いいことがあったら、日記をつけようと考えているのだが、なかなかいいことがない。いいことのいちばんは出版社から、「出します」と出版の意向を伝えられたときだが、他にも、うれしい評価をもらったときとか、マスコミに取り上げられたときとか、うれしい感想文をもらったときなどがある。そして、忘れてならないのは、最上一平氏からの手紙やハガキが来たときだ。にやにやしながら、何度も読んでしまう。どんな友達、仲間かというのは、二通の書簡で判断してもらうが、最上一平氏がどれほどすごい児童文学作家というのをまず紹介しておこう。
数十冊ある著作はもちろんのこと、日本児童文学者協会の新人賞、協会賞、新見南吉賞を始めとして、全国読書感想文コンクールの課題図書にも数冊がなっている。公の賞や実績もさながら、名作ぞろいの著作を持っている。その中でも新日本出版社から出ている短編集は見事というしかない。私はデビュー作の「銀のうさぎ」を何度読んだか。何度書き写させてもらったか分からない。「ぐみ色の涙」も「ぬくい山のきつね」も何度読んでも感激できる名作だ。子どもたちが、人々が、一生懸命に、そして、精一杯生きている姿が、おかしいほど切なかったり、一瞬に人生のすべてが凝縮されているような場面も見逃さない。私はそれに惹かれた。舞台が山村であるのもいい。人々の原点は都会ではない。山野や海辺だ。本来の生活はそこから始まったのだ。それに子どもたちや人々の深いところの個性を探っているところもいい。心の底、人間の本性や罪を暖かく抉り出すように描いているところに、ため息が出るほどうならされる。新刊は11月に出る「ラッキーセブン」(ポプラ社)だそうである。
前置きが長くなったが私のうれしがる書簡を紹介しよう。うまいことをいいくるめて許可もとった。これで私と最上一平氏との関係も知れると思う。
10月16日(ハガキ・筆字)
「酔っ払いとネーブル」(季節風84号の高橋作品)大傑作でした。いつも酔っ払っているから、あんなふうに酔っ払いを書けるのか、すばらしい酔っ払いでした。感心しました。父ちゃんシリーズ(高橋作全22作)の中でベスト五に入ります。
10月20日(巻紙の和紙で下の方が破けている・筆字)
19日に千葉の小学校にいって話をしてきました。質問をあずかってきて、こけおどしに、この紙に書きました。紙のはんぱがでてもったいないので、はんぱで失礼します。「ふらここ」23号(高橋が所属している同人誌)ありがとうございました。『オサム』読みました。気味の悪い話ですなぁ。これでは、オサムがどんなやつなのか、よくわかりません。作品としてはいまいち。いや今市のむこうの日光のいろは坂あたりでしょう。「飲んべ」の話で傑作をものにした人が、失敗作!(大きい字で一字ごとに○が付いている)を書くと、アハハ、ザマアミロといいたくなります。そんなにいいものばかり書かれたんではたまりませんからね。よかった、よかった。のりこさん(「ふらここ」の同人、高橋則子さん)のも読んでみました。これも感想を書くのがむずかしい作品です。
十月二十日
高橋秀雄様
最上一平拝
と、とにかく褒められても、厳しくてもうれしい手紙である。ただ、年賀状にだけは「人のつまらない作品ほどおもしろいものはない」と評するのは止めてもらいたい。一年中暗くなってしかたがない。
とまあ、今日はこんな日記になってしまったが、高橋作品同様、最上一平のも読んでもらいたい。

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