今やオスカー監督にまで登りつめたピーター・ジャクソン監督の最新作。予てから念願だった『キング・コング』の再リメイクに挑戦。初志貫徹というか、あの“LOTRシリーズ”は、この映画を撮る為の単なるステップだったのではないか…と思わせる程の力の入れようで、『バッド・テイスト』でデビューしたジャクソンとすれば、今回の作品の方がピッタリ合っていると言えようか。
そんなジャクソン監督の思いが溢れまくっている本作ですが、そのテンションが持続するのは、髑髏島のパートまで。それ以降の、いわゆる舞台がニューヨークに移ってからのパートは、ハッキリ言ってつまらない。本来、一番盛り上がらないといけないニューヨークのクライマックスが、単なる蛇足、無駄としか言い様がないエピソードになってしまっていて、それまでの盛り上がりがいっぺんに収束してしまったって感じ。何故か?
その理由はハッキリしていますな。それは、オリジナルの33年版と、最初のリメイクの76年版、そして本作のクライマックス(エンパイヤステートビル…76年版はWTCビル)を比較すると一目瞭然。
まず33年版。これ自体が傑作であるのは周知の事実ではありますが、これのクライマックスを観て今でも驚いてしまうのは、あの当時の技術で、しかもストップ・アニメーション・オンリー(一部それ以外もありますが)で、これ程の迫力ある映像が作り出せるものなのかと、感嘆してしまうからであり、CG技術の進歩した今の目で見ても溜息が出てしまう程素晴らしい映像が連打されるからなんですね。
次に76年版。映画全体の出来はともかく、クライマックスに限って言及すると、ギラーミン監督とラウレンティースは、そのままやっても33年版に敵う訳が無い(着ぐるみだし…)と踏んで、コングとヒロインのラブ・ストーリーに路線修正、コング=男が戦ってヒロイン=女を守り抜くというメロドラマ的テイストで終始徹底、観客の涙を搾り出す事に焦点を当てた。やや反則気味ではありますが、ギラーミンとラウレンティースの戦略は見事成功したと言っても過言ではなく、実際今観ても、この切なさに泣いてしまいます…。
そして今回の再リメイクですが、これが何ともアホ過ぎ。76年版は無かった事にされ、時代設定はオリジナル版と同じ33年(76年版とリメイク裁判になった幻のユニヴァーサル=ジョゼフ・サージェント監督版と同じですな!)になっているのは良しとするとしてですね、問題はクライマックス。CG技術を駆使した作りになっているのは当然だとは思いますが、コングとヒロインの間のドラマに、通り一遍の薄っぺらい感情しか芽生えていない為、最後コングが死んでも何の感動も無いという盛り下がりを呈して、思わずポカ〜ン…。(33年版と真っ向勝負しても敵わないって事に気付かないのがアホですな)
そりゃ確かにSpFXは素晴らしいけど、そんなのそれまでの髑髏島のシーンで十分見せられているので、既にお腹イッパイ状態。このクライマックスでは、それ以上の見せ場が用意されていなければならない所がこの低落。ジャクソン監督、急にやる気を無くしてしまったかのようなテンションの下がり様で、何とも吹っ切れない空気のままエンディングを迎えてしまったって感じでした。髑髏島での見せ場が素晴らしかった(ここは100点満点!)だけに、残念でなりませんでしたね。
まぁ、ストーリーが決まっているので、それが足枷になってしまったようなんですが(その点、76年版は上手く処理してましたネ)、いっその事、髑髏島のシーンで終わっていた方が良かったかも知れませんなぁ。あそこでクロロフォルムで眠らせるのではなく、そのまま射殺して死ぬという設定だった方が感動があったかも…。コングが簡単に死んでくれたかどうかは分かりませんが…。
多分ジャクソン監督は、エンパイヤステートビルのクライマックスにはあまり興味が無かったんでしょうな。やりたかったのは、コングと恐竜との一大決戦のみ。それだったんでしょうな、きっと。だったら何も33年版を意識してリメイクする必要は無かったのではないのでしょうか。『キング・コング』をリメイクすると見せかけて、実際は、『キングコングの逆襲』か、それともアニメ版『キングコング』(同時上映短編は勿論『トムとジャック』)をリメイクするべきだったんだと思います。バートン監督のように「リ・イマジネーションだ!」と言い切っちゃえばイイ訳だし。それだと、恐竜や怪獣がイッパイ出てきてOKだし、コングも死なせずに済みますしね。やりたくないエンパイヤステートビルのクライマックスもやらずに済む訳で、上映時間ももう少し短くて済んだかも…。 (★★★)
King Kong
【テクニカラー/アリフレックス(2.35=S35)/ドルビー・デジタルEX/dts/SDDS/185'36"】
●ナビオTOHOプレックス・シアター2/前売券(¥1300)/約半分(10:20からの1回目)

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