いつもの如く、上映会は入れ替え制なので、次の作品を鑑賞する為には一旦外に出ないといけない。次は14時からの上映なので、まだ30分近く時間が空く。同じ作品の最終回上映が夕方6時半(その前に5時半からシンポジウムもあるとの事)からで、一旦家に帰ってから出直そうかと思ったものの、30分だったらちょっと時間を潰せば…という事で、少しばかり近所を徘徊して、ついでに腹ごしらえもして時間を潰す事に。
そして14時から観賞スタート。今回は今まで以上に観客が多くて、ちょっと嬉しくなってしまいましたな。と言っても、8〜9人だったのが15人に増えただけですが。因みにこの上映会場、油野美術館(まぁ小さな古本屋さんですが…)の2階のスペースを使っての上映で、間取りは推定12畳ぐらい。そこに映写機や音響機材が入り込み、席はパイプ椅子を並べただけ。全部埋まっても20席ぐらいですかな。当然スクリーンなんてものも無く、白い壁に直接映写するだけで、画面サイズもテレビの80インチぐらいですかな。ま、それでもウチのテレビよりは大きい訳でして。
さてこの『金正日』は、今回のメイン・イベント。渡辺監督の新作ですな。この作品だけは8日間毎日上映される訳で、最初は観る予定は無かったんですが、昨日からの勢いで、これも観る事にしました。途中に休憩まで入る2時間半の大作! まぁ、休憩が入るのは、フィルムを入れ替える必要があるからだと思われますが(なにせ16mの映写機1台で上映してますので)、しかし、盛り上がってきたところで休憩になるのは、これまたいかにも大作って感じで、高揚感がありますな。
タイトル通り、現・北朝鮮の偉大なる指導者・金正日に纏わるインサイド・ストーリーで、冒頭からいきなり金正日と親父である金日成との会話で始まる訳ですが、各人それぞれを横から捉えたフィックス・ショットの切り返しの連続で、しかもそれぞれが結構な長ゼリフを喋るのをずっと捉えただけという単調さにまずノックアウトされますな。演じてるのが両者ともズブの素人なので、台詞回しも覚束ず、幾度となくセリフを噛んだり言い間違ったりするんですが、それをそのままカメラを回したまま撮り続けているのが何とも大胆(まぁ、専門用語で“手抜き”とも言いますな)で、しかもこのシーンが結構長く続くので、いい加減観てる方は飽きてきます(しかも相変わらずほとんどのセリフが聴き取り難く、とりわけ金正日を演じてる人のセリフは90%ぐらい聴き取れませんでした)が、このシーンの最後に凄いシーンがあるので、それでやっと目が覚めるという次第。
渡辺文樹の映画では、毎回誰も考え付かないような大胆な設定&陰謀説があり、例えばこの前の『天皇伝説』では、明治天皇は○○で大正天皇は△△、さらに昭和天皇は□□だった…というものだったですが、今回の作品に於ける設定というか渡辺説は、金正日は既に殺されていて、今は二代目の影武者だとの事。その二代目も病魔に犯されていて、そろそろ世代交代という状況だとの事なんですな。
そこで今回のテーマは、CIAの特殊機関に属している渡辺文樹(!)が、現在北朝鮮に拉致されている日本人を奪還する為のシミュレーションを考案、部下がそれを実行に移す為に暗躍し、若き自衛官14人のエキスパートを招集、3ヶ月の訓練の末、遂に奪還作戦が遂行されるといったもの。前半は、訓練中の隊員たちのイザコザや確執等が描かれ、色々あって本来は影で作戦指導に徹する予定だった渡辺が、自ら自衛隊員を率いて北朝鮮に突撃する事になるという展開が、強引というか凄いというか…。今回も渡辺監督、頑張ってくれております。
で、この展開、どこかで観たなぁと思っていたら、そのまま『特攻大作戦』ですな。訓練シーンなんかもそのノリで、隊員たちの不安や確執を描いたシーンもそのまんまという感じ。しかも驚くべき事に、敵陣に乗り込み、ある場所で開かれている晩餐会のような所を破壊し、さらに拉致されていた被害者を救出する中盤のシーンでは、例えば会場に入るシーンで、北朝鮮の軍人に変装した隊員と、その運転手に化けた渡辺の二人が、受付でサインをしろと言われたものの、書いたら正体がバレてしまうので、わざとインクをこぼして書かなくてイイように持っていくシーンは、そのままズバリ『特攻大作戦』にもあったシーンですな。『特攻大作戦』では、そのシーンをチャールズ・ブロンソンとリー・マーヴィンがやっていた訳ですが、そうするとこの映画の渡辺さんの役割はリー・マーヴィンって事になりますな。
その間に他の者が建物に侵入、爆弾などを仕掛けて敵を全員皆殺しにするというのも『特攻大作戦』そのままで、なるほど、先ほどの『天皇伝説』が『フレンチ・コネクション』や『荒鷲の要塞』だった事を思うと、今回は『特攻大作戦』や『ナバロンの要塞』等の潜入ものアクション&戦争アドベンチャー映画の体裁になっていたんですな。あと、お決まりの仲間の裏切りやドンデン返し的な意外な展開なんかもあり、まさしくこれはアリステア・マクリーンの世界。これがやりたかったんですな、渡辺さん。
見事に埒被害者(ニュース等でよく聞く名前の方が数人いらっしゃいました)を奪還し、あとは国を出るだけという時に、来るはずの米軍のヘリが来ず、その為に敵に捕まって列車で護送される(ここで一旦休憩に入るのが上手いですな)ものの、間を突いて列車を奪って脱出するという展開で、この辺りは『脱走特急』なんかも想起させますな。実際、列車での追いつ追われつの展開や、列車の屋根の上でのアクション&銃撃戦等、この手の戦争アクションものの見せ場が一応全部揃っているというサービス満点の映画で、これ程娯楽に徹した渡辺作品も珍しいですな。なにせ渡辺監督、マシンガンを撃ちまくりますからな。カッコ良い事この上ないですな。しかも、クライマックスは、何と! 『ワイルド・ギース』的シーン(空港での、あのシーンです!)も見せてくれて、“男泣き”テイストもちゃんと味合わせてくれているという念の入れようですな。この映画では勿論、渡辺さんがリチャード・ハリスですな。
そんな訳で、今回の新作、『ナバロンの要塞』や『ナバロンの嵐』等のアリステア・マクリーン風味の要塞潜入アクションに、『特攻大作戦』『脱走特急』『ワイルド・ギース』等の傭兵もの戦争アクションを加味した文字通りのエンターテインメント大作に仕上がっていて、2時間半がアッという間に過ぎてしまい、冒頭の退屈さを吹き飛ばしてくれておりましたです。
尤も、いつも通り、編集がメチャクチャだとか、特撮がチャチだとか、セリフがほとんど聴き取れないとか、素人集団の演技がヒド過ぎるだとか、渡辺映画特有の相変わらずの問題はありますが、ここまで楽しませてくれたら文句は言えませんな。上映後、いつも観客の拍手で終わる訳ですが、今回観た3本の中では、この作品に対する拍手の数が一番多かったように思われますな。みんな、それだけきっと満足したという証拠なんでしょうな。例え低予算でも、作りようによっては、見応えのある映画は出来る(ま、面白いかどうかは別として…)という事を身を持って証明した渡辺文樹監督に乾杯(完敗?)ですな。これで入場料千円は安いですな。我々が払った入場料を元に、またユニークな映画を作ってくれる事を期待したいと思います。(BOMB!)
カラー/1.33/153'44"
●油野美術館/当日券(¥1000)/15人(14:00からの2回目)

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