「梯久美子」の
『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』を読みました。
先日、
「阿川弘之」のエッセイ集
『エレガントな象 ―続々 葭の髄から』に収録されていた
『聯隊・聯合艦隊』で本作品が紹介されていたので読みたくなりました。
-----story-------------
2006年大宅壮一ノンフィクション賞を圧倒的評価で受賞!!
文章の品格、構成の的確さ、抑制のきいた表現。
各紙誌絶賛の傑作。
硫黄島で米軍を最も怖れさせた指揮官は、家族に手紙を送り続けた父でもあった。
絶海の孤島・硫黄島で、総指揮官は何を思い、いかに戦ったのか……。
水涸れ弾尽き、地獄と化した本土防衛の最前線・硫黄島。司令官
「栗林忠道」は5日で落ちるという米軍の予想を大幅に覆し、36日間持ちこたえた。双方2万人以上の死傷者を出した凄惨な戦場だった。
玉砕を禁じ、自らも名誉の自決を選ばず、部下達と敵陣に突撃して果てた彼の姿を、妻や子に宛てて書いた切々たる41通の手紙を通して描く感涙の記録。
死にゆく将兵を
「散るぞ悲しき」とうたった帝国軍人らしからぬ辞世。
玉砕という美学を拒み、最期まで部下と行動を共にした指揮官のぎりぎりの胸中に迫る。
いま、日本人を考えるための必読書。
-----------------------
6年近く前に観た
「クリント・イーストウッド」監督作品
『硫黄島からの手紙』の主人公
「栗林忠道」を描いたノンフィクション作品。
以下の十章で構成されています。
プロローグ
第一章 出征
第二章 二二キロ平米の荒野
第三章 作戦
第四章 覚悟
第五章 家族
第六章 米軍上陸
第七章 骨踏む島
第八章 兵士たちの手紙
第九章 戦闘
第十章 最期
エピローグ
指揮官
「栗林忠道」だけでなく、戦略的に見捨てられ、援軍も補給もない絶海の孤島… 極限の状態で戦意を消失せず最期まで闘った将兵全てに捧げる作品ですね。
そして、
「栗林忠道」の人柄に惚れ、
「観察するに細心で、実行するに大胆」という
「栗林忠道」の仕事ぶりに感銘しました。
「栗林忠道」のとった具体的な行動、、、
自ら現場に赴き現場を仔細に観察するだけでなく、現場では一兵卒にまで声をかけ、
兵卒と同じモノを食べ、同じ量の水しか飲まず、
闘う兵員全員のベクトルを合わせ士気を高揚するために
「敢闘の誓」を作成、配布し、
行動をより具体的に示するため
「膽兵の戦闘心得」指示し、
(膽は師団につけられた文字符で一種の暗号名)
部下将兵の功績調査を行い感状(最高指揮官からの表彰状)を与えることでモチベーションを維持し、
戦訓電報で上層部の無能さを指摘し、
と、これらは、企業におけるマネジメントにも大きく通ずる部分があり、とても勉強になりました。
そして、本書のタイトルにもなっている
「散るぞ悲しき」… これは部隊の最期を告げる訣別電報の一部なのですが、当時は一部が改竄されて報道されたようですね。
== 訣別の電文 ==
戦局最後ノ関頭ニ直面セリ 敵来攻以来
麾下将兵ノ敢闘ハ真ニ鬼神ヲ哭シムルモノアリ 特ニ想像ヲ
越エタル量的優勢ヲ以テスル陸海空ヨリノ攻撃ニ対シ
宛然徒手空拳ヲ以テ 克ク健闘ヲ続ケタルハ
小職自ラ聊(いささ)カ悦ビトスル所ナリ
然レドモ
飽クナキ敵ノ猛攻ニ相次デ斃レ 為ニ御期待ニ反シ 此ノ要地ヲ敵手ニ委ヌル外ナキニ至リシハ
小職ノ誠ニ恐懼ニ
堪ヘザル所ニシテ幾重ニモ御詫申上グ 今ヤ弾丸尽キ水涸レ
全員反撃シ 最後ノ敢闘ヲ行ハントスルニ方(あた)リ 熟々(つらつら)皇恩ヲ思ヒ 粉骨砕身モ
亦悔イズ 特ニ本島ヲ奪還セザル限リ 皇土永遠ニ安カラザルニ思ヒ至リ 縦ヒ魂魄トナルモ 誓ツテ皇軍ノ捲土重来ノ魁タランコトヲ期ス
茲(ここ)ニ最後ノ関頭ニ立チ 重ネテ衷情ヲ披瀝スルト共ニ 只管(ひたすら)皇国ノ必勝ト安泰トヲ祈念シツツ 永ヘニ御別レ申シ上グ
尚父島母島等ニ就テハ 同地麾下将兵 如何ナル敵ノ攻撃ヲモ 断固破摧シ得ルヲ確信スルモ 何卒宜シク申上グ
終リニ左記〔注:原文は縦書き〕駄作御笑覧ニ供ス
何卒玉斧ヲ乞フ
* 国の為 重き努を 果し得で 矢弾尽き果て 散るぞ
悲しき[新聞発表では、「悲しき」の部分を「口惜し」と改竄の上、発表された。]
* 仇討たで 野辺には朽ちじ 吾は又 七度生れて 矛を執らむぞ
* 醜草(しこぐさ)の 島に蔓る 其の時の 皇国の行手 一途に思ふ
太字は削除及び改竄されたところ
(
新聞に掲載された、大本営発表の電文)
戦局
遂に最後の関頭に直面せり
十七日夜半を期し小官自ら陣頭に立ち、皇国の必勝と安泰とを祈念しつ、全員壮烈なる総攻撃を敢行す
敵来攻以来想像に余る物量的優勢を以て陸海空よりする敵の攻撃に対し克く健闘を続けた事は小職の聊か自ら悦びとする所にして部下将兵の
勇戦は真に鬼神をも哭かしむるものあり
然れども執拗なる敵の猛攻に将兵相次いで斃れ為に御期待に反し、この要地を敵手に委ねるのやむなきに至れるは誠に恐懼に堪へず、幾重にも御詫び申し上ぐ
特に本島を奪還せざる限り皇土永遠に安からざるを思ひ、たとひ魂魄となるも誓つて皇軍の捲土重来の魁たらんことを期す、今や弾尽き水涸れ
戦い残れる者全員いよく最後の敢闘を行はんとするに方り熟々皇恩の
忝さを思ひ粉骨砕身亦悔ゆる所にあらず
茲に将兵一同と共に謹んで聖寿の万歳を奉唱しつつ永へ御別れ申上ぐ
終りに左記駄作、御笑覧に供す
*国の為重きつとめを果たし得で 矢弾尽き果て散るぞ
口惜し
* 仇討たで 野辺には朽ちじ 吾は又 七度生れて 矛を執らむぞ
* 醜草(しこぐさ)の 島に蔓る 其の時の 皇国の行手 一途に思ふ
新聞に掲載された原文のまま。
下線は新たに加筆された所
==========
「第八章 兵士たちの手紙」で、兵士たちが内地に送った手紙、嫁や子どもが戦地の夫や父親に送った手紙を読んでいると、自然に涙が流れてきましたね。
そして、末娘の
「たか子」が父親について語った言葉が忘れられません。
「兵隊さん達はみんな、どんなに苦しくても、最後まで父を信じてついてきてくれた。父のような立場の人間にとって、それ以上の幸せがあるでしょうか」
「栗林忠道」… 人柄、生き方、考え方、そして具体的な行動に至るまで、尊敬し、見習いたいと思える魅力的な人物ですね。

0