「伊坂幸太郎」の長篇作品
『モダンタイムス』を読みました。
『フィッシュストーリー』、
『ゴールデンスランバー』に続き
「伊坂幸太郎」作品です。
-----story-------------
検索から、監視が始まる。
〈上〉
恐妻家のシステムエンジニア
「渡辺拓海」が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。
けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。
そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。
彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
〈下〉
5年前の惨事――播磨崎中学校銃乱射事件。
奇跡の英雄
「永嶋丈」は、いまや国会議員として権力を手中にしていた。
謎めいた検索ワードは、あの事件の真相を探れと仄めかしているのか?
追手はすぐそこまで……大きなシステムに覆われた社会で、幸せを掴むにはーー問いかけと愉しさの詰まった傑作エンターテイメント!
-----------------------
もう2年以上も前に読んだ
『魔王』の続篇で、その50年後を舞台にした800ページ近いボリュームのエンターテイメント巨編、、、
そして、先日読んだ書下ろし作品の
『ゴールデンスランバー』執筆中に、並行して週刊漫画誌
『モーニング』に連作され、いずれも大きな社会システム(国家権力や社会構造そのもの)が敵となっており、双子関係にある作品です。
ただし、主人公の敵との接し方は、まるっきり逆、、、
ひたすら逃亡し続けようとする逃避の物語として描かれる
『ゴールデンスランバー』と、勇猛果敢に戦う道を選択する抵抗の物語として描かれる
『モダンタイムス』… ちょうど連続して読んだので、対比しながら愉しむことができましたね。
システムエンジニアの
「渡辺拓海」は、職業不詳で謎の多い妻
「佳代子」から浮気を疑われ、彼女に雇われた
「岡本猛」から拷問され、浮気に関する追及を受けていた、、、
そんな折、はた迷惑だが腕は確かな先輩システムエンジニアの
「五反田正臣」が「ゴッシュ」という会社から依頼されたシステム改良の仕事を放り出して失踪…
「拓海」は、その業務を後輩の
「大石倉之助」とともに引き継ぐが、プログラムに不審な点をみつけ
「播磨崎中学校」、
「安藤商店」、
「個別カウンセリング」等の特定のキーワードの同時検索が監視されているとの疑いを抱く。
実際に、そのキーワードを検索した人物の多くが奇禍に遭っていた、、、
思い余った
「拓海」は、友人の作家
「井坂好太郎」に相談を持ちかける… 個性豊かな登場人物たちが出会い、そして当意即妙の掛け合いを繰り広げる中で、次第に真相が浮き彫りにされていくという展開でしたね。
「安藤商店」の秘密を探る中、
「拓海」は、自分が不思議な力を持った
「安藤家」の一員であることを知り、追い詰められたとき… 思った事を相手に喋らせることができる不思議な能力
≪腹話術≫を使えることに気付く、、、
不思議な能力や妻
「佳代子」の大活躍により窮地を脱しますが、結局、大きな何か… 国家という大きな社会の仕組みを変えることはできなかったのかな。
実際に起きたことを隠蔽し、別な真相をでっちあげる… それをメディアを使って喧伝、、、
『ゴールデンスランバー』と同様に、メディアの伝えるイメージの怖さ、ムード(雰囲気)が蔓延する不気味さを改めて感じました… ホント、メディアの情報を鵜呑みにしちゃダメですね。
会話の見せ方や、とぼけたユーモアの使い方、伏線の張り方が相変わらず巧い… 暴力シーンの残忍さは、ちょっと抵抗感がありますが、エンターテイメント作品として愉しく読めた一冊でした。
印象に残った
「拓海」の言葉を備忘に記録しておきます。
「人間は大きな目的のために生きているんじゃない。
もっと小さな目的のために生きている」
「いいんです。人生が大きく変わらなくても。
たとえ、自伝や年表に載るような大きな出来事が起きなくても、小さな行動や会話の一つ一つが、人生の大事な部分なんです」
「俺たちの生きている社会は、誰〔ママ〕それのせいだと名指しできるような、分かりやすい構造にはなっていない。
さまざまな欲望と損得勘定、人間の関係が絡み合って、動き合っているんだ。
諸悪の原因なんて、分からない。
俺はその考え方は正しいと思う。
図式のはっきりした勧善懲悪は、作り話で成り立たないんだ」
以下、主な登場人物です。
「渡辺拓海」
29歳の会社員。桜井ゆかりと浮気をしていた。
失踪した五反田正臣の仕事を引き継ぎ、ある事件に巻き込まれていく。
「岡本猛」
渡辺拓海に「勇気はあるか?」と脅かした男。渡辺佳代子が雇った男。
「大石倉之助」
渡辺拓海が勤める会社の後輩。
渡辺拓海とともに、五反田正臣の後任として株式会社ゴッシュに赴く。
婦女暴行の濡れ衣を着せられる。
「渡辺佳代子」
渡辺拓海の妻。浮気に対して異常に攻撃的。
職業がよくわからず、結婚歴を戸籍から消した。
「井坂好太郎」
渡辺拓海の友人。作家。女好きである。
「五反田正臣」
渡辺拓海が勤める会社の先輩。
株式会社ゴッシュの仕事を行っていたが、突如失踪する。再会時に失明している。
「桜井ゆかり」
渡辺拓海が勤める会社の事務社員。渡辺拓海の不倫相手。
「工藤」
五反田正臣とともに株式会社ゴッシュの仕事を行っていた派遣社員。
そのまま渡辺拓海らとともに仕事をすることになる。
「永嶋丈」
事件の鍵を握る国会議員。
「緒方」
永嶋の近くにいる男。
「加藤」
渡辺拓海が勤める会社の課長。突然自殺する。
「間壁俊一郎」
事件の鍵を握る人物
「安藤詩織」
岩手の高原に住んでいる。前作『魔王』から引き続き登場。
「愛原キラリ」
昔女優だったらしい。
「安藤潤也」
すでに死亡していたが、競馬や競輪でお金を稼いで、安藤商会を建てた。
『魔王』から引き続き登場。

0