熱力学の基本原理は「熱力学の第1法則」と「熱力学の第2法則」です。私は、この大きな枠組みについて異を唱えるものではありません。
というのも、世の中には熱力学の議論に統計力学の結果を滑り込ませようとする議論もあって、これだと第1法則やら第2法則やらは決して議論の出発点ではなくなってしまいますが、そのような議論は、熱力学の議論としてピュアではないと思うわけです。
さて、最初に
第1法則から考察してみましょう。
これは、「系には
内部エネルギーという状態量が存在していて、外部から
断熱的に系に対して仕事をすると、ちょうどその仕事の分だけ内部エネルギーが増加する」と述べることができます。
この第1法則は、別名エネルギー保存則ともよばれていますが、上の定義で一番問題になるのは、“「
断熱的」とはどういう意味か?”という部分でしょう。
ここで注意しなければならないのは、この段階では「
熱」という概念は
まだ定義されていないということです。
ここで最も誤解が多いのは、熱の流入量を ΔQ で表わすとき、「断熱的」という概念を ΔQ = 0 であるという意味だと誤解することです。
ただ、
平衡状態のみを考察の対象にする
準静過程では、結果的に「断熱的」も ΔQ = 0 も同じ意味になるのですが、この事実は本来きちんと導出すべき事柄ですし、そもそも「熱」という語がまだ定義されていないばかりでなく、「平衡状態」だの「準静過程」だのといった新たな術語まで入ってきて、これらをまたきちんと定義しなければなりません。
通常の教科書では、「断熱的」な変化というのを「断熱壁で外界と遮断して行う変化」のように解説しているものもありますが、これでは定義になっていません(笑)。
「じゃあ
断熱壁って何なのよ」ということになるからです。「熱を通さない壁のことだ」なんて答えれば「まだ
熱なるものを定義してないよね」とツッコまれるのがオチです。
結局、これは「他の系と
ミクロに相互作用を持たない」ということなのですが、そもそも「熱力学」の議論ではミクロだのマクロだのという概念を持ち出さないわけですから、これもやはり“熱力学では”定義になっていません。
要するに、我々としては、「断熱的」変化という概念を
無定義用語として位置づけるしかないことがわかります。
すなわち、系のそれぞれの状態 α と β に対し、α から β へ「断熱的に変化可能であるか否か」ということが定まっているものと仮定するわけです。
この「状態 α から状態 β へ断熱的に変化可能」という α と β の間の関係を α≦β と書くことにすると、この
2項関係は、数学で言うところの
擬順序関係というものになります。つまり、
(1a) α≦α
(1b) α≦β , β≦γ なら α≦γ
が成り立ちます。
そこで、我々は、「断熱的」という概念を、ある系の状態間の擬順序関係であるとして天下り的に定義することにします。
さて、「断熱変化」という概念が、天下り的とはいえ、とにかく定義されたので、この概念をもとに、「熱」という概念を定義することができます。
すなわち、ある系を状態 α から状態 β へ変化させたときに、その系が得る
熱 ΔQ とは、この変化に伴う内部エネルギーの増加量 ΔU からこの変化の間に系が受ける仕事量 ΔW を差し引いたもののことである、と定義するわけです:
(2) ΔQ ≡ ΔU - ΔW
さて、最初に述べた熱力学の第1法則によれば、断熱変化では ΔU = ΔW になるというのですから、(2) により、
(3) 断熱変化では ΔQ = 0
が成り立つことがわかります。
ですから、上で取り上げた「断熱的」と ΔQ = 0 の間の誤解のうち、半分は実は正しかったことがわかりました。
では逆の半分はどうでしょうか?
これについては次回に解説します。

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