北村薫『北村薫のうた合わせ百人一首』(新潮文庫、2019年)は現代短歌のレビューである。著者は埼玉県出身の作家。五十の章からなり、一つの章は二首の短歌を掲げている。それ故に、うた合わせ百人一首である。
ところが、各章では二首を対比して掘り下げている訳ではなく、多数の短歌を紹介している。筆の向くまま書いている感じである。うた合わせでもなければ百人一首でもない。
もっとも百首に限定する百人一首という感覚が和歌の伝統からは邪道だろう。ちょうど新元号の令和は万葉集に由来し、万葉集への注目が集まっている。本書のようなパターンが面白い。
本書は著者の世代感覚が反映されている。昭和の風俗は氷河期世代の私にはギャップがあるものも多い。それは著者も自覚しており、以下のような表現が度々登場する。「この『活字』が、今の若い人に分からない」(213頁)。戦前だけでなく、昭和の戦後も一時代前という自覚が必要だろう。著者のように自覚があれば良いが、昭和の常識の押し付けが現代日本の不幸の源に感じる。
歌集はカルピス原液であるのに対し、本書は散文という水を付け足したオリジナルカルピスと評された(297頁)。言い得て妙である。歌集や詩集を読み進めていく大変さがうまく表現されている。歌集や詩集を出版することは大変である。本書のように数行の散文を加える工夫は一つの解決策になるのではないか。

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