巡回興行の巨匠・渡邊文樹監督の最新作。今回も以前の作品同様、ワタナベ・イズムが爆発しまくったケッ作(怪作?)になってますな。もう、最初から最後まで、感動しまくりっぱなしの80分に、心身共に色んな意味で揺さぶられてしまいました。
今回、渡邊監督が取り上げているのは、21年前の夏、群馬県御巣鷹山に墜落した日航ジャンボ123便事故。この事故が21年経った今でも、何かと話題にされ、さらに人々の記憶に強く印象付けられているのには
@単独の航空機事故として最大規模の犠牲者(520名+胎児1人)を出した事故である
A事故発生から墜落まで、32分間迷走し続けた
B事故調査委員会が発表した事故原因に多数の疑問点があり、未だに真の原因が解明されていない
以上の理由が挙げられるからで、とりわけ事故原因については、様々な文献で取り上げられていますが、実際に映像化されたものは皆無で、それに真っ向から挑んだこの作品の、その大いなるチャレンジ精神には、まず拍手を送りたいものですな。
事故原因については、表向きは、事故調査委員会が発表した“後部圧力隔壁の破壊によるもの”という事になっている訳ですが、どうもそれは眉唾臭さがプンプン。原因を究明した書籍等では、ほとんどがこの説を否定していて、様々な要因が議論百出しているのが現状ですが、確かに、裏に何かがありそうな臭いが致しますな。日米双方の、何らかの“裏取引”じみたものがあるような、そんな気配も感じる訳で、事故調が出した隔壁破壊説には納得しかねるというのが、大方の見方ではありますな。
そんな中でこの映画が導き出した事故原因は、自衛隊が放った演習用の無人標的機が、誤って123便の尾翼に衝突し、操縦不能に陥り迷走を続ける同機に、さらに追い討ちをかけるように(自衛隊の失態を隠蔽する為に)、最後は自衛隊機がミサイルを発射して御巣鷹山中に撃墜せしめた…というトンデモ説。これは、池田昌昭氏による「JAL123便墜落事故真相解明」

と、ほぼ同じ説で、一般的には、かなり“電波が入った説”と言われている説になる訳ですが、そこは渡邊監督、ストレートではなく、かなり変化球的な描き方で、それとなく唱えている所が可愛気があるというか奥ゆかしいというか。
映画は、事故から数ヶ月後、渡邊文樹自身(映画監督役ではない)が、福島のとあるお寺で静養中の中曽根首相(事故当時)に会いに行く所から始まる。剣道をやっている子供会と共に会いに来たという設定になっているのですが、一緒に来た子供たちが画面に全然登場しないのは、何とも居心地悪いですな。中曽根首相の側近(秘書?)曰く「個人的にも、2千万ほど献金して頂いている方なので、お会いになっては如何でしょうか」と、首相に伝えるんですが、中曽根と会う口実を作る為にわざわざ2千万もの大金を用意したというのが、あまりに大袈裟過ぎて笑ってしまうんですが、結局渡邊は、中曽根と会う事を許可されるんですな。
で、意外にも中曽根の口から、「数日前私の所に、元自衛隊員で、今は飛行機訓練の教官をしている男に会わせろと、一組のカップルが来た」という話をし始めるんですワ。因みにこの中曽根役の人、本人には全然似ていません。頭も禿げ過ぎているし…。
で、画面はフラッシュバックでの回想シーンとなり、その夫婦が何とかその男に会い、セスナ機上で話を伺うというシーンになる。同行のカメラマンと称する男も入れて、4人でセスナ機に乗り込み、そこで、この映画のキモとなる会話を交わすんですが、それというのが、その夫婦は、一人娘を日航機事故で失い、その原因が演習中の自衛隊が放った無人標的機が123便の尾翼に衝突したものと考え、さらに、自衛隊の失態を隠蔽する為に、ダッチロールを繰り返し迷走中の123便にミサイルを撃ち込んで、御巣鷹山に墜落させたんだという説に対しての事実を確認する為に、実際にミサイルを撃ち込んだ元自衛隊員のその男に、話を聞こうとした訳なんですな。勿論、元自衛隊員が、「ハイ、その通りです」と答える訳もなく、苛立って堪忍袋の緒が切れた旦那の方が、いきなりナイフを取り出し、セスナを操縦しているその男に襲い掛かるんですな。男の横に乗っていたカメラマンが止めに入ったりして、色々機内で揉み合っている最中、画面はいきなり、ドアを開けて、「ア〜!」と叫ぶ妻のカットに変わり、そして…。
何が起こったのかよく分からないまま、セスナ機はフラフラと蛇行運転を繰り返しながら、墜落するのかと思いきや、そのまま無事に空港に着陸。出てきたカメラマンが、ナイフで斬られて怪我をしている元自衛隊員を介抱して、フラッシュバック終了。ハァ〜???
結局、後で知った事ですが、どうやら、夫婦はセスナ機から落ちて死んだ模様。何だ、飛び降りたのかと思ったら、これも後から分かった事ですが、どうも、カメラマン男に落とされたらしいんですな。つまり、事故の秘密を知っている遺族夫婦を、セスナ機から突き落として抹殺したという事だったんですな。渡邊監督の、ヒッチコックを彷彿とさせる短いカットの連続と、斬新なモンタージュで、そこまで理解させようとするのは、どうも無理がありますな。
その事を中曽根自らが語るというのもヘンな話ですが、その後中曽根と渡邊との間で、過去の話(渡邊の肉親が、みんな航空機事故絡みで亡くなっている等の話…)を色々するんですが、その度にフラッシュバックによる回想シーンになって、過去と現代が入り乱れる、まるで『ゴッドファーザーPARTU』のような構成ぶりには、渡邊監督の才能を見たような気がしました。
で、結局の所、その殺された夫婦というのが、渡邊の娘夫婦だったらしく、渡邊にとっては、孫を日航機事故で失い、さらにまた娘夫婦を殺されてしまった訳で、その復讐の為、中曽根の所までやってきたんですな(実は、1971年の雫石事故でも奥さんを失っているという設定)。で、渡邊曰く「貴方の息子が乗ったジャンボ機(その前のシーンで、中曽根が息子に大阪へ行くようにと指示しているシーンがあった)に特殊な爆弾を仕掛けました。その爆弾は、高度8千フィートで、第一のスイッチが入り、それ以上の高度で飛んでいれば問題はないが、再びそれ以下の高度になると、第二のスイッチが入って爆発する仕掛けです」と、まるで『新幹線大爆破』の高倉健のようなセリフを吐くんですな。で、要求はというと、娘夫婦を死に至らしめた元自衛隊員とカメラマンをここに呼んで、その男たちに、日航機事故の真相を語らせろというもの。その要求を呑めば、爆弾を解除する方法を教えるってんですな。ナンで、中曽根にわざわざ直談判しているかというと、つまり、自衛隊にミサイル発射を命令したのは、中曽根だから…という事らしく、これは先程も紹介したように「JAL123便墜落事故真相解明」と同じ説なんですな。
なかなか大胆な発想というか、大胆な行動を取っている渡邊氏ですが、普通に考えたら、こんな人気の無い寺で、こんな怪しい小太りのオッサンに、現役の首相が会う訳がないと思うのですが、ま、そこは映画ですから。あと、どうやってジャンボ機に爆弾を仕掛けたのか、そして、どうしてのその機に中曽根の息子が乗る事を知り得たのか、これにも大いに疑問有りなのですが、ま、これもイイでしょう。(よくないか…)
映画はその後、またまたフラッシュバックによる回想シーンになり、怪我の為病院に入院していた元自衛隊員が何者かに殺され、また、それを見舞ったカメラマン(こいつも真相を知っていたヤツという事が判明)も、何者か(謎の集団・笑)に殺されるシーンが、一見、何が起こっているのか、場所と時間の感覚が全く分からなくなるトワイライト・ゾーンに迷い込んでしまったかの如く大胆なモンタージュで描写されて、ホント、疲れてしまいました。(事故現場を再現したシーンもちょっとだけ出てくるんですが、実際は夏だったのに、何故か冬に設定変更されていて、時間軸が歪んで来る事夥しいです…)
実は、その二人を始末したのも、誰でもない渡邊本人だった(!)訳で、それを告白した途端、「エエイ、野郎共、やっちまいな!」という中曽根の一言で、周りにいたボディカード(剣道着を着て竹刀を持った老人たち数百名…概算ですが…)が、渡邊に襲い掛かる! 当然、渡邊も竹刀で、それに応戦という、まるで『キル・ビル』に措ける青葉屋での主人公VS敵200人の死闘を彷彿とさせる大アクション・チャンバラ・シーンが展開! 何故か、竹刀で戦っているにも関わらず、手が千切れ、足が斬られ、首が飛ぶというスプラッター・シーンも登場。渡邊さん、巨体を震わせ、頑張ってくれています。相手はヨボヨボの老人ばかりですが、結構しつこい…。そして…
ド凄まじい死闘シーンに続いて、ラストは、アッ〜!!!!! と、驚く大ドンデン返し(爆弾を仕掛けられたジャンボ機の運命は…!?)で幕を閉じるんですが、観終わった後、渡邊監督のチャンバラ・シーンしか印象に残っておらず、結局、日航機事故の原因究明など、もうどうでも良くなってしまうような錯覚に陥ってしまうんですね。もしかして、これも最初から意図された演出だったんでしょうか…。
因みにこの映画、日航機事故について、ある程度知識が無いと、ちょっとついていけない(原作を読んでないと辛い『ダ・ヴィンチ・コード』並ですな)部分もあり、ガイドブックとして以下の書籍をお勧め致します。
★後項に続く★

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