大どろぼうジャム・パンは、少年の「……た、す、け、て。」という声を確かに聞きました。どこから聞こえたのか確かめようとしますが、二度と聞こえませんでした。いつのころからか、ジャム・パンの耳には聞こえるはずのない声が聞こえてくるのです。
そのとき、警視総監がドアから突進してきました。事件です。影が盗まれたという奇怪な事件です。
ジャム・パンは警視総監と大の仲良しで、警視総監公認の大どろぼうでした(公認書まである)。
警視総監からの依頼は、影を盗まれて幸せになるという「しあわせの町」から届いた「人が死んでいる」というメールの送り主の少年を探すこと。「たすけて」という声の主に違いありません。メールの発信地K町を見つけ、K町を目指します。警視総監ときじ猫のマリリンはジャム・パンのジープで出発しました。ひねくれ者のシャムネコのギンジロウもちらっと出て来ます。
K町の近くに着きました。夜なのにK町は昼間のように光っています。町の入り口でエンジンを切り、聞こえてくる楽しい歌を聞きました。歌は楽しい歌ばかりでした。不気味な気配を感じて、マリリンも毛を逆立てています。
まぶしさに慣れた目にはニコニコ笑いながら行きかう人が見えてきました。そして、天から降ってくるような放送が流れました。
「しあわせの町へようこそ。この町にはかなしみもさびしさもありません――。」
このままストーリーを語ってしまいそうになった。全部紹介してしまったら、読者はこの犯罪の仕組みも、仕掛けも、哲学的な幸福論も(考えなくてもいいけど)直に味わえなくなってしまう。
影の嬉しさ、影のあることの喜びを、29日に行った雪の中の足尾で見つけた。山の間からうすぼんやりした太陽が顔を出したとき、足元にうっすらと影ができた。そのことがうれしいことに思えたのだ。この本を読んだあとだったからだろう。
創作日誌
車を洗いに行ったり、ガソリンを入れてきたリして、散歩もしたら、昼過ぎ、目が覚めるのを忘れるくらい寝てしまった。もう少しで享年70歳になるところだった。
今日もあと1時間くらいはパソコンの前に座っている。いろいろ、何もけじめが付いていないのだ。少しは無駄な抵抗でもしないといけないだろう。
明日も営業致します。

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