クエンティン・タランティーノ監督待望の新作。毎回“待望の新作”といわれるぐらい、日本では公開前に話題になるのが通例になっている気がしますが、その割にヒットしないのも毎度のパターンになっておりますな。一部のマニアだけが煽るだけ煽って、一般の映画ファンからはソッポを向かれてしまうというパターンを、今まで何度見てきた事か。と言いつつ、今回も初日からして観に行ってしまったのは、ワタシが猛烈なタランティーノ・ファンの一人でもあったからですが…。
今回も、お馴染みのダラダラした会話シーンが続く退屈極まりない内容になっている訳で、タランティーノ映画に全然興味無い人からすれば、「何これ?」の連続でしょうな。期待したブラッド・ピットも全然活躍しないし、それどころか、あの役は別にブラピでなくても全然問題無い訳で、ブラピは単なる“客寄せパンダ”だった事がよく分かりますな。逆に、むしろ“主演”といっても過言ではないランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツのカッコいい事! あの憎々しい演技が強烈で、何ヶ国語も流暢に喋れてしまう才能も素晴らしいですな。まさに、この役を演じる為に生まれてきたような役者さんで、彼の才能を見出したという事だけでも、タランティーノは天才ですな。
で、そのタランティーノ得意のダラダラした会話ですが、前作の『デス・プルーフ』は狙ったかのように無駄な会話の連続でしたが、今回は、ダラダラ会話が無駄になっていないのがイイですな。どの会話も、一見無駄のように見えて、しかし、セリフの一言一言がスリリングなサスペンスに満ちていて、もうハラハラ・ドキドキの連続。この辺りのサスペンス描写に関しては、タランティーノの演出も随分上手くなったものだと感心致しました。
あと、今回も例の如く、各章に分かれた構成になっているんですが、珍しく時間軸は歪んでおらず、ちゃんと時系列通りになっていたのにも好感が持てましたな。『キル・ビル』の時に「復讐物語なのに、時間軸をイジってしまうと、盛り上がりに欠ける」とワタシが指摘した事に従ってくれたようで(笑)、今回は復讐談としてちゃんと成立しておりました。
それにしても戦争映画であるにも関わらず、戦闘シーンがほとんど出て来ない(劇中に上映される映画の中の戦闘シーンの方が派手だった!)というのも、いかにもタランティーノらしくてユニークで、二つの側から描いた物語が一切交わらず、最後の最後になってひとまとめになるという爆発的なケジメの付け方も、皮肉っぽくてイイですな。その、安っぽい“バッタもん戦争映画”的雰囲気が、タランティーノが元ネタにしたマカロニ戦争ものの香りを存分に醸し出していて、取り敢えず『地獄のバスターズ』的ムードも出せていたように思いますな。
マカロニといえば、ランダ大佐が農場主と話す長々としたオープニングのシーンに『続・夕陽のガンマン』のオープニングのリー・ヴァン・クリーフの件を想起して、この農場主はいつ殺されるんだろうとハラハラしたもので(結果は全然違いましたが…)、『白熱』や『戦略大作戦』のサントラをバックに流す事を考えるに、バート・レイノルズやクリント・イーストウッドなどのマカロニ出稼ぎスターにもオマージュを捧げているんだなぁと嬉しくなったりしましたな。
という事で、『ジャッキー・ブラウン』以来、タランティーノのドラマ・ツルギーが楽しめる傑作で、DVDになってからも何度も繰り返し観てみたい映画ですな。(★★★★)
Inglourious Basterds
カラー/パナヴィジョン(フィルム)=2.35/ドルビー・デジタル/DTS/SDDS/151'19"
●TOHOシネマズ梅田・シアター2/ネット先売券(¥1200)/ガラガラ(20:00からのレイトショー)

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