我が敬愛するクリント・イーストウッド様の最新作。『ミスティック・リバー』以来1年半ぶりの再会。そして、主演作としては、『ブラッド・ワーク』以来2年半ぶり。久しぶりにスクリーンで見る御大のお姿は、相変わらず輝いていました。
しがないボクシング・トレーナーをやって余生を送っている主人公は、決して甘さを見せない、やや古風な男性像のキャラクターと相まって、御大が今まで演じてきた主人公と同じテイストになっているのがイイですな。頑固一徹な爺ィという設定は、思わず『ハートブレイク・リッジ』の叩き上げトム・ハイウェイ軍曹を想起してしまいました。
娘と上手くいっていない環境も、『目撃』や『トゥルー・クライム』同様で、今や御大に欠かせないファクターとなりつつあるようで、相棒のモーガン・フリーマンとのしょうむない会話も含めて、何とも言えないマッタリ感が漂っているのも、微笑ましくてイイですなぁ。
で、そんな呑気さも、後半一気に形成逆転。幸せの絶頂から一気に不幸のどん底へ叩き込まれる訳で、このドンデン返しというか、意外な展開は、前作の『ミスティック・リバー』同様、最近のナマクラ映画しか見ていないガキ供に「テメェら、ナメンじゃねぇゾ。オレを甘くみるとタダじゃおかねぇゾ」と、『ダーティハリー2』で黒人のチンピラを締め上げたハリー・キャラハンの如く、“人生の辛さ”“何をやっても上手くいく訳ねぇ=エヴリー・ウィッチ・ウェイ・バット・ルーズ”精神を叩きつけてくれた訳で、この辺りはスカっとする所ですなぁ。
という訳で、一気に奈落の底に落ちる後半からラストまで、涙・涙でスクリーンがボヤけていたのですが、1年に1本ぐらい、こういう映画もイイじゃないですか、本当に。大歓迎であります。
映画という、最高の芸術が誕生して百年余。その映画という芸術の中の最高傑作がこの映画であり、それを今、リアルタイムで観られるという事に誇りを持って生きていく、それが幸せというものである。
こんな傑作に点を付けるなんざ、バカバカしくて憚るというもの。でも、敢えて付けるとしたなら… (★★★★★★★★★★★★★★★)
Million Dollar Baby
【カラー/2.35(AN)/ドルビー/dts/SDDS/132'31"】
●梅田ピカデリー1/ほぼ満席/前売券(\1300)/19:00からの4回目

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