気づけば魚釣りを覚えてからもうすぐ20年近く経つ。
きっかけは近所の池のザリガニ釣りだったが、まさかここまでのめり込むとは思ってもいなかった。
本当に「気がつけば」という表現がぴったりだ。
海のない県で育った自分は淡水魚が身近なターゲットであり、今でこそ偉そうにいろいろな釣りをやっているといえるが、それはここ数年の話。
改めて思うと、この数年であまりにも多くの魚種にチャレンジし、上を見ればきりがないが、挑戦したほとんどの魚種と出会うことができた。
それは自分の強い思いがあってのことだが、その過程で出会った多くの素晴らしい釣友達のおかげであることも言うまでもない。
〜アカメとの出会い〜
初めて「アカメ」という魚を知ったのは確か小学校の低学年の頃。
図書館で借りた図鑑にひときわ輝く銀色の魚体。
目はルビー色に輝き、体長は2メートル近くに達する。
幻の魚といわれ、めったに出会うことはできない。
おそらくそんな内容のことが書かれていたと思う。
桂浜水族館にて
いつか実物をこの目で見たい、そう思った。
そして月日が経ち、身近な魚を狙って釣ることができるようになった頃、忘れかけていた「アカメ」に対する思いが再び湧いてきた。
〜日本三大怪魚〜
誰がこう定義したのかはわからないが、北の大地のイトウ・琵琶湖のビワコオオナマズ・土佐のアカメ、この3種は日本三大怪魚と呼ばれ、熱狂的に、いや、もはや何かにとりつかれたかのように追い求めるアングラーがいる。
幸運なことに自分の住んでいる場所はそのうちの一種、ビワコオオナマズが釣れる環境にあり、決して平坦な道ではなかったがこれまで数々のオオナマズを手にしてきた。
一匹一匹、どれもが記憶に残る魚であり、恵まれた環境で釣りができることに感謝。
そして、目指すはさらに上だが、一つの目標を達成した今、すでに頭の中では次の挑戦がはっきりと浮かんでいた。
〜アカメへの挑戦〜
しかし、現実は厳しかった。
生態に関しての文献や釣り方を調べてみるもその情報は乏しく謎に包まれた魚だった。
同時に「全く何もできないままラインを全て出され、切られた」「何時間もファイトしたが上ってこない」さらには「10年通ってもボウズ」などいままで自分がやってきた釣りからは想像もつかない世界の話ばかりが入ってきた。
結局、生息地と釣りのできそうな場所、過去にアカメを手にした方のタックル・・・その程度の乏しい情報を得たのみだった。
ポイントがどうこうとか、どんなルアーが釣れるだとか、釣りを始めたばかりの頃はそんなことばかりが気になったが、経験を積むうちに今ではそんなことは言ってみればどうでもいい。
ただ単に釣ることが目標なのではなく、そこに行きつくまでの過程を全部楽しみたい。
もちろん相当な努力が必要だが、自分が本当に好きなことだから全く苦にならないし、そうして得た一匹の価値を知っている。
このとき何も情報がなかったのは今思い返せばよかったのかもしれない。
とはいえ、本当に自分に釣れるのだろうか。
いや、それ以前に無事現地に行って釣りができるのか・・・
しかし、ここでいくら考えていてもはじまらない。
まずは一度現地に行き、自分の目で確かめてこようと決めた。
こうして3年前の夏、同じ目標を持つ釣友とともに土佐の地を訪れた。
〜憧れの地で〜
初めて踏んだ土佐の地は新鮮だった。
しかし、ここまで来たことだけで満足してしまったとでも言えばいいだろうか。
これまで釣ってきたスズキなどは比較的簡単に釣れたが、アカメは全くだった。
初挑戦は野生のアカメの姿さえ見ることなく終わった。
(釣行記は過去の記事を見てください)
唯一印象に残ったのは、桂浜水族館の水槽越しに見たあの真っ赤な目。
独特のオーラを放つその存在はこのときの自分には程遠いものだった。
初めての場所、慣れない遠征で疲労感いっぱいで土佐の地を後にしたが、同時にいつかまた腕を磨いてここに来ると強く誓った。
〜二度目の挑戦〜
そして一年後の9月。
今度は10日間という休みを使い、単独で土佐の地を訪れた。
一言で言ってしまえば前回の挑戦は完全なボウズ。
しかし、自分の目で確かめたことにより得たものは大きかった。
そしてこの遠征時、今後のアカメ釣りが大きく変わる出来事があった。
それは地元のアカメ釣り師との出会い。
遠くから一人で来た若造にとても親切にしていただき、何も隠すことなく教えていただいた。
一般的なターゲットではない故、閉鎖的な釣りだとばかり思っていたが話をするうちにそんなことはどこへやら。
釣り人の視点で見たアカメの生態
これまでの武勇伝(決しておおげさなことではないと後に知る)
アカメに対する思い
土佐のこと
釣り方(もっとも、これはいままでの経験上の話。自然相手に決まった方法などないのは当然のこと)
初めて会ったとは思えないくらい夢中で話込んでしまう。
しまいには、ここにもいっぱいいるから・・・と目の前のポイントを譲っていただくことに。
さすがにへたくそな自分のせいで魚が散ってしまっては申し訳ないのでこの時は遠慮したが、この後何日も一緒に釣りをさせていただいた。
毎日が驚きの連続。
アカメの姿、捕食音・・・
しまいには地元の方が目の前で釣られ、生のアカメを目にした。
許可をもらって写真撮影
流れの中で巧みにルアーを操り、食わせのアクションを入れた直後にバットからぶち曲がるショアジギングロッド、悲鳴を上げる大型リール。
激しいエラ洗いをする魚体が暗闇に浮かび上がる。
隣で見ているだけなのに足が震え、言葉が出ない。
そんな自分とは対照的に落ち着いてアカメを足元に誘導する釣り師。
慣れた手つきで下顎にギャフをかける。
その一連の動作を見れば、これまで数々のアカメを手にしてきたことは言わずもがな。
彼は言った。「こんなサイズはいくらでもいる」早く投げろとのこと。
結局この日は他にも何匹かのアカメが目の前で釣られ、それが見られただけでも夢のようだった。
一部始終を見せていただいただけに、まだ釣ってもいないのにアカメに近づいた気がした夜だった。
また、自分の考えで選んで持ってきたタックル一式を見て、それなら大丈夫とのこと。
特にしっかりとしたギャフを持ってきたことは褒められた。
※ギャフは一見魚を傷つけるかのようですが、かける場所は顎なのでさほどダメージはないはず。それよりもランディング時に予想外の力で暴れるアカメでこちらが危険にさらされることも十分ありえる。
きちんと使えば便利な道具です。
そして次の日の夜、土佐に来てもう一週間近くが過ぎていた。
ついに自分のルアーがアカメに襲われた。(08,10,15の記事)
しかし、アカメはルアーに大きな歯型を残し暗闇に消えた。
水面から1m以上飛び上がった魚体はあのとき水族館で見たとおり銀色に輝いていた。
アカメが狙って釣れること、自分のルアーにも食いつくんだということ。
この時はもうこれで十分だった。
慣れない土地で昼も夜も休まず投げ続けた。
あまりの疲れに気づけば堤防の上で気を失っていたことも。
アカメの姿を見て、捕食音を聞き、釣るのを見せてもらい、そして自分にもヒットした。
この一匹をバラしたとき、同時に自分の中で張り詰めていたものも切れた。
今回はもう帰ろう。
これ以上やってもきっと良い結果は出ない。
手にすることはできなかったが、大きなものを得た。
次は釣る。次こそは釣れる。
漠然とではなく、このとき一匹を獲る自分が想像できた。
〜4年目の挑戦〜
はじめてアカメに挑戦してからもう3年が過ぎていた。
ちょうど周りの釣友もポツポツとアカメを手にしていた。
焦る気持ちがなかったと言えば嘘になるが、こればかりはどうしようもない。
「いつか」と目標を立てるのは大切だが、「いつか」のままにはしたくはない。
これまで自分のやってきた釣りを思い返す。絶対に釣れる。
そして2010年6月12日。
使い慣れたタックルとこれまでの思いを胸にまだ明けきらぬ琵琶湖を後にした。

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