洋の東西を問わず、どこもかしこもリメイク流行りで、飽き飽きしてきますな。でも、そう言いながら、「もしかしたら面白いかも…!?」という淡い期待を抱きながらも、ついつい観てしまうワタシのような人間が、世界の何処かにきっと、いるんでしような。
小松左京のベストセラーSF小説「日本沈没」のリメイク。オリジナル版公開後、テレビ版も製作されていたので、実質的には映像化されるのは3度目という事になる訳で、この手の映画の宿命で、どうしても前作と比較してしまうのは致し方無いとして、取り敢えず、そういう事を一切無視して、これが最初の映画化だと考えた上での感想は…。
やっぱりダメですな。ナンていうか、底が浅いというか、妙にノリが軽いんですな。主人公の行動原理が、イマイチよく掴めないんですな。現代的なのを意識して、ああいう優柔不断なキャラクターにしたっていうのは理解出来るんですが、それが最後に突如として犠牲的精神を発揮するのが極端というか…。狂言回しなら狂言回しで、最後までそれに徹底してくれたら、あのキャラも活きてくるんでしょうけど、あまりに唐突な行動にはあまり共感出来なかったです。
それと気になったのは、最後の政治家の演説シーンも含めて、ハリウッド製パニック映画『ディープインパクト』に異様に似た構成になっていた事。死んだフリをしていた馬が最後の直線になっていきなり追い込んでくるのと同様、『ディープインパクト』でも、死んだと思われていたシャトルの船員たちが生きていて、最後に犠牲的精神を発揮して特攻し、寸前で地球の危機を救っていましたが、本作も、それまでやる気の無かった主人公が、周りの人たちの熱意に絆されて、突如犠牲的特攻を試みて、日本の危機を救うという展開。そのお陰で、普通なら死んでいた人々が、結局死なずに済んで、生き残った人々に対して政治家(『ディープインパクト』の場合は大統領)が、「これから頑張って再建して行きましょう」と演説をするというソックリぶり。多分、作り手の頭の中には、少なからず意識があったんでしょうなぁ。
それでも、パニック映画として、それなりに面白く仕上がっていれば、それはそれで楽しめた訳なんでしょうけど、その部分でも物足りない所が多かったんですよね。中でもやはり、日本が沈没していく様子が、きめ細かに描かれていない事。ちょっとずつ小出し・小出しで描かれてはいるんですが、どうも全体的に盛り上がらないんですよね。ワタシは思うに、オリジナル版の頃と違って、今はCGでもナンでもやりたい放題なんだから、もっともっと明確に出来る筈のではないかと思うんですね。もっとハッキリ言うならば、日本沈没の影響によって人々が死ぬシーンを、もっと描いて欲しかったんですね。
日本沈没(主に地震と火山の噴火ですが)と一口に言っても、色んな死に方がある訳で、地震が起こった為の、地割れで死んだのか、その後の火災で死んだのか、上から何かが落ちてきて死んだのか…と、多種多様にある訳で、100万人死んだのなら、100万通りの死に方があるんですから、それを一人一人明確に…というのは無理な話でも、もう少し何とかならなかったものなのかと…。
ここで具体的な例を挙げるのもナンですが、パニック映画の帝王と言われたアーウィン・アレンが、『ポセイドン・アドベンチャー』と『タワーリング・インフェルノ』で、あれだけの才腕(監督だけじゃないですが)を奮っていたのに、その後の『スウォーム』では、何故あんなショボショボになってしまったかというと、やはり、人が死ぬシーンを明確にしなかったからだと思われます。『ポセイドン〜』や『タワーリング〜』は、一人一人、死ぬシーンをちゃんと描いていましたからね。だからあれだけ面白かったんですよ、きっと。だから、他の人が一人でも死なないように、主人公が命を張って頑張る姿に共感出来た訳ですよね。でも『スウォーム』では、例えば“蜂の大群が原発を襲いました。原発が爆発して300万人死にました…”という間接描写ばかりで、具体的に描いていなかったのが、盛り上がらなかった要因でもあり、ドラマ部分はつまらなくても、人が死ぬシーンがいっぱいあれば、それなりに面白いものに仕上がっていたのに…と、残念だった訳ですが、それと同じ事が、この『日本沈没』にも言えると思います。ナンで出し惜しみするかなぁ〜。
首相の乗った飛行機が墜落するシーンでも、飛行機に乗っていた人ばかりでなく、墜落した地点に住んでいた人も死んでいる訳で、それも新聞の「首相、死亡か?」の見出し記事だけで終わらせているのは勿体無いんですな。CGがあるんやから、ちゃんと描いてや、と思ってしまったのでありました。
やっぱりパニック映画は、人が死んでナンボだと思います。それが描かれていて初めて、人生に対する色んな教訓も浮かび上がってくる訳で、それがパニック映画の醍醐味だと思うんですな。ラブ・ストーリー風味だった『タイタニック』でさえ、人が死ぬシーンを克明に描いていましたからね。『ディープインパクト』を意識しないで『タイタニック』を意識すれば良かったのに…。 (★★)
カラー/2.35/ドルビー/134'21"
●ナビオTOHOプレックス・シアター7/特別鑑賞券(\1300)/満席(9:30からの1回目)

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