●続き…
【インターナショナルバージョン】
英文の字幕入り。
つーか、この作品自体、マスコミの目に触れたのも東京ファンタが最初とのこと。(それ以前には小学生だけを集めての試写は行われていたらしい)。
前情報として、ファンタプロデューサーのいとうせいこうが、ぴあ誌上で「鉄人の全身が映るカットがないことに不安」うんぬんというコメントをしていたようだけれど、これは現在流れているトレーラーのことだったのだろう。
いとう本人は本編未見で、舞台での前説が終わったら客席での初の観賞になると言っていた。
【正太郎とラジコン飛行機】
かなりな腕です。上手い。さて、この腕前が鉄人の操縦に活きるのかどうか…。
【謎の老人 綾部】
一応、祖父の時代から金田家に仕えていた者と正太郎に説明するが、何を生業にしているのかは本当に謎(笑)。
正太郎の特異能力について知っていたのも謎(笑)。
【第二海堡】
正太郎が綾部に連れて行かれた場所がどうも第二海堡ではないかと。そこで正太郎は父の遺産を受け継ぐことに。
第二海堡と言えば「蘇る金狼」のロケ地、最後の銃撃戦のシーンでも有名ですね。
【巨大ロボットの表現】
たぶん、この件について一番文句が出るんでしょうね。
いわゆる“アニメ的演出の呪縛”にどっぷりの“アニメ脳”の人達からは散々な評価になるだろうと思います。
ロボット同士の戦い、実にショボく見えるはずです。
鉄人とオックスが一定の距離を保ち、両足を揃えたまま片方の腕のみでただ相手の胸元をガンガン殴る。基本的にはそれだけの戦いです。
そうです。きっと2足歩行の巨大ロボットがいたら、たぶんこんなだろうという単純な動きしかしません。
この演出に“リアリティ”を感じられず、単なる巨大ロボバトルだけが見たい人にとっては、もはや糞映画扱いになるでしょう。
つまり、パンチを繰り出すのに“背中を反らし反動を付け”“足を一歩前に踏み出し体重を乗せる”ような“人間的な動きの演出”は一切なしです。
倒れる時も“気を付け!”をしたまま、全身硬直状態の姿勢で後ろにブッ倒れます。手足が撓んだりしません。
歩く(移動する)時は歩くだけの動作です。
鉄人が初めてオックスと対峙した時などは、いきなりの操縦で正太郎の意のままにならず、パンチが空振りしたと同時に上半身が後ろに向く始末。そしてパンチの届く距離までオックスを追い、また立ち止まってパンチ。
ビルの死角になり鉄人が見えなくなると、正太郎が目視できるところまで全力疾走。
確認できた時には、オックスの必殺技により鉄人活動停止。ただのデク人形となりオックスの頭上まで持ち上げられ(もちろん、手足は真直ぐ、気を付け姿勢のまま、手足が重力により垂れ下がらず)、投げられる。
このショボく映る戦闘シーン(?)に不満を感じる人は多いと思います。
だが、敢えてこの表現を用いたことに個人的には大賛辞を贈りたい。
どうしたって人間っぽさが出てしまう着ぐるみ式にしなかったのも正解。
ショボリアル、いいじゃないか!
この作品で鉄人は完璧“モノ”扱いです。
アニメ版のような“兵器”か“道具”かどころでない“モノ”です。人の形をしていますが、鉄人の目に“瞳”がないのも余計な擬人化や感情移入を排除したかったからでしょう。
だから、“ガオー”の声ももちろん無し。
つーかこの潔さはかえってすごいなあと思ったりした。
本編であまりに不器用に立ち回る鉄人の姿に、ロビーで見て不安にさせられた鉄人の造型なんか別にどうでも良くなった。
一緒に行った友人は、「もっとカッコイイ鉄人が見たかった」と言っていたが、所謂、鉄人への感情移入の切断は、かなり意図的に仕組まれた行為だと思う。あくまでフォーカスの鉾先は正太郎なのだ。
だからラスト、“鉄人が帰還するシーン”も、まさに扱いは“モノ”。
だが、あれで正解。あの見せ方で良いと思う。アイアン・ジャイアントにしてはいけないのだ。
そんな訳で鉄人の活躍を期待して行くと裏切られます。
つーか、むしろ尺的にはオックスの方が映っている時間長いっつー(笑)。
【ブラックオックス】
背中に引き込み式のロケットが搭載されていて飛行能力があるのと、頭頂部の三角が銀色になっている以外、外観上の変更はほとんどなし。気持ち足が長くスマートな印象。旧態然とした無骨な鉄人とのコントラストが面白い。
テクノロジーは違うがジャミング(つーか鉄人の動力回路を断ち切る)機能付。
オックス登場シーン(飛来場所は金地院か?)はカッコ良すぎです。なんつーか意味不明にカッコいい(笑)。
つーか、それまでのありきたりな日常風景が突然変わる様がスゴイっつーか。ある意味オックス登場シークエンスでこの作品世界のスイッチが入ります。
ALL BE COME ZERO …
ALL BE COME ZERO …(by林原めぐみ)
そして東京タワー破壊のシーンはかなり力入ってます。グリングリンです。ガメラを超えた壊しっぷり。
【CG】
もうね、CGはあんなもんですよ。こと破壊されるビル、割れるガラス、吹っ飛ぶ自動車や看板等、かなり良くやっていた。
オックスが地面スレスレで仰向けに飛びながら、道路や左右のビルをなぎ倒し進み、そのまま高架下に突っ込み破壊するシーンなどはすげえ。
が、初戦で負けた鉄人がパワーアップされ、新たに飛行能力をつけ、原作のあの“青色”に塗り替えられるんだけど、この青い色が目も覚めるような明度と彩度の高い爽やかな青で、もう見た目からしてかなり軽薄。
正直あのツルテカ色とショボリアルな戦い方のせいで、CG自体のデキがすごく安っぽい印象になってしまった。
この辺も批判されそうだなあ。
前半のオックスのハデな登場シークエンス等と比べると、どうしてもCGパートが尻すぼみになってしまった印象が拭えず、ちょっぴり残念。
本公開まで時間があるので、可能な限り手を入れて欲しい。いやほんと。
【正太郎を支える人々】
母親役の薬師丸ひろ子がすごく良かった。いつの間にかこういう役柄が板についてきた。今、小中学生程度の子供の“母親”をちゃんと演じられる女優って限られていると思うので貴重な存在だ。
鉄人改造の際、蒼井優扮する天才化学者の下、町工場の人々が団結して作業を行う。
オックスの必殺技に対抗すべく、正太郎は彼女が開発したバーチャルシステムで特訓を行なう。
再びブラックオックスが現れ、正太郎が再戦に臨む時に、工場の人々から「がんばれ坊ちゃん!」等の激励の声が掛るシーンがとても良かった。
かくして鉄人は皆の期待を一身に背負い空を飛ぶ。
【宅見零児】
もうね、香川照之サイコー!!つーか、不乱拳博士チックないでたちに拍手。
愛人役の川原亜矢子のDQNな存在が本当に必要だったかは良くわからんが(笑)。
彼の野望も基本的にはサイバーテロによる世の中の掌握なだけだし(オックスの存在理由はまた全然別のところにある)、なんか「悪だくみ」に大きさを感じないというか。
せめて金田博士とのライバル関係等の設定が欲しかった。
息子を失った父親と父親を失った子供との対決は、結構ドラマチックな展開にできたはずだが、その辺の描写が希薄だった(病院の屋上でのシーンもわかるんだけどね)。
結局最後の○○は彼のハッタリ(つーか愛人の曲解)な訳で、だとすると鉄人に負けたオックス(○○)を自らの手でデリートしたかっただけなのだろう。
【大塚署長、村雨】
ほとんど名前だけ。村雨に至っては中澤裕子(結構イイ演技)の部下の刑事役。大塚署長も正太郎との深い絡みはなし。
むしろ破壊された国会議事堂の現場にいた正太郎を「坊ちゃんはあっちに行ってなさい!しっしっ!」と追い払うほど。
別にいてもいなくても良かった存在。おかげで柄本明の演技も実に中途半端。勿体無い。
【音楽】
アニメ版同様、フルオケの重厚な音。“それ行け鉄人”に似た、マーチ風の音楽が劇中とエンディングで流れます。エンディングは最後に六本木男声合唱団の“鉄人28号のテーマ”で締め。残念ながら楽曲の完成度はアニメ版の方が遥かに上。
つーか、父の遺言と決意を胸に走る正太郎のシーンはやっぱ“正太郎マーチ”だと思うんだけどなあ。いやマジで。
【東京ファンタだからの盛り上がりか!】
オックス登場シーンで“あの人”が出てきます。遭遇時のあの表情はまさにお約束!!
そう、一作目で警官、二作目で警備員、そして三作目でホームレスと、どんどん落ちぶれていってしまったあの人です。
自分を追うように現われる巨大生物に翻弄され、(とりあえずクロスファイアーでの雑誌記者は除く)、ホームレスにまでなってしまった男がこの作品では巨大ロボと遭遇する。そしてその時“彼が何になっていたか”をその目で確認して下さい(つーかすんげえ気持ちがわかるんですけど(笑))。
正直な話、彼が出てきたシーンが一番拍手が大きかったように思えたし(笑)、劇場内バカ受けでした。皆わかってますねぇ!!
他に有名俳優のカメオ出演多数。
【ツッコミどころ】
正直、多々ある。なぜ、これだけの大騒ぎが起きても自衛隊が出てこないのか、とか。
だが、少年のこころの成長を基軸とした作品でそういうツッコミは野暮なんでしょうね(きっと自衛隊などが存在しない世界なのでしょう)。また、自衛隊は出てこないものの、怪獣映画のフォーマットをある意味踏襲していたりします。
さて、設定をそんな架空の現代にしたことが、果たして成功だったか否か。
恐らく20m近くある巨大ロボットも、高層ビル立ち並ぶ丸の内のオフィス街、晴海埠頭などではかなり小さく見える。
そのスケール感の損失のせいで、オックスを利用した宅見の野望までもがセコく思えてしまったのが残念と言えば残念だ。
いずれにしてもロードショー公開されたら、もう一度観に行くと思う。