中西鼎『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』(新潮文庫、2019年)は青春小説。主人公は、高校の文化祭の夜に軽音部室で同級生の少女が殺害された事件をきっかけに脱け殻のような日々を過ごしてきた会社員。事件から五年後のある日、少女の幽霊が現れる。
幽霊が非物理的な存在であるが、現実の人や物に影響を及ぼすことがある。というよりも及ぼせなければ、現実の人間が認識できず、幽霊話が成立しなくなる。この点で幽霊の設定は、ある面では物理法則を無視し、別の面では物理法則に従う御都合主義的なところがある。本作品では幽霊と現実の物質の関係を一つのルールによって説明する。成る程と思わせるものである。

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