『父親たちの星条旗』に続く“硫黄島2部作”の第2弾。前作がアメリカの側から描いたのに対して、本作は日本の立場から硫黄島の戦闘を描いた一編で、5日で終わるとされた戦いを36日間戦い抜いた日本兵たちの生き様・死に様を、本国の家族に宛てて書いた手紙を読み進める形で描いた感動作。
戦い抜きたい、生き残りたい、勝ちたい…勝って生き抜いて国に帰って家族に会いたい…という男たちの熱い思いと気持ちの葛藤が、過酷な戦闘を交えながら描かれる感動の戦争巨編で、映画が始まって20分ぐらいした時から涙が溢れて堪らなかったもので、そういう意味では上質な感動のドラマに仕上がっていると思います。
渡辺謙以下の演技陣も見事で、特に二宮和也の演技は意外な程上手く、映画の感動を盛り上げるのに十分な効果を出していたと思い、このキャスティングは見事でしたね。全体的に色物を排除した渋い顔ぶれになっているのも好感が持てました。
今の日本で、これだけの大作を撮れる監督は誰だろうと思っていたら、これ、日本映画じゃなかったんですね。ハリウッドが作った日本映画? でも見た目は、どの部分を切り取っても日本映画以外の何物でも無いという仕上がりで、ハハァ〜ン、製作はハリウッドでも監督しているのは日本人の監督なんだと思い、エンド・クレジットを見てみたら、これが何と外国人さん、しかもクリント・イーストウッドという名前がクレジットされているではないですか! ホ、ホントですか…。
これ、本当にイーストウッドが撮ってるのかなぁ〜…。というのが正直な思いです。確かに悪い出来ではないんですが、じゃあ他の同工異曲の作品と比較して、「これは確かに凄い。さすがはイーストウッドだ!」と感じさせる部分があったかというと、それがどうも見当たらないような気がするんですなぁ。誰が撮っても、とは言いませんが、そこそこの監督だったら、これぐらいの映画は撮れるような気がしてならないんですね。いつものイーストウッドらしさはほとんど見当たらない、通り一遍の映画になってしまっているのが、どうも気掛かりで…。
もし、もしですよ。もし本当にこれをイーストウッドが監督しているのだとしたら、かなり手を抜いているんじゃないかとも思うんですな。長年イーストウッド映画を観ていると、その違いってのを微妙に感じるんですよ。言葉では上手く説明できませんが。特に、前作を観た後だと、その違いが歴然としているというか、力の入れ所が違うというか…。勿論、戦勝国側と敗戦国側という、描く側に大きな違いがあるのは分かります。どちらも同じように描く訳にはいかないでしょう。当然ながら、テーマそのものも違ってくるのは当然なんですが、ナンというか、演出に弾みが無いというか、ストーリーを単になぞっただけに終始しているというのが、どうも気になってしょうがないんですね。
日本人が観て違和感が無いようにという、イーストウッドなりの計算があるとしたなら、それはそれで大したものなんですが、それなら自分で監督する必要があったのかどうか。元々は硫黄島の映画1本作る予定だったのが、プランが膨れすぎて、結局、米国側と日本側、双方の立場から描く事になったという事ですが、それは何となく言い訳のような気がするんですな。硫黄島は日本の領土だから、それに関して映画を作るなら、日本にも配慮が必要だという思いから出た、一つのサービス=アイデアだったような気がしないでもないような…。勿論、パブリシティとしての話題作りもあったんでしょうが、当初は日本側は日本の監督でと言っていたものが、直前になってイーストウッド自身が監督する事になった辺りの経緯は、これは関係者しか分からない事なんでしょうが、出来上がった映画を観るにつけ、バックに何か胡散臭いものを感じるんですな。これ、本当にイーストウッドが撮っているんだろうか…と。
紛れも無くこれがイーストウッド監督作品で、一切、手を抜いていないとしたなら、ここまで日本人の心情や人物像を巧みに描く事が出来るイーストウッドは、やはり只者ではありませんな。勿論、その為には、日本側スタッフの並々ならぬ協力があったのも事実でしょう。ここまで完璧と言ってイイぐらい、日本映画に成り得たハリウッド映画は、未だかつて観た事がなく、これが史上初になるのは間違いなく、そういう意味では“良く出来た”映画ではありますな。でも、何か引っ掛かるんですよねぇ。何かが…。 (★★★)
Letters from Iwo Jima
テクニカラー/2.35(S35)パナヴィジョン(カメラ&レンズ)/ドルビー/DTS/SDDS/139'10"
●ナビオTOHOプレックス・シアター2/前売券(\1300)/約3分の2(9:50からの1回目)

0