グレン・オブリー
昔のロード乗りには懐かしいでしょう。
10年以上前アワーレコードにロード選手が競って挑んだ時がありました。
後にタイトルホルダーとなる、クリス・ボードマン、ミゲール・インデュライン、フランチェスコ・モゼール、トニー・ロミンゲルなどなど……。
過去に遡れば、それこそエディ・メルクスやジャック・アンクティルなど超ド級の選手が名を連ねます。
それはアワーレコードが頂点の挑戦であることの証明でもあります。それほどの選手でなければ達成することは困難だったからです。
そんな中、オブリーだけは違いました。ただの違うではありません。異端中の異端でした。
廃材を集めて作られ、洗濯機のパーツをも用い、今までありえなかったポジションで記録更新。ウオーミングアップにはMTBを用いたり、ヨガで精神統一を図ったり……。
ヨーロッパ人でありながら従来のスタイルを全て覆し、そして勝利をもぎ取った男です。ほとんどの人間が多額のスポンサーが付き、スペシャルバイクを用意していたのに対して、セミプロという立場で挑んだ数少ない選手です。
彼の発明した斬新なポジションは既に引退していたモゼールをも、メルクスの記録を更新させるほどでした。
しかしUCIという組織はとことん腐っています。オブリーが記録を打ち立てた後、それはダメだと記録を参考記録にしてしまいます。オブリースタイルを取り消し、その後彼が新たに開発したスーパーマンスタイルという新ポジションでも。
ルールがあるのは当然です。しかし新しい試みで突破した後に後出しで、しかも2回も取り消しました。
それでもオブリーは一部の自転車ファンの記録に、希有な存在として今も残っています。3年ほど前には自国で映画にもなったほどです。
グレッグ・レモンは自転車における革新者、サイクリングイノベーターと呼ばれましたが、オブリーもまたイノベーターと呼ばれるのにふさわしい人間でしょう。

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