最近どうも、もの覚えが悪くなったというか、後期高齢者になってからというもの、人の名前が覚えられなくなったんですな。で、この映画を観ていて、ホラ、あのブツクサうるさい狂信的な神の使徒みたいな女の人の顔、どっかで見た事ある人だなぁと、映画が始まってからずっと考えてたんですが、なかなか出て来ないんですな。で、何かのシーンで、彼女が一人寂しそうな顔をしてひっそり佇んでいる姿を見て、やっと思い出したんです。「そうだ、『ミスティック・リバー』に出ていた人だ!」と。『ミスティック・リバー』で一人だけ可哀想な役をやっていた人(ティム・ロビンスの妻役)。その時は名前まで出てこなかったんですが、エンド・クレジットを見てマーシャ・ゲイ・ハーデンだとやっと分かった訳で、最近の映画はオープニングに役者名をクレジットしない場合が多くなったので困りますな。特にワタシのように予備知識をほとんどシャトアウトして観る者(今回も、スティーブン・キング原作、フランク・ダラボン監督という事しか知らなかった)にとっては、誰が出ているのか、登場するまで分かりませんからな。
ま、それはともかく、彼女が『ミスティック・リバー』に出ていた女優だと分かった瞬間、この映画自体が『ミスティック・リバー』の呪いで出来ているように感じてしまいました。観ていて思ったのが、彼女が『ミスティック・リバー』で味わった恨みや屈辱を、ここで思いっきり晴らしているのではないかと。あの時、自分一人だけが惨めな思いをした復讐をこの映画で果たしているような、そんな気がしたんですが、映画のラスト、話題になっているあの“衝撃のエンディング”を見たら、確かに『ミスティック・リバー』を観た時と同じ、陰鬱でどんよりとした、数週間は立ち直れそうにない沈んだムードに覆われてしまい、これはある意味、『続ミスティック・リバー』といっても過言でもないような映画だったと悟った訳です。おそらく、映画好きのダラボン監督も、その事を頭に入れながら撮ったと思うんですね。だからわざわざ、あの女優をキャスティングしたのではないかと。ワタシは勝手にそう思ってしまったのですが、如何でしょうか。『ミスト』と『ミスティック・リバー』って、タイトル自体も似ていますしね。
■▲以下、ネタばれがあります◎▼
それにしてもアメリカ人にとっては、得体の知れないモノに対する恐怖のイメージってのは、アレが総体的なイメージなんですかね。『宇宙戦争(スピルバーグ版)』にしても『クローバーフィールド』にしても、そしてこの映画にしても、みんな似たような怪物のイメージになっているんですな。デカい体で足(?)が長く、触手を伸ばして人をさらい、さらに細かい子分たちが大量に攻めてくる…という感じ。昔、火星人はタコのイメージがありましたが、その原型が、これらの映画にも見受けられるように思いますな。
それと、“誰も助からない”というのが、最近のこの手の映画のトレンドでもあるような気がして、単純なハッピーエンドを好まないワタシとしては大いに歓迎すべき事ではあるんですが、これはやはり、“9.11”以降、アメリカ人の中に潜んでいる心の病=トラウマのような気がするのは、ワタシだけでしょうか。この映画がテレビ放映されて、エンディングの解説に水野晴郎氏が登場したなら、きっと「この映画のラストは、今のアメリカ人の心の闇を写し出しているに違いありません。アナタのハートには何が残りましたか? では続いて、“水野晴郎の映画がいっぱい”です!」と、言うに違いありませんね。
そんな訳でこの映画の最終的な結論は、『ミスティック・リバー』的ストーリーに『ザ・フィースト』的設定に『クローバーフィールド』的恐怖をプラスした絶望感満載の映画って事になっていると思います。 (★★★★)
The Mist
テクニカラー/パナヴィション(カメラ&レンズ)=1.85/ドルビー・デジタル/DTS/SDDS/125'10"
●TOHOシネマズ梅田・シアター6/ネット券(¥1200)/ほぼ満席(20:20からのレイトショー)

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