ワタシの大好きな70年代パニック映画の傑作『サブウェイ・パニック』のリメイク。大好きな映画のリメイクなので、どうしても前作との比較になってしまうんですが、どうかご容赦を。また、文中に思いっきりネタバレがありますので、その点もご注意の程を。あと、妄想もあります。
そもそも前作の“キモ”は、「地下鉄なんかハイジャックしてどうすんだ…!?」というテイストが映画全編に流れていて、何かにつけて「犯人はアホか?」というムードが漂っていた事ですな。つまり、そのテイスト&ムードが映画全体にたゆまないユーモアを与えていて、それが面白さの要因の一つになっていたと思われるんですな。
しかし、今世紀に入ってリメイクされた本作は、“9.11”以後という事もあり、前作にあったユーモアはほとんどなく、全編ピリピリした張り詰めた緊張感が漂っていて、「地下鉄なんかハイジャックする犯人はアホちゃう?」という事を誰も指摘しないんですな。前作なんか、あの市長さえも、「地下鉄車両が欲しけりゃ、くれてやったらイイ」と言っていたぐらいで、ハイジャック事件を大事(おおごと)に捉えてなかった訳で、そのみんなの「そんなアホか」的感覚を、ハイジャック犯の緻密&大胆な作戦によって、徐々にリアルなものに仕上げていったその辺りの、所謂逆の意味でのカタルシスが、パニック映画としてよりも犯罪映画として傑作に仕立てられた要因でもあったんですが、なのにこのリメイクは…。
この手の犯罪は全てテロ扱いにされて、テロ対策としての手続きが取られるのは、まぁ致し方ない事なのだとは思うし、それが今の時代のリアルな描写ではあったんでしょうけど、どうもシリアス過ぎて息を抜くところがないんですな。デンゼル・ワシントンでは前作のウォルター・マッソーのようなトボけた味は出せないんでしょうが、その分、前作ではシリアス一辺倒だった犯人側(特に主犯のトラヴォルタ)が、皮肉を言いながらの犯罪遂行という風にアレンジされているのはイイとしても、それにしてもトラヴォルタは無駄口叩き過ぎ。結局あれで自分の身分を明かしてしまう事になったし、車内をずっと写されていたパソコンのネット映像に関しても、あまりに放置し過ぎなのも困りもの。それにやたらとキレて人を殺すのも不快ですな。前作の犯人たちが、凄く緻密に犯行を行っていたのに対し、今回の犯人はあまりに杜撰。自分たちで墓穴を掘っていったのには呆れてしまいました。
あと、デンゼル・ワシントンの贈賄容疑の件も取って付けたようだし、結局トラヴォルタは何をやりたかったのかよく分からないし、おまけに、4人の犯人たちが、全員警察に射殺されて終わるというのが、何とも味気無さ過ぎて面白くないですな。前作では、警察に射殺されたのは一人だけで、一人は仲間に殺され、もう一人は自殺と、それぞれバラエティに富んだ最期を迎えていた事を思うと、リメイク作としてはアイデアが後退しているような気がしますな。
因みにワタシがリメイクを作るとしたら、前作の続編として作りますな。まず、地下鉄がハイジャックされたら、35年前に同じような事件が起きているという事を前提に話を進めるんですな。で、前回の事件のマニュアルを参考に、犯人たちに対して「お前らの考えは全てお見通しだ。仲間は4人で、その内の一人は、元地下鉄の運転士だろう。それに、誰か風邪をひいてるヤツがいるんじゃないか。最後は“死人のブレーキ”を解除して車両を暴走させて、お前らは途中の古びた駅から脱出するつもりだろう。残念ながら今回も失敗だ。ハハハ」とか言って安心していたら、犯人がまた頭のキレるヤツで、その警察側の読みを一つ一つウラをかいていくんですな。で、最後、車両が暴走し始めても、犯人たちは途中で降りてなくてまだ乗ったままで、そのまま終点のサウスフェリーまで時速100キロで暴走し続けるので、警察側は大慌て。しかし、この犯罪には、誰もが驚く超ビックリのトリックが隠されていたのであった…。そのトリックとは…!? という具合に、前作をパロディにしながら、前作以上に大胆に、そして繊細に犯行を重ねていくというようなストーリーにしようと思うのですが…。アホですな。
ま、今更言っても遅いですが、いずれにしても、またしてもリメイクは失敗だったと言わざるを得ませんな。ナンか、無駄なお金使って、わざわざつまらない映画を作っているような気がして、勿体無いですな。今のハリウッドには、純粋に面白い映画を作ろうとするアイデアもパワーも才能も無くなってしまったんでしょうか。(★★)
The Taking of Pelham 123
デラックス・カラー/パナヴィジョン(フィルム)=2.35/ドルビー・デジタル/DTS/SDDS/105'08"
●TOHOシネマズ梅田・シアター3/ネット先売券(¥1200)/ガラガラ(21:00からのレイトショー)

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