島さんである。酔ってはいても私のことを、ちゃんと分かっているらしい。酔ってほがらかになっているのとあい まって、大島さんの営業スマイルも輝いている。私も大島さんに対して軽く頭を下げて挨拶をした。

「こちらこそ。それはそうと、見たところ既にこの娘は限界じゃないですか?」

 私は疑問を口にした。だいたい全員が酔っぱらっているんだから、『限度を見ながらやってます』という言葉も、あまりあてにならないし。

「らいりょうぶ、らいりょうぶ♪ みきちゃんげんき〜」

 くるくると表情を変え、にっこりと微笑む美姫さん。うう、可愛い……。抱きしめたいという衝動を抑える私だったが、これはちょっと酔い過ぎです。

「まあ、そういうことにしておきましょうか。でも美姫さんにはもう飲ませないほうが良いと思いますよ。美姫さんに飲ませるくらいなら……」

 そして私は、手にしたグラスのワインを空けた。うん、なかなか飲みやすくて良いワインだ。

「美姫さんに飲ませるくらいなら、私が飲みますって言うんですか? いやあ、お姉さんもけっこういけますね〜。あ、僕の名前は山本夏樹です。以後お見知り おきを」

 さっそく、空のグラスに新しいワインを注ぐ夏樹君。まあ、下手に『美姫さんにもうお酒を飲ますな』と言うよりも、私が飲んで彼らの相手をするほうが早い かもね。

「ま、人並み以上に飲めるほうだと思っているわよ。というか、美姫さんって妖精にしてはお酒が弱すぎるんじゃないかしら。こんなにも酔っぱらっちゃう妖 精って初めて見るわ。それともこれだけ酔っちゃうほど大量に飲んじゃったのかしら?」

 空のワインボトルを抱えて何やらクスクスと笑っている美姫さんを見ながら私は首をかしげた。

「さあ、そんなことはないと思いますよ。だって最初に一口飲んだ瞬間からこうですから。ほら、このお酒ですけど、普通のカクテルでしょ?」

 夏樹君は、美姫さんが最初に飲んだというお酒を持って来てくれた。

「あ、そのお酒、私も好きなんですよね。飲みやすくて」

 大島さんもお酒を取りに行く。もちろん自分で飲むためらしい。その途中で固まっていた佐々山さんの肩を叩いて蘇生させると何やら話している。どうやら一 緒に飲もうと誘っているらしい。

「ふうむ、普通のお酒ね。……もしかして美姫さんって極端にお酒に酔い易い体質なのかしら?」

 夏樹君が運んできてくれたそのカクテルをくいっ空けると、私はとりあえずそう結論することにした。

「あ〜、みきちゃんも〜」

 グラスを欲しがる美姫さんだったが、私はお酒の代わりにオレンジジュースを手に取ると美姫さんに渡した。

「こっちもおいしいわよ」

 ニコリと微笑みながらそう言いきる私。酔った美姫さんの頭に暗示効果があれば良いんだけど。

「うん♪」

 美姫さんが素直で良かった。美姫さんはオレンジジュースを飲んでいる。これなら安心かな。というか既に何を飲んでもわけが分からない状態?

「……加賀詩衣那って、あの加賀重工の? だったら、あんたに会ったら一度言いたいことが有ったんだ」

 一段落ついたと見たのか、コウモリ羽を出したまま黙々とお酒を飲んでいた滝沢海斗が、手にしたグラスを一気に飲み干すと、私の顔をにらみつけてきた。

「聞いたところによると、【妖精狂いの季節】の時に同性同士で【巣籠もり】しようだなんてことを考えて始めたのはあんたらしいな。まったくよけいなことを する……」

 何故か低い声で私に因縁を付けるように話す滝沢君。もしかしてこいつもしこたま酔っているっていうの? まったくもうッ!

「見たところあなたは、最近このあたりの妖精たちの間で有名な滝沢海斗君だと思うんだけど、当たっているかしら?」

 妖精の間で出まわっている手製の地域誌で一度写真を見たことが有るから、見間違えようはずがない。私は確信を込めて目の前の妖精の名前を呼ぶのだった。

「ああ、そうだよ。オレの名前は海斗。滝沢海斗さ。人間だった時には別の名前だったけどな」

 どこか暗い雰囲気を漂わせている海斗君。やっぱりというか当然というか、彼もまた酔っているようだ。それも美姫さんに次いで2番目くらいに。

 というわけで私も対抗上、手近なところにあるグラスに手を伸ばし更にアルコール分を補給することにした。酔っぱらい相手にしらふで対抗出来るほど私の人 格は丸くないのだ。 

「あらそう。確かあなたは人間だった頃は女の子だったと聞いたけど、ちっとも女の子らしさが残ってないのね。すっかり妖精の男に順応しちゃって……。なん だかそれはそれで幸せそうね。もちろん皮肉だけど」

 そう言いながら、既に空けてしまったグラスを夏樹君に示し、追加を持ってきて欲しいと身振りで示す。夏樹君もわざと大げさに驚きながら私の言いたいこと を理解したようだ。

 大島さんと佐々山さんは少し離れたところで、何やら話しながら飲んでいる。夏樹君は追加のお酒を取りに行っている。そして美姫さんは酔っぱらってわけが 分からなくなっている。図らずも私と海斗君は2人だけで話をすることになった。

「幸せなもんかッ! それよりもお前が妖精の巣篭りなんて習慣を広めたものだから、こっちは迷惑をしてるんだ。まったく、分かっているのかッ!?」

 からみ酒のようだ。まったくどっちが迷惑だと思っているのだろう。私はちょっと酒くさいため息を吐くのだった。

「そうでしょうね。噂によるとあなたは“妖精狂いの季節”になると、佐々山さん顔負けの感じで女の子を口説きまくって、子種までプレゼントするらしいじゃ ない。確かにあなたみたいな女好きにしてみたら、妖精の女の子同士がペアになっちゃう巣篭りなんてとんでもない習慣なんでしょうね」

 本来、巣篭りは女性同士だけではなく男性同士の間でも行われるのだが、まあそこは無視して話を進める私だった。

「そんなことを言ってるんじゃない。早く、早く子供をいっぱい作って妖精の数を増やさないと大変なことになるんだ……。だからオレは、私は……。う えぇぇ〜ん。ひっく、ひっく。うわぁぁ〜ん」

 からんできたかと思えば今度は泣きだすし。まったく始末におえない酒癖の悪さね。私はしばらくの間、彼を放置することにした。酔っぱらい退散ッ!酒を飲 んでも飲まれるなッ!!


「どうしちゃったんですか? 海斗さんは何を泣いてるんです?」

 酒に酔ってめそめそと泣いている海斗君の様子を見て、お酒の入ったボトルと新しいグラスを持ってきた夏樹君が私に話しかけてきた。

「あら、ありがとう」

 まずはお酒が大事と、私は夏樹君からお酒をついでもらうべく空のグラスをすっと差し出す。まったく飲まなきゃやってられないわ。

「いえ、どうぞ。……で、いったいどうしたんです?」

 私にお酒をついだ後、自分のグラスにもお酒をつぎながら再度質問をする夏樹君。

「その前に、あなたは悪酔いなんかしないでしょうね。もしもそうなら……」

 じろりと夏樹君の顔をにらむと、笑顔で問いかける私。

「大丈夫ですよ。僕のこの身体はお酒に強いみたいですから」

 そして手にしたグラスを飲み干す夏樹君。……ホントかしら?

「まあ、いいわ。そういうことにしておきましょう。いえね、私にもわけが分からないんだけど、“妖精狂いの季節”にする巣篭りの話が、なぜか『早くいっぱ い子供を作って妖精を増やさなければ大変なことになる』って話になって、そうしたら自分から泣き出しちゃったのよ」

 ちらりと海斗君のほうを見ながら、夏樹君に事情を説明する。海斗君は何やらどこかにいる誰かに向かってぶつぶつと話しかけているようだけど、あまりにも 小さな声なので意味は聞き取れない。まあ、聞きたくもない内容だろうから、それで問題ないんだけどね。

「そうですか。海斗さんも普段はこんなんじゃないんですけど、やっぱり酔うと性格が変わっちゃうのは人間も妖精も同じなんですね」

 夏樹君も、酔っぱらいが泣く理由だとか、たわごとだとかに関心は無いようだ。私も同意の意味を込めて、うんうんと目をつぶってうなずいた。

「ところで、もう一杯いかがです? 詩衣那さんもけっこう強いとお見受けいたしましたけど」

 片手でお酒の入ったボトルを軽く持ち上げ、私に見せる夏樹君。

「ありがとう。いただくわ」

 そして私が夏樹君に空のグラスを差し出そうとしたとき、乱入者が現れた。

「みきちゃんも、の〜む〜の〜っ!」

 いつのまにか私と夏樹君の間に割り込んできた美姫さんが、夏樹君が持っているボトルを奪い取ろうとする。

「あ、美姫さんは、もう飲まないほうが……」

 ボトルを奪い取られまいと、ボトルを持った手を上に上げる夏樹君。

「美姫さんはもうずいぶん酔ってるんだから、これ以上お酒を飲んじゃだめよ。いい?」

 私も美姫さんに対して言い諭す。もっともどこまで私の言葉が通じているかは分からない。もう美姫さんってば、完全に幼児化しちゃってるし。

「ん〜、でも〜〜〜」

 何か言い返そうとする美姫さんだったが、うまく言葉が出てこないようだ。何かを言いかけては口をつぐんでいる。

「美姫ッ! そんな奴の言うことなんか聞く必要はないぞ」

 それまで座りこんで泣いていた海斗君が突然立ち上がると、夏樹君が持っていたボトルを奪い取った。

「あ、海斗さん、ダメですよ〜♪」

 抗議をする夏樹君だったが、その口調は強いものではなく、どこか笑っている感じだった。……ダメだ。まともそうに見えたけど、こいつもやっぱり酔ってる じゃないの。

「巣篭りにしろ何にしろ、こいつの言うことなんか聞いてたら大変なことになっちゃうんだ。とにかくこいつの言うことを聞いたらダメなんだ。……というわけ で飲めッ! オレが許すッ!!」

 ちょっとふらつく足で美姫さんの元まで歩いて行くと、海斗君はボトルの蓋をあけてそのまま美姫さんに差し出した。

「ありらとお〜」

 こちらも舌が回らない状態でニコニコとしながらボトルを受け取る美姫さん。まったく酔っぱらいどもが。

「だから未成年で、しかもお酒に弱い美姫さんは飲んじゃダメなのッ! ほら、早くボトルを返しなさいッ!!」

 半分本気、半分演技といったキツイ口調で叱りながら、私は美姫さんのほうに向かって歩いていく。

「えへへへへ〜♪」

 それに対して、邪気がまったく感じられない笑顔を見せる美姫さん。それを見た私は、ちょっとだけ頬の筋肉を緩めて、こちらからも笑顔を軽く返すことにし た。警戒心を持たれたらいけないしね。

「そう、良い子だからそのボトルを返しましょうね」

 これ以上飲ませたらまずい。その思いがどうしても出てくるのか、私の言葉はその内容に比べてちょっと固く感じられる。まあそれはともかく、ゆっくりと私 は美姫さんに近づいて行いった。

「ん〜?」

 すると美姫さんは何ごとかを考えるような表情を浮かべながら、私と海斗君の顔を見比べていたのだが、次の瞬間、美姫さんは大胆な行動に出たのだった。

「お〜ッ! いい飲みっぷりだ。美姫、じゃんじゃんいけッ! そんな奴の言うことなんか気にするなよ♪」

 美姫さんの様子を見て、やんやとはやしたてる海斗君。なんと美姫さんは、ボトルをラッパ飲みし出したのだ。

「んく、んく、んく、んく、んく。ぷっは〜〜〜ッ!」

 一気にボトルを飲み干すと、可愛い外見の妖精少女にあるまじきオヤジ臭さを見せる美姫さん。世の中の妖精オタクどもが嘆くぞ、ホントに。

「飲んじゃってどうするのよ。これ以上酔っちゃったら妖精だってアル中になっちゃうわよ。もうッ!」

 ちょっとだけ本気で怒ってみる。

「らいりょ〜ぶ、らいりょう〜ぶ」

 なのに美姫さんったら、ちっとも自分が怒られているという自覚がないみたい。

「もう、何が大丈夫なもんですか。まったく……」

 私もここまで酔った相手に説教するのが何だかバカらしくなってきた。私はこれみよがしにため息をつくと、美姫さんをにらみつけるのだった。

「……」

 するとさっきまで赤い顔をしていた美姫さんだったのに、みるみるとその顔が青くなり、そして……。



えろえろえろ〜〜〜



 夜の街を照らす灯りが、美姫さんの口からあふれ出てきた固体混じりの液体にキラキラと反射した。次から次へとあふれ出す吐瀉物は、出だしは噴水のような 勢いだったが、すぐにその勢いを衰えさせた。そして最後にはだらだらと口からそのまま下のほうへと流れるようになり、美姫さんが着ている可愛らしい青色の エプロンドレスには、新しい色が追加されたのだった。

「大変ッ!」

 その様子を見た大島さんが、慌てて飛んで来た。

「とりあえず美姫さん、全部吐いちゃいなさい。それから、夏樹君。冷たい水かスポーツドリンクを持って来て。アルコールを薄めなきゃいけないから。お願 い。急いでね」

 側に立っていた夏樹君に指示を出す大島さん

「ああ、ええと、分かりました」

 何だか頼りない返事をした夏樹君は、ちょっと左右に身体を揺らしながら飲み物が置いてある方へと歩いていった。テーブルの上とは言え妖精にしてみたら けっこう広いのよ。

「なにかお手伝いましょうか?」

 じっと黙って見ているのもなんだし、座り込んじゃった海斗君は当てにならなそうだし、更におっとりとやってきた佐々山さんはもっと当てにならないような 気がして、私は大島さんに問いかけたのだった。

「じゃあ、お願い。服を脱がせる手伝いをしてくれる?」

 予想していなかった大島さんのその言葉に、私の鼓動は正味10%ほど早くなってしまった。きっとそうに違いない。

「服を脱がせるって、いいんですか? それにいったいどうして?」

 可愛い美姫さんの裸を見られるかもしれないという期待に声を震わせ、心にも無い確認をする私。

「だってこのままじゃ服に染みがついちゃうじゃないですか。早く脱がせて洗濯しないと」

 当然と言えば当然の答えだ。妖精の服は極端な少量生産の上に細かい縫製で手間がかかっているし、場合によってはけっこう特殊な素材も使用しているだけ に、とても高価なものであるということが常識になってる。ちょっとした程度の染みくらいならともかく、ここまで派手に染みをつけてしまうのは、その常識か らすると確かにまずい。

「そうですね。なかなか新しい服って買えないですもんね」

 表面上は大島さんに同意する私だったが、これから先、美姫さんがうちの研究所の仕事の手伝いをしてくれるのなら、その報酬でこんな服なんかは簡単に買え るだろうことも、私は知っていた。でもまあ、それはそれ、これはこれ。今は美姫さんの服を脱がすことにしましょう♪

「じゃあ、すみません。よろしくお願いします」

 軽く頭を下げる大島さん。いえいえ、美姫さんの裸を見られるなら、こちらこそ頭を下げないと。

「気にしないでください」

 そう軽く返すと、酔いつぶれて座りこんでいる美姫さんの背中に回った。しかし吐いた内容物の上に座りこんじゃってるじゃないの。美姫さんってばもうッ♪  私はいそいそと美姫さんが着ているエプロンドレスのヒモを解き、ボタンを外すのだった。

「外見からして、美姫さんくらいの肉体年齢の妖精ともなれば、こんなにもお酒に弱いなんてことは普通は無いのに……」

 不思議そうにそう言いながら、美姫さんから服を脱がす大島さん。

「……確かにここまで酔っちゃうのも珍しいですよね。よっぽど量を飲んじゃったのかしら?」

 気の無い受け答えをしつつ、私の手はてきぱきと動き、大島さんと共同して美姫さんをシャツとショーツだけの下着姿にするのだった。

「そんなに飲んでいたはずは無いんだけど……。ああ、やっぱり下着まで染み込んじゃってる」

 大島さんは、そうつぶやくと、まったくためらうことなく美姫さんの下着を脱がしにかかる。まずは上半身のシャツに手をかけたのだったが……。

「何を見ているんですか?」

 どこか地の底から響いて来るような声を出しながら、大島さんはその手を止めた。

「えっ!? ああ、ごめんなさい。でも、ほら、だってッ!」

 美姫さんの上半身からブラジャー代わりのピタッと身体にフィットした伸縮自在の小さなシャツがはぎ取られようとしているその瞬間を、ジッと見つめていた 私は、大島さんのその言葉を聞いて大いに焦るのだった。

「何を言ってるんです? 詩衣那さんのことじゃなくて、そこの男どものことですよ」

 大島さんの指摘に、改めて回りを見渡して見ると、佐々山さんに夏樹君。そしていつの間に酔いが醒めたのか海斗君までが私たちをぐるりと取り囲むようにし てしゃがみ込み、ジッと美姫さんに視線を集中させていたのだった。

「あ、おかまいなく。ただ見ているだけで、邪魔をするつもりはありませんから」

 まるで何も問題は無いと言わんばかりの口調で佐々山さんがうそぶく。しかしその視線は、美姫さんの身体にじっと注がれている。女の立場から言わせてもら うと、かなり不愉快ッ!

「見ているそのこと自体が邪魔になるんです。さあ、散って散ってッ!」

 思いは同じなのか、大島さんが佐々山さんをはじめとする3人の男達に向かって、手で追い払うしぐさをする。

「佐々山さんはともかく、僕と海斗さんは人間だった頃はれっきとした女だったんだから、問題ないですよね? ね♪」

 大島さんに、そして次に海斗君に向かって、にこりと笑いながら同意を求める夏樹君。だから過去はともかく今の性別が問題なんだって言うのに。

「ああ、まったくそのとおり♪ というわけで続けて下さい。ささ、どうぞ」

 調子がいいことを言う海斗君。やっぱりまだ酔っているのだろうか。今度はへらへらと妙に明るい。くるくると性格のよく変わる奴だこと。

「あ、ずるいですよ。私だけ仲間はずれにしようって言うんですか?」

 すると佐々山さんが慌てて夏樹君と海斗君に向かって抗議の声を上げる。それにしてもまあ、ここに居る男どもときたら。まあ、私も人のことは言えないんだ けど。美姫さんの裸を見たいし、触りたいし……。

「もう、しょうがないですねえ。じゃあ、見ててもいいですけど、絶対に手は出さないで下さいね。もしも出したら、お金をとりますよ」

 もう文句を言うことにも面倒臭くなったのか、大島さんもとんでもないことを言いだした。やっぱり大島さんも30代半ばの女性に見えるけど、確か中身は中 年のおじさん……。しょせんはこんなものなんだろう。しかしお金を払えば手を出しても良いのだろうか? 美姫さんの白くてぷにぷにの肌を思いっきりつつい たり、なでたり、密着したり。そんな妄想をしながらぼうっとする私だった。ちょっと自分がかわいい♪

「……さん。……那さんッ! 詩衣那さんッ!!」

 どれだけぼうっとしていたのだろう? ちょとの時間だったような気もするし、ずいぶんと時間が経ったような気もするのだが、大島さんに呼ばれて気がつい た時、美姫さんは既に裸になっていた。ああ、せっかくの脱がす楽しみが〜ッ!!

「え、あ、はい」

 間抜けな返事をする私。まったく私とあろうものがなんてこと。

「ちょっとここで美姫さんをみていてもらえますか? 私は脱がせた服を洗ってきますから」

 大島さんは手に持った美姫さんの服を私に見せる。

「ええ良いですよ。この場は任せて下さい」

 裸の美姫さんと2人っきり♪ 側にお邪魔な男が3人いるけどそれはあえて無視して、私は心を弾ませた。

「じゃあ、すぐに戻ってきますからお願いしますね」

 そのまま大島さんは背中からトンボの羽のような形で透き通った羽を出すと、どこかに飛んで行ってしまった。

「さてと」

 飛んで行く大島さんを見送ると、私は無邪気にぺたんと座りこんでいる美姫さんを改めてじっくりと、それはもうなめるようにして、その白い裸身に視線を移 すのだった。

「やっぱりちょっと汚れているわね。……夏樹君ッ! そこにあるおしぼりを2〜3本持ってきてくれる?」

 今この場にいる男どもの中で、もっとも素直そうな夏樹君の名前を呼ぶ。

「分かりました。ちょっと待ってて下さい」

 思った通り、夏樹君は素直にうなずくとテーブルの中央、様々な料理や飲み物が置いてある場所のすぐ脇に用意されているおしぼりを取りに行った。うん、男 女を問わず素直な子は大好きだ。

「……いやあ、ほとんど胸がないかと思ってましたけど、こうして見てみると美姫さんもそこそこ胸が膨らんでいるじゃないですか」

 私が気持ち良く夏樹君を見送っていると、ないしょ話のつもりなのかささやくように海斗君に話かける佐々山さんの声が聞こえてきた。

「まあ、“妖精狂いの季節”のときとは比べものにならないだろうけど、今の時期にしてみたらあるほうだな。美姫の奴、着やせするタイプなのかな。あとで 触って確かめてみようか?」

 一方の海斗君は遠慮が無いのかまだ酔っているのか、普段通りの大きさの声で美姫さんの胸の大きさについて勝手なことを言っている。まあ確かに今の美姫さ んの胸は、手のひらにちょうどすっぽりと収まるにはやや大きいという感じではあるのだけど。

「しッ! 海斗さん。あまり大きな声を出したら、詩衣那さんに聞こえちゃいますよ」

 だからもう聞こえているってば……。私は頭を抱えたくなってきた。

「聞こえたら困るようなことは言わないで下さい」

 相手にするのも嫌なのだが、とりあえずそれだけを言ってみる。そして私は、美姫さんに寄り添ようにしゃがみこむと、美姫さんがふらついて倒れないよう に、そっとその上半身を支えるのだった。

「え〜と、おねえさんはだれでしゅか〜?」

 美姫さんが不思議そうに私に尋ねる。ようやく名前を聞いてくれたのね。でも今の美姫さんに名乗っても、完全に忘れられちゃいそうな予感がする。

「加賀詩衣那っていうのよ。よろしくね」

 忘れられてもともとと、私は名乗ることにした。

「んん〜。かがしいなしゃんれすかッ! わたしは〜、みきちゃんれすッ!」

 なぜか無意味に元気な返事をする美姫さん。

「そう、美姫ちゃんっていうの。ところで美姫ちゃんは裸なのに恥ずかしくないの?」

 見たところまったく羞恥心を感じていなさそうな様子なのだが、本当のところはどうなんだろうという興味から、私は美姫さんに聞いてみることにした。

「らいりょーぶれすッ! さむくないれすッ!」

 まったく見当違いの返事を返す美姫さん。ダメだ。やっぱりどう見ても完全に酔っちゃっている。それにしても早く身体を拭いてあげないと。なんだかすっぱ いにおいもしてるし……。

「お待たせしました。おしぼりを持ってきました。じゃあ早速、美姫さんの身体を拭きましょうか」

 ちょうどそこに、おしぼりを取って戻ってきた夏樹君があらわれ、私が返事をするよりも早く美姫さんの胸の膨らみあたりを拭こうとし始めた。

「ストップ。本人がわけもわからない状態で、女の子の胸に触れようだなんて、やっちゃいけないに決まってるでしょ。とりあえず、おしぼりだけ渡してちょう だい」

 美姫さんのやわらかな身体は、私だけしか触っちゃいけないのよ。うん、そうよ。私は自分自身に言い訳をしながら、夏樹君の手からおしぼりを奪い取るの だった。

「やだなあ、下心なんてありませんよ。だってまだ、“妖精狂いの季節”にはなってないんですよ」

 ちょっとむっとした様子の夏樹君。いえいえいえ、その顔は下心が有る顔です。私には分かります。

「勃たないだけでしょ。下心が無いわけじゃないんじゃないかしら?」

 自分のことは思いっきり棚の上に放り投げて、夏樹君を無理やり論破する。そして有無を言わせぬまま私は、美姫さんの口の回りをおしぼりで拭きはじめる。

「あう〜。ちゅめたくていいきもちら〜」

 夜とはいえ夏である。ましてやお酒に酔って身体が火照っているともなれば、かなり暑いのだろう。冷たいおしぼりで顔を拭かれて、美姫さんは気持ち良さそ うに目を閉じた。

「そう、じゃあここも拭きましょうね」

 冷静な声色を維持しつつ、私の心は高鳴った。おしぼりを持つ私の手は、美姫さんの顔を拭き終わると徐々に首から下へと進撃を開始した。なだらかで小さな 肩を経て、小さいながらも自己主張を怠らぬふたつの白い丘のふもとへと到着する。

「ちょっとくすぐったいかもしれないけどがまんしてね」

 たとえ“妖精狂いの季節”から外れたこの時期とは言っても、そこは敏感な個所であることにはかわりがない。私は丘の頂上を征服する前に、美姫さんに一言 声をかけた。

「え〜、なに〜?」

 どうやら美姫さんの意識は、飛んじゃっているようだ。もしかしてこれは触り放題?

「う〜ん。恥じらいが無いというのは、ちょっとポイントが低いですねえ」

 ……周囲の雑音は全て無視しようとしていたのに、夏樹君の声が聞こえてしまった。

「いやいや、この警戒心がまったく無い無邪気なところが、その手の属性を持つ方々にはとても心そそられるものなのですよ」

 なにやらわけが分からなそうで、実は何のことだかすぐに分かってしまう解説を加える佐々山さん。それって、もしかしなくても『ろり……』のことでしょう か?

「まあ、そんなことより、美姫の身体に触りたがるだなんて、詩衣那という奴は変態だな。こういうことは男女の間でするのが正しい道というものだ」

 海斗君は海斗君で、私のことを変態扱いするし。ちょっとここはひとつ抗議をしなくては。

「あの、さっきから聞いていれば、勝手なことばかり言っているけど、根も葉も無いことは言わないでいただけるかしら? 女が女の身体を拭いてあげるだけ で、どうして変態と言われなくちゃいけないの?」

 美姫さんの身体を拭く手を休めず、海斗君に抗議をする。

「どうしてって……、美姫の反応を見てみれば一目瞭然だろ?」

 何故か海斗君はお茶目な笑いを浮かべている。美姫さんの反応? 私は海斗君から視線を逸らすと、改めて美姫さんの様子を見るのだった。すると……。

「あううん……。あっ、あっ、あっ、あぁぁん」

 美姫さんはお酒の為だけとは言えない原因により顔を赤くしながら、気持ち良さそうによがっていた。私が美姫さんの胸を拭くその刺激が、美姫さんを違った 世界へといざなっていたらしい。ああ、ついいつもの癖がッ!

「変態ですね」

 その私の様子を見ながら、ぼそりとつぶやく夏樹君。目がすうっと細くなっている。

「まったくもって変態です。どうにもなりません」

 したり顔でうなずく佐々山さん。

「やっぱり変態だよなあ。女同士なんて♪」

 夏樹君と佐々山さんの意見を背景に、更に私を追い込む海斗君。もうッ! 完全に遊んでるでしょ!?

「だからどうしたっていうの? そうよ。確かに私は、女の子が好き。っていうか、女の子しか好きになれないわ。男なんか大嫌い。でも、だ・か・ら・ど・ う・し・たっ・て・い・う・の?」

 もはや遠慮することなく思いっきり美姫さんの小さく膨らんだ形の良い胸を揉みしだく私。手のひらに吸いつくような美姫さんの柔肌が気持ちいい。ちなみに 美姫さんの身体をおしぼりで拭くだなんてことは、忘却の彼方です。ええ、そうですとも。

「開き直りましたね。やっぱり自分は変態であると認めちゃいましたいか」

 肩をすくめ首を振る佐々山さん。

「愛に性別は関係ないでしょう?」

 完全に開き直った私は美姫さんのぷにっとした胸に自分のほっぺたをすりつけ、小刻みにすりすりする。

「にゃぁ〜あ」

 酔ってわけが分からなくなるほど意識が混沌としていて身体の動きは鈍いのに、美姫さんのこういった反応はとても敏感だ。

「ふ〜む。まあたしかに愛撫するだけなら性別は関係ないかもしれませんね」

 何かを考え込んだ様子の夏樹君。何かいやな予感が……。

「というか、勃たなくても愛撫は出来るわけですよ。というわけで僕も混ぜて下さい」

 そのまま返事を待たずに近づいてくると、夏樹血君は美姫さんの脇腹から胸にかけての辺りを愛撫しだす。美姫さんにくっついている私を無視してその手の動 きはだんだんとエスカレートして、美姫さんの呼吸を乱すのだった。

「酔ってわけが分からなくなっている女の子にすることじゃないわよ。離れなさい」

 私は、美姫さんに密着しようとする夏樹君を手で押しのけるが、可愛い顔をしているけど、やっぱり男の子。なかなか力が強くてうまくいかない。

「なるほどッ! 相手が酔ってなければ良いんですね♪」

 突然何を言いだすかと思ったら、こんどは佐々山さんが私の腰に抱きついてきたッ!?

「ちょっとッ! 何をするんですかッ!?」

 佐々山さんに触られた部分から、身体中に悪寒が走る。私は、金切り声を上げるのだった。もう冷静でなんかいられない。

「いやあ、酔っぱらった美姫さんに抱きつくのがダメなら、酔って居ない詩衣那さんに抱きつくというのが筋というものでしょう」

 なぜか渋い顔をしてうそぶく佐々山さん。だからなんでそうなるの? 違うでしょッ!? 酔ってる。やっぱりこいつらってば酔ってるッ!!

「ちょっと、もう誰でもいいからなんとかしてッ! 海斗君、あなたでもいいから助けなさいッ!!」

 溺れる者は藁をも掴む。私は不本意ながらも、海斗君に助けを求めるのだった。

 ちなみにその時の私の姿勢はどうなっていたかというと、ペタンと座りこんだ美姫さんの左側に私が向かい合うように座り、左手を美姫さんの胸の膨らみに沿 えつつ私のほっぺたをすり寄せ、美姫さんの背中に回した右手で美姫さんのお尻をなでていた。

 そして夏樹君は、美姫さんの右側に美姫さんと同じ方向を向いてしゃがみ込むと、左手を美姫さんの首に回しながら、その頭を美姫さんの右肩に乗せ右手で美 姫さんの脇腹から右胸へと到る辺りをさわさわとなでている。

 最後に佐々山さんはというと、しゃがみこんでいる私の背後から私の腰に後から抱きつき、その顔を私のふくよかなお尻にうずめていたのだった。まったくな にがどうなっているのやら。

「助けてと言われてもなあ……、いったいその状況をどうすれば良いわけ?」

 面倒くさそうな、それでいて呆れ果てたような海斗君。いやいや、単にこいつも面白がっているだけかも?

「とにかくこの2人をどっかにやってちょうだい」

 私は海斗君に対して自分の希望を述べる。というかそれしかできないし。まったく佐々山さんってば、ホントに酔ってるの? 腰にしがみつく力強すぎッ!

「なるほど、なるほど。なにをして欲しいのかは分かった。でもそれは出来ないね」

 笑っているような、それでいて目が据わっているような微妙な雰囲気の海斗君。にやりとするその口もとからは牙がのぞいている。

「どうしてダメなのよ」

 間髪入れずに私は聞き返す。ついでに不本意ながら美姫さんのお尻をなでていた私の右手を自由にすると、腰にしがみついてくる佐々山さんの頭にパンチをく らわせた。

「私に触りたければ、そう言ってくだされば良かったのに」

 それに対して殴られたという事実を認めない佐々山さん。馬鹿?

「どうして出来ないかだって? だってオレは、あんたのいうことを聞く気なんて最初っからないもん」

 まじめな顔でそう主張する海斗君。こぶしを作って妙に芝居がかった様子の海斗君は、やっぱりまだ酔っているのかもしれない。

「じゃあ、私を助けないでおきなさい。むしろ佐々山さんのように私にしがみつきなさいッ!」

 海斗君が私の言うことを聞く気がないというならということで、私は自分が希望する状況とは反対のことを言ってみる。ダメでもともと。もしかしたら酔って 判断能力が低下している海斗君なら、反射的に私の狙い通りの行動に出てくれるかもしれないし。

「……しょうがないなあ。じゃあ、今回だけはあんたの希望通りにしてあげよう」

 やれやれと肩をすくめながらも、なぜかその顔を嬉しそうにほころばせると、海斗君は私の上半身に抱きついてきたのだった。

「な、なにするのよッ!?」

 私はうろたえてしまった。声が上ずるのを止められない。

「何って、オレは希望通りにしただけなんだけど?」

 へらへらと笑う海斗君。ううう〜、こいつってば酔っているのかいないのか、いったいどっちなの? というわけで、美姫さんには私と夏樹君がしがみついて その身体をなでまわし、その私には何故か佐々山さんと海斗君がしがみついて同様のことを私に対してしているという、何だかわけが分からない状況が発生して しまった。

 さすがに私も、この状況をなんとかしなくては思ったとき、私達の頭上から怒鳴り声が聞こえてきたのだった。

「ちょっとッ! あなた達はいったい何をやっているんですかッ! 子供達が見ている前で恥ずかしく無いんですかッ!?」

 美姫さんの身体にすり寄せているのであまり自由が効かない顔を上空に向けると、そこには美姫さんの服を洗濯して戻ってきた大島さんが羽ばたいている。

 それにしても、子供達が見ている? 何のことかと、私は更に視線をずらして回りを見渡した。すると私達を取り囲むようにしゃがみ込み、または空中を飛び ながら私達を見下ろしている十数人の妖精の子供たちが、その目をこちらにむけて興味深そうにしていたのだった。

「ねえねえ、お姉ちゃんたち何してるの?」

 やがて興味を押さえきれなくなったのか、その中のまだ小さな女の子が私に向かって無邪気な質問を投げかける。

「さ、さあて、何かしらね?」

 気の利いたセリフなど言える状況では無く、私はそう言うのが精一杯だった。




 ……その後、私達はめいっぱい大島さんに叱られた。しかしその怒りの言葉を注意深く聞いていると、酔っぱらった美姫さんにあのようなことをしたことより も、自分を仲間外れにしたことのほうにより怒りのウェイトが置かれていたような気がする。

 ともかくさんざん叱られた頃には夜も明けかけており、みんなの酔いもすっかりと醒めてしまっていた。まだ酔いつぶれて寝ているのは美姫さんだけだ。しか も裸で寝ていたりする。

 実は大島さんが何度か美姫さんに服を着せようとしたのだが、暑がって着てくれなかったのだ。もちろん、美姫さんの裸を鑑賞する為に真剣に服を着せようと しなかったのではないかという疑いもなきにしもあらずだったが、そのことに対して誰も文句を言わなかったのはご愛敬ってところかしらね?




 というわけで以上のことが、美姫さんが妖精の集会において裸で目を覚ますことになった理由というわけなのだけど、いい? このことは美姫さんには内緒よ ♪

おわり


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