『ファム・ファタール』以来のデ・パルマの新作。『悪魔のシスター』以来、ずっと追いかけ続けているフェイバリット監督であるだけに、最近は多少ボルテージが落ちてきた感はあったものの、やはり、新作が公開されると、こうして初日からして駆け付けたくなるものでありますね。これはもう運命、性(さが)ですな。
今回は、エルロイ原作の映画化という事で、舞台も戦後間もない40年代で繰り広げられるハードボイルド・タッチのエロティック・スリラー(?)になっている訳ですが、猟奇的な殺人事件とエロの融合という辺りはいかにも“デ・パルマ・タッチ”なものの、全編に漂うハードボイルド・ムードというのが、どうもシックリ来ていないような気がしました。
勿論、エルロイの世界を映画で再構築するのは成功していると思うのですが、どうも、デ・パルマとハードボイルド(或いはエルロイの世界)というのが、上手くマッチしていないように思うんですね。自分のタッチを押し殺しても、エルロイの世界を構築しようとしているデ・パルマの悶々とした姿が目に浮かぶようで、むしろ、エルロイに拘ることなく、あくまでも自分のタッチを貫き通してくれた方が良かったような、そんな居心地の悪さを感じました。
そりゃあ勿論、『L.A.コンフィデンシャル』というエルロイ原作の成功作があっただけに、なるべくエルロイ色を消さないようにという期待も少なからずあったとは思い、また、そうしないと、原作のファンから貶されるという意味合いもあったのではないかとも思うんですが、以前にも『アンタッチャブル』を、元になるテレビ・シリーズから換骨奪胎させたり、或いは『ミッション:インポッシブル』でも、元のテレビ・シリーズから思いっきり脱却したりしていたデ・パルマであるだけに、例えば『スカーフェイス』のように、舞台を現代に移して、そこでデ・パルマ節によるエルロイ風の“脱構築”みたいな作品に仕立てても良かったのではないかと思ったりもした訳で、そういう意味では、ちょっと残念だったような気がしますな。
それにしても、真相が分かるに連れて、人間関係等がグダグダの趣になっていく展開は、これはハードボイルド映画の常套手段なんでしょうかねぇ。これを観ていて、70年代に作られたこの手の作品群『さらば愛しき女よ』や『チャイナタウン』や『新・動く標的』等を思い浮かべてしまいました。結局、この手の映画の行き着く所は、“あの男とあの女が関係していた”“結ばれてはいけない者どうしが関係していた”…といった、汚れた人間関係(=肉体関係)
というものが根底に流れるテーマになってしまうんでしょうね。伝説の“ブラック・ダリア事件”も、そんな痴話喧嘩の縺れに単を発していた…というのは、あまりにヒネリがなくて、夢(?)が無いような気がしました。尤もこれは、デ・パルマではなく、エルロイの原作がそうなっている訳ですが…。
気になった事が三つ。
その1。マーク・アイシャムの音楽がデイヴィッド・シャイアの『さらば愛しき女よ』に似ていたのは偶然でしょうか。サントラを聴き比べてみる必要有りですな。
その2。巷ではスカーレット・ヨハンセンの魅力が話題ですが、ワタシはヒラリー・スワンクが気になりました。結構イイ体してらっしゃったんですね。オスカーを獲った『ミリオンダラー・ベイビー』よりも、綺麗だったような気がしました。(役柄的に当たり前かも…)
その3。デ・パルマ映画のイコン俳優ビル・フィンレイが、意外にも重要な役で出ていた事。デ・パルマ映画に顔を見せるのは『フューリー』以来(『殺しのドレス』は声だけの出演)ですが、出てきた瞬間「これだ!」と分かるのがご愛嬌ですな。おまけに、“顔を潰された男”というのが、『ファンパラ』的で、ナンか嬉しくなってしまいました。彼が出てくるシーンにデ・パルマ得意のスローモーションが使われていたのも、彼に対する気持ちの表れかと。 (★★★1/2)
The Black Dahlia
カラー/2.35(S35)/ドルビー/119'43"
●ナビオTOHOプレックス・シアター3/予約券(\1200)/ガランガラン(8:15からのレイトショー)

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