「小林泰三(こばやしやすみ)」のミステリー連作集
『大きな森の小さな密室(Muder in Pleistocene and Other-Stories)』を読みました。
「小林泰三」作品は初めて読みますが、元々はホラー系で著名になった作家で、SFも含め、幅広いジャンルの作品を発表されているようですね。
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会社の書類を届けにきただけなのに。
森の奥深くの別荘で
「幸子」が巻き込まれたのは密室殺人だった。
閉ざされた扉の奥で無惨に殺された別荘の主人、それぞれ被害者とトラブルを抱えた、一癖も二癖もある六人の客……表題作
『大きな森の小さな密室』をはじめ、死亡推定時期は百五十万年前! 抱腹絶倒の
『更新世の殺人』など七編を収録。
ミステリお馴染みの
"お題"を一筋縄ではいかない探偵たちが解く連作集。
(単行本版タイトル
『モザイク事件帳』を文庫化・改題)
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ユーモアたっぷりの、以下の7篇のミステリ作品で構成されています。
■大きな森の小さな密室……犯人当て
■氷橋……倒叙ミステリ
■自らの伝言……安楽椅子探偵
■更新世の殺人……バカミス
■正直者の逆説……??ミステリ
■遺体の代弁者……SFミステリ
■路上に放置されたパン屑の研究……日常の謎
■小林泰三の名探偵たち
■解説 福井健太
表題作の
『大きな森の小さな密室』は、密室殺人事件の犯人当てモノ、、、
森の奥深くにある別荘等、現実味のない設定に、別荘に居合わせた6人の男女(容疑者)の不自然な会話、殺人事件発覚(死体発見)時の妙に落ち着いた行動等、リアリティのない展開で感情移入し難かったですが、その分、ゲーム感覚で愉しめる作品でした。
返り血を浴びたことを隠すため、捜査を攪乱させようとしたという密室作り(密室を作ることそのものよりも、扉を押し開けたあとの行動が目的でしたけど… )の動機は面白かったですね。
『氷橋』は、最初に犯人が判明しており、徐々に犯行が暴かれて行く倒叙ミステリモノ、、、
編集者の
「乙田三郎太」は、不倫関係にあった作家の
「二ノ宮里香美」を氷の板(橋)を使ったトリックで殺害… 完璧なアリバイを作るが、探偵役の弁護士
「西条源治」の執拗で巧みな誘導尋問に、ついついトリックのヒントとなることを吐露してしまう。
「西条源治」は、好きになれないキャラですが、犯人を追い詰めるスキルには感心しましたね。
『自らの伝言』は、コンビニでアルバイトとして働いている探偵役の
「新藤礼都」が現場を訪れることなく事件を推理する安楽椅子探偵モノ、、、
同じコンビニでアルバイトをしている
「睦月早苗」の友人
「長柄宮菜穂子」の交際相手が殺害され、
「礼都」が事件を解決に導きます。
殺された
「秋葉猛士」は、超地球サイエンス研究所に勤め、怪しい研究(水の潜在能力の研究)をしており、研究をするために低温の研究室で実験をしている際に殺され、死亡時刻が特定困難という状況… 第一発見者の
「菜穂子」に容疑がかかることを恐れた
「早苗」は証拠隠滅を図るが、その行動には不審な点が、、、
「猛士」が、使い捨て携帯電話という不法な商品を扱っているところも真相究明のヒントになっていましたが… それにしても、
「菜穂子」の無知で世間知らずな言動は苛立たしいくらいでしたね。
これじゃ、騙されても仕方ないような感じがします。
タイトルは、
”水からの伝言”という馬鹿げた研究テーマをパロったようですね。
「礼都」のクールな探偵ぶりが、なかなか良いですね…
『氷橋』に登場した
「西条源治」も、チョイ役で登場しています。
『更新世の殺人』は、発掘現場から発見された死亡推定時期が百五十万年前という女性の絞殺死体の謎を解く馬鹿馬鹿しいミステリ(バカミス)モノ、、、
生々しい死体なのに、更新世(百五十万年前)の地層から出土したから、更新世の死体に違いないという論拠… どう考えてもあり得ない状況を信じ、真面目に、そして論理的に謎を解こうとする馬鹿馬鹿しさ、真面目に読んじゃダメですね。
「探偵Σ」の論理的な迷推理と、
『自らの伝言』に続いて登場する
「礼都」のクールな推理が対照的な作品です。
良く言えば
『裸の王様』的な内容… まっ、息抜きできる作品でしたね。
『正直者の逆説』は、雪で閉ざされた山荘で起こった資産家
「金盥狆平」殺人事件を、その場に居合わせた自称探偵でマッドサイエンティストの
「丸鋸遁吉」、助手の
「わたし」、
「金盥」の甥
「怠司」、姪の
「難美」、タクシー運転手の
「平平平平(ひらだいらへっぺい)」、召使の
「綾小路」、医者の
「梅安」の七名が、お互いを疑いながら犯人を特定していく物語、、、
うーーーーん、謎解きのための文章がややこしくて(論理的なのかもしれませんが…)、途中から読む気力を失ってしまい、かなり読み飛ばしてしまいましたね。
繰り返し読まないと理解できない文章はイライラしちゃうんですよねぇ… 好きな人には堪らない作品なのかもしれませんが、マニアック過ぎて面白さがわかりませんでした。
『遺体の代弁者』は、殺人事件の被害者の海馬をスライスしたものを脳に移植することで、被害者の記憶を脳内で再生することができる
「スピーカー・フォア・ザ・デッド・システム」が登場するSFミステリモノ、、、
『正直者の逆説』に続きマッドサイエンティストの
「丸鋸遁吉」が登場し、
「丸鋸」に脳を改造された
「田村二吉」が、被害者の記憶を再生しながら真相を究明しようとします…
「スピーカー・フォア・ザ・デッド・システム」の機能を逆手に取り、被害者の海馬が入れ替えられていたりというトリックは、なかなか愉しめました。
でも、自分の頭を改造されて、他人の海馬を接続されるなんて… グロテスクな姿ですよねぇ、、、
映像化したら面白そうな作品ですが、グロテスクな描写をどうするかが課題でしょうね。
『路上に放置されたパン屑の研究』は、殺人事件等の大掛かりな犯罪ではなく、日常の謎(どうでもいいような事象)がテーマとなっているミステリモノ、、、
『遺体の代弁者』に続き
「田村二吉」が前向性健忘症という設定で登場し、
『大きな森の小さな密室』で探偵役を務めた
「岡崎徳三郎(徳さん)」と二人でのやりとりで、物語が終始します。
「徳さん」が、
「田村二吉」が前向性健忘症ということを知りながら何度も同じやりとりを繰り返す目的は… ちょっと無邪気だけど、ブラックなオチでしたね。
全体的にはまずまずでしたかね。

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