今週は銀魂の小ネタを更新する予定ですが、相互リンクを結んでいただいている黒豚ピギー様に可愛らしい蹄で、背中を押してもらったので、沖神の短文を挙げます
11・3に書き上げたモノではありますが、グラタン要素は微塵もございませんので、その辺りはご了承下さい
「ウウウウ」
この部屋に置きっぱなしにしている、ウサギのクッションに顔を埋めるようにして抱きかかえながら、畳の上で寝転んでいた神楽。
唐突に低い唸り声を漏らし出した彼女は、珍しく大真面目な面持ちで机に向かっている沖田の背中を、規則的なリズムで足加減して蹴り出した。
「・・・・・・・・・」
しばらくは我慢していた沖田だったが、ついには線も曲がるほど力を入れられてしまっては、もう仕事にならない。ついにキレた沖田は、体ごと振り返って自分の背中を蹴ろうとしていた神楽の右足首を掴む。
「神楽、アンタねぃ、何のつもりでさぁ!!」
アポなしの土産無しでやってくるのは毎度の事だが、彼女がこんな行動に出るのは珍しい。普段こそ口は悪く、手も足も早い神楽ではあるが、それなりに空気は読めるので沖田が山のように溜めてしまっていた書類を片付けていたのなら、漫画を読んだり一人オセロをして研究を積み、彼の仕事が一段楽するのを大人しく待っている。
時には、痺れを切らしてしまう事も稀にあるが、それでも背中に指で「さっさと終わらせるネ」など、催促の文句を書いてくる程度だった。
言葉尻に怒りは滲ませつつも、沖田は彼女のそんな行動を不思議がる。寂しがってくれるのは男として嬉しい話だが、背骨を折られかねない蹴りを入れられるのも御免である。
「金欠病で死にそうアル」
「金欠病だぁ?」と、沖田は首を捻る。万事屋が常に火の車である事は傍目から見ていれば丸判りなので、単語自体には驚かなかった。彼が眉を寄せたのは、このタイミングで彼女がその単語を口に出したからだ。
「だって、アンタ、この間、言ってたでしょうよ。
珍しく、仕事がたくさん舞い込んできて、今月の給料日は現物支給じゃなさそうだって」
彼の言葉に、神楽はクッションを更にキツく抱きしめた。
「私も仕事、頑張ったから・・・ヒグチを一人、貰えたアル」
「じゃあ、金欠とは言え・・・もう、使っちまったのかぃ、もしかしなくても」
神楽はクッションに顔を埋めたままで、小さく頷き返した。
呆れたように額を抑えて溜息を漏らした沖田は、壁にかけているカレンダー(神楽に強制的に買わされた、最近、人気のアニメの公式グッズ)に目をやる。
(今日は5日・・・確か、旦那んトコは25日辺りが給料日だって、姐さんが言ってたな)
つまり、十日弱で神楽は久しぶりに貰えた、『マトモ』な給料を使い切ってしまったらしい。
「一体、何に使っちまったんでぃ。
いくら、何でも、菓子っつーか、酢昆布を買い込むのに五千円も使ってねぇだろ?」
腕を引っ張られ、体を無理矢理に起こされた神楽は、顔を彼に見せないままで首を縦に振る。
「なら、何に」と訝しげに問われると、彼女は壁の方を指す。
そちらに沖田が目をやれば、漫画や小説を並べた六段の本棚がある。
「漫画を買ったのかぃ」
頬を引き攣らせるようにして、苦笑いを漏らしてしまう沖田。
「今月は」
ここで、ようやく神楽は顔を、鼻から上だけを沖田に見せる。
「『君に好きだと叫ばせる48の手段』の3巻、『極限君主症候群(アルティメットマスターシンドローム)』の5巻、そんで、『雷神風神』の10巻、『年下の彼氏に苛められたいのっっ』の6巻と7巻が同時に出たネ。
・・・・・・どれも、特装版だったヨ」
買った漫画を指折り数える神楽に、沖田はまたもや、溜息を漏らしてしまう。
「通常版を買えばいいじゃねぇか」
「付録が付いてたアル。
『48』はドラマCD、『アルマス』は他の漫画家さんのカラーイラストも載ってる小冊子、『らいふう』はお風呂にも貼れるポスター、『年下の彼氏』は6巻にキーホルダー、7巻にはヘアピンが入ってたネ」
神楽は今、自分の前髪を止めている、蝙蝠を象ったヘアピンを示す。神楽が部屋にやってきた際、それを「お、新しく買ったのかぃ。なかなか、似合ってやすね」と褒めた手前、沖田は言葉に詰まってしまう。
「・・・なるほどねぃ」
幾度目になるのかも判らなくなった溜息を漏らし、沖田は冷めてしまった番茶を啜る。
「そんで、素寒貧になっちまった訳だ。
でも、食費は旦那が出してくれるんでしょう。なら、飢え死にしちまう可能性は低いでしょう?
・・・・・・まさか、駄菓子も買う小銭も残ってねぇのかぃ?」
口の左端をやや引き攣らせた沖田に、神楽は顎を左右に動かし、後ろのポケットに突っ込んでいた財布(沖田が夏祭りの射的で一発で打ち落としてくれた、子豚を模した物)を取り出すと、チャックを開けて彼へ中身を見せる。
「ひぃ、ふぅ・・・ひぃ、ふぅ、みのよん、ご。
何でぃ、まだ二千とちょっとあるじゃないですかぃ。
ちと、倹約すれば、次の給料日までは十分じゃねぇか」
だが、神楽は唇を噛んで首を横に振ると、またもや、クッションへと顔を埋めてしまう。
「まだ、何か、買いてぇモンがあるんですねぃ?」と沖田が答えが判りきっている上で聞くと、神楽は案の定、「えへへ」と頷く。
「『破壊女帝アスカ 第二幕 鬼将会激倒編』の一巻と、小波チェリー先生の短編集の『誰にも言っちゃいけない恋心』が出るアル」
「それぁ、何がついてるんでぃ」
「えっとね、『アスカ』の方は父娘プロレスラー・天馬マスクとペガサスレディvs極悪姉弟・リンドヴルムズの試合のチケットが抽選で20名に当たって、短編集の方はサイン色紙に好きなキャラを描いて貰えるアル」
「なるほどねぃ・・・一応、言っておきますが買ってはやらねぇよ?」
急に表情を消した沖田に冷たく突き放された神楽は口こそ尖らせたものの、さほど落胆した様子は見せていない。そもそも、彼に「おねだり」をしようとは鼻から思っていなかったからだ。普段から彼女を相手に口だけの喧嘩や手が出る喧嘩をしてる沖田であるが、何だかんだで甘い。しかし、甘やかしすぎてもいない。
飯を奢ったり、1000円程度のアクセサリーを贈ってやることはあっても、漫画を買ったりなどしない。これは漫画を馬鹿にしているからではない。剣術修行に明け暮れていても、沖田はまだまだ、どこかの銀髪と同じでジャンプから卒業しきれていない。先述した本棚イッパイに綺麗に並べられている漫画が、それを示している。
だからこそ、自分の好きな漫画は自分で稼いだ金銭で買うべきだ、と考えている沖田は彼女と一緒に本屋に入っても会計を一緒にしたりは決してしなかった。
「最初から頼りにはしてないヨ」
神楽はいじけたように、白い歯を剥いて見せるも、すぐに肩を落としてしまう。
「だけど、どっちも1000円アル。
両方とも買ったら、マジでお菓子を買うお金が無くなっちゃうネ」
自然な流れで男と女の関係になる前こそ、公園で顔を合わせる度に喧嘩をし、その後でお菓子をせがんでいた彼女ではあるが、最近では懐もそれなりに温まってきたからだろう、駄菓子などの類は自分で買うようになっていた。なので、小さなプライドがあるのか、今更、沖田に酢昆布を買ってもらうのは気が引くらしい。もっとも、沖田の方は神楽に「買ってヨ」と腕に胸を押し付けられ、上目遣いで言われたら、口先だけの文句は言いつつ、買ってしまうのだが。
沖田は彼女のプライドを尊重し、その事は口にせず、「なら、アルバイトをしなせぇよ、日雇いの」と提案する。だが、彼女は力なく、首を横に振ってしまう。
「その日払いのアルバイトがないネ。
週単位の短期は一つ二つはあったけど、お給料が支払われるのは翌月だったアル。漫画が出るのは二週間後ネ。間に合わないアル」
今から、菓子を買うのを我慢したり、読み潰した漫画を売ると言う発想は浮かばないらしい。彼女はポケットから出した酢昆布を口へと咥えた。俯けている瞳は、ハッキリとは見えないが潤んでいるのだろうか。
「・・・・・・しゃあねぇな」
(まったく、男って生き物は女に惚れ込んじまうと、マジに腑抜けちまうねぃ)
自分に呆れつつ、艶のある黄金色の髪を指に絡ませた沖田は、不思議そうに顔を上げた神楽に背を向ける。そうして、失敗した書類を引っ繰り返すと、裏に何かを書き殴り出した。
「総悟、何を書いてるネ?」
「ちっと待ってなせぇ」と自分の脇の下に顔を潜らせようとする神楽を押し返すと、沖田はペンのノック部分を顎に当てながら虚空を睨み据え、すぐに新たな文字を書き加える。
「ほら」
沖田に差し出された紙を、神楽はキョトン顔で受け取り、内容に目を走らせる。
窓拭き 100円
廊下磨き 100円
風呂掃除 200円
洗車 200円(自転車・バイク) 400円(自動車)
実験の補助 500円〜
買い物 300円〜500円
土方への悪戯 100円〜
山崎への制裁 100円
料理の手伝い 300円〜
肩揉み(10分) 300円(逆も可)
腰・足踏み(10分) 300円(右に同じ)
膝枕(30分) 500円(右に同じ)
耳かき 300円(右に同じ)
爪切り 300円(右に同じ)
混浴 500円
洗髪 200円(逆も可)
髭剃り 200円
添い寝(一晩) 500円
キス 時価
「!? これっ」
「大体、思いつく所で、こんな所かね」
沖田は右肩をグルンと回す。
「漫画を買うには、十分でしょう」
「ありがとアル」
満面の笑みで沖田に礼を告げた神楽であったが、ふと表情が翳り、最後に書かれている「キス 時価」の部分をわずかに震えている指で差した。
「あの、総悟、これは・・・どういう意味ネ?」
「俺の満足度で払う金額が増減するって意味ですが、何か?」
恥ずかしげもなく言われてしまい、神楽は頬を赤らめてしまう。
しばらく、破いてしまいそうなほど強く握り締めた料金表で口許を隠していた神楽だったが、唐突に欠伸を噛み殺した沖田の襟首を掴んで自分の方に引き寄せると、コスモス色の唇を一瞬だけ押し当てた・・・右の頬に。
神楽に襟を離された沖田は、思わず両目をこれでもかと見開き、まだ温かみが残っている頬に手を持っていってしまう。
「総悟、今での何円アルか?」と神楽は耳まで真っ赤になりながら、指を大きく広げた右手を突き出してきた。
「ま、まぁ、頬ですしねぇ・・・こんなモンかね」
さすがに年上のプライドもあったのか、沖田は声の上擦りをすぐに押さえ、財布から出した硬貨を彼女の掌の上へ、そっと置く。
「200円カヨ!? 人があんだけ、勇気を出したのに!!」
「んな、お子様みてぇなキスの価値は、その程度でさぁ」
「上等ネ!! 絶対に、1000円、払わせてやるアル!!」
いきなり立ち上がった神楽は、足音も荒々しく、部屋を出て行こうとする。
慌てて、沖田は「おいおい、どこへ行くんでさぁ」と呼び止めようとした。
頬を赤らめたままで振り返った神楽。
「鬱憤晴らしに、マヨに嫌がらせをしてくるアル!!」
「・・・・・・悲鳴の大きさで判断しやすんで」
力強く頷いた神楽は、勇ましく中指を立てると、部屋を後にした。
「やれやれ、これで仕事に集中できらぁ」
一つ背伸びをした沖田は、再び、机に向かう。
数分後、潰された蛙のような声が耳に届き、彼は100円玉を三枚、財布から取り出すのであった。
「神楽、おめぇ、最近、妙に羽振りがいいじゃねぇの。
妙か、ババァに小遣いでも貰ってるのか?」
「違うネ。アルバイトしてるアル」
「バイトぉ?
日輪の店でかぁ?」
「ううん、違うネ」
「じゃあ、長谷川さんにでも紹介してもらったのか?」
「ううん、それも違うアル。
沖田の所でアルバイトをしてるヨ」
「総一郎クンの所で!? 一体、何やらされてんだよ?」
「え、それは・・・あ、もう、こんな時間アルっ。もう、銀ちゃんがゴチャゴチャ言って、引き止めるから!!
遅刻したら、また変な実験に付き合わされちゃうアル!!
行って来ますっっ」

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