ここまでで論理接続詞 ∧ ∨ ⇒ と論理定数 ⊥ と量化記号 ∀ ∃ (これらはまとめて
論理記号とよばれます)を、形式化の原理によって“定義”してきました。
今回は
等号 = を同様な方法で“定義”します。
今までの議論は、命題(群)から命題を作る話でしたが、今回の対象は、項(群)から命題を作る
述語記号の一つである
等号の定義です。
2つの項 S と T が与えられたとき、これらが「
記号列として同じものである」という性質は、論理記号を導入する際に考えた「命題 P と命題 Q が共に証明されている」とか「命題 P を公理に追加した体系の下で命題 Q が証明されている」などと同様な、
与えられた記号列に関する性質です。
そこで、この「項 S と項 T は同じ記号列である」という性質を S=T と略記して、この概念を論理記号のときと全く同様に
形式化の原理によって形式化してみましょう。
すなわち、
(1a) S と T が同じ記号列のとき定理 R が得られる。
という主張の前半を省略記法 S=T を使って
(1b) S=T のとき定理 R が得られる。
と書き直したとき、S=T をメタ言語の省略記号とはみなさないで、新たに2変項述語記号 = を理論に追加し、(1a) と (1b) が等価になる、すなわち「(1a) が成り立つときは (1b) が成り立ち、逆に (1b) が言えるときは (1a) が成り立つ」という推論規則を同時に追加します。
ただし、この形に表現された推論規則では扱いにくいので、論理記号のときと同じように、これを
導入規則と
消去規則の形に定式化し直してみましょう。
まず、(1b) の R に S=T を代入すると、これは自明に成り立ちますから、(1b) から (1a) が言えることから (1a) が成り立ちます。すなわち次の推論規則が得られます:
(2) S と T が同じ記号列のとき定理 S=T が得られる。
これを等号の導入規則といい、(=導入)と名付けることにします。
ところで (2) はちょっとまだるっこしい言い方で、「S と T が同じ記号列のとき」っていうのは、要するに S が T だということなんですから、(2) は端的に言えば
(2)' T=T の形の命題は必ず定理である。
と表現することができます。
さて、推論規則 (=導入) を用いると、逆に (1b) から (1a) を導くことができるのは、今までの議論と同様です。
すなわち (1b) が成り立つと仮定し、(1a) の前提部分が成り立つとき、すなわち「S と T が同じ記号列」であるとき、(=導入) により S=T が成り立つので、(1b) が成り立つという仮定から R が得られ、これは (1a) の結論部分でもありますから、結局 (1a) が得られたことになります。
次に、今度はある
定理 R が成り立っていると仮定し、更に勝手な項 S を考えます。
命題 R は項 S を含んでいるかもしれないので、この R のことを R(S) と書くことにします(ただしこう書いたからといって、R は S を含んでいるとは限りません)。
ここで、もし (1a) の前提、すなわち「S と T が同じ記号列である」ということが成り立っているなら、R は R(T) とも書けますから、R(T) は定理です。
すなわち (1a) の R を R(T) に置き換えたものが成り立ちます。
そこで、(1a) と (1b) の同等性を用いると、(1b) の R を R(T) に置き換えたものが成り立ちます。すなわち
(3) S=T のとき R(T) が成り立つ。
ところで、(3) を導いた上記の議論では、最初に R(S) が成り立っているという前提を置いていましたから、
(4) R(S) と S=T から R(T) が導かれる。
ということがわかります。この推論規則 (4) を (=消去) といいます。
次はこの逆です。すなわち (=消去) を用いて (1a) から (1b) を導きます。
そのために、(1a) を仮定します。
この (1a) の下段の命題 R には S と T が含まれている可能性がありますから、この R を R(S,T) と書くことにします(もちろんこう書いたからといって R が必ず S も T も含んでいる必要はありません。S のみを含む、あるいは T のみを含む、あるいはそのいずれも含んでいなくてもかまいません)。
ここで R すなわち R(S,T) の中の T と書かれている部分を自由変数 x に置き換えて得られる命題 R(S,x) を P(x) と書くことにすれば、R すなわち R(S,T) は P(T) と書くことができます。
さて、仮定により (1a) が成り立っているのですから、もし T が S と同じ項なら R すなわち R(S,T) が成り立ちます。これは言い換えると、R(S,S) が成り立つ、ということです。ところが R(S,S) というのは P(S) に他なりません。つまり P(S) は定理です。
そこで (1b) の前提部分、すなわち S=T が成り立っていると仮定すると、これと P(S) に対して推論規則 (=消去) を適用すれば、P(T) が得られますが、これは R(S,T) すなわち R つまり (1b) の下段に他なりません。
以上で (1a) から (1b) が導出できることが証明されました。
以上の議論を纏めると、次のようになります:
「S と T は等しい」あるいは S=T という概念は、「項 S と項 T は同じ記号列である」という状態を形式化したものとして定義され、推論規則として
(=導入) 項 S と項 T が同じ記号列であるとき、命題 S=T が得られる。
(=消去) R(S) と S=T が証明されているとき、R(T) が得られる。
を持つ。
ちなみに、等号に関する推論規則 (=導入) と (=消去) についても局所整合性と局所完全性が成り立ちます。
実際、(=消去) の S=T のところを (=導入) の前提、すなわち S と T が同じ記号列であるという事実で置き換えると、R(S) が成り立つということと R(T) が成り立つことは同じことですから、これは (=消去) の下段の式が成り立っていることを意味し、局所整合性が成り立つことがわかりました。
また、(=導入) のかわりに
(='導入) 項 S と項 T が同じ記号列であるとき、命題 S='T が得られる。
を仮定し、これと (=消去) を用いると、S=T から S='T が得られます。
なぜなら、S に含まれない自由変数 x を取り、S='x という命題を R(x) と書くと、(='導入) により S='S が成り立ちますが、これは R(S) とも書くことができます。
そこで (=消去) を用いると、R(S) と S=T から R(T) すなわち S='T が得られます。以上で (='導入) と (=消去) を用いて S=T から S='T が導かれたので、局所完全性も成り立つことが確かめられました。