だいぶ間が開いてしまいましたが、直前の書き込み以降、その定義において一箇所だけ修正しようと思った箇所があります。
再帰的集合論については、私のWebサイト
「数学の基礎」の第5節で解説していますが、そこでは既に修正を反映しています。
それは、和集合の公理をやめて、それより強い
推移性公理を置く、というものです。
一般に、集合 a は、x∈a ⇒ x⊂a であるとき
推移的であるといいます。この条件は y∈x∈a ⇒ y∈a と書けますから、これは2項関係 ∈ が推移律を満たすことを意味しています。
そこで、
推移性公理とは、「任意の a に対して a を元に持つ推移的な集合が存在する」という公理のことを言います。
これは、和集合の公理より強い公理で、実際、推移性公理と分出公理を用いれば、和集合の公理は導出できます。
なぜなら、任意の a に対し、a を元に持つ推移的集合 c を取ります。
このとき、
(1)
∪a ≡ { x∈c | ∃z∈a (x∈z) }
と置けば、これが a の和集合になります。
実際、x∈z∈a なら、a∈c で c は推移的ですから z∈c で、再び c の推移性を使うと x∈c となるので、x は (1) の右辺に属します。
また、推移性公理を用いると、任意の a に対し、a を元に持つ
最小の推移的集合 tran(a) が存在します。実際、a を元に持つ推移的集合 c を任意に選んで
(2) tran(a) ≡ { x∈c | ∀y[(a∈y ∧ ∀z∈y z⊂y) ⇒ x∈y }
と置けばよいからです。
ちなみに (1) や (2) で集合 c が特定できないので、左辺のような省略記号が導入できないのではないか、と気にする方もおられると思いますが、我々は ε-量化記号を導入していますから、
(3) c ≡ εx[a∈x ∧ ∀y∈x y⊂x]
と置けば十分です。
さて、推移性公理は和集合の公理より真に強い主張ですが、置換公理と無限公理を用いてよければ、逆も導けます。
実際、任意の a に対し、帰納的に
(4a) c
0 ≡ {a}
(4b) c
n+1 ≡
∪c
n
と定義し、
(5) c ≡
∪{ c
n | n∈ω }
と置けば、c は確かに a を元に持つ推移的集合になっています。
一方で、推移性公理は、高階の冪理論の持つ構文的な性質を“形式化の原理”で形式化したものとして正当化できますが、置換公理はそのような方法では正当化できません。従って、置換公理を持たない集合論としては、和集合の公理より強い推移性公理を仮定した方がトクだ、ということになります。
実際、第1部の最後の方で解説したように、推移性公理と、それから再帰的集合論の内部にモデルが作れる ∈-帰納法の公理を使うと、モース・ケリーの(クラスを用いた)集合論を使わなくても、再帰的集合論の中に外延性公理と可算選択公理を満たすモデルが構築できるので便利です。
その構築の仕方は、第1部で散々解説してきたので、まず私のサイトの「集合と位相」の第1節と付録1にその説明を加えて修正したうえで、必要に応じてこのblogでも解説していきたいと思います。
以上で、「可算選択公理の根拠」の連載は一応終わりにしたいと思いますが、今後はこの話題に関連する様々な話題を、相互の連携をあまり気にしないで(ときには数理哲学にかかわる部分では主観を交えながら)解説していきたいと思います。