「横山秀夫」の長篇ミステリ作品
『64(ロクヨン)』を読みました。
「横山秀夫」作品は2年前に読んだ
『クライマーズハイ』以来なので久しぶりですね。
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二〇一二年のミステリー二冠!
究極の警察小説登場!
昭和64年に起きたD県警史上最悪の事件を巡り警務部と刑事部が全面戦争に突入。
その狭間に落ちた広報官
「三上」は己の真を問われる。
〈上〉
元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官
「三上義信」。
記者クラブと匿名問題で揉める中、
“昭和64年”に起きたD県警史上最悪の
「翔子ちゃん」誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。
だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。
組織と個人の相克を息詰まる緊張感で描き、ミステリ界を席巻した著者の渾身作。
〈下〉
記者クラブとの軋轢、ロクヨンをめぐる刑事部と警務部の全面戦争。
その狭間でD県警が抱える爆弾を突き止めた
「三上」は、長官視察の本当の目的を知り、己の真を問われる。
そして視察前日、最大の危機に瀕したD県警をさらに揺るがす事件が―。
驚愕、怒涛の展開、感涙の結末。
ミステリベスト二冠、一気読み必至の究極の警察小説。
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上下巻で約800ページ… 読み応えのある、骨太な警察小説でしたねぇ、、、
事件の解決だけでなく、警察組織の在り方や、その中で自分の存在意義について苦悩しつつ、家族の問題にも対峙するD県警広報官
「三上義信」の生き方に心を揺さぶられました…
「三上」に感情移入しつつ、自分の会社での立ち位置についても、考えさせられた作品でした。
平成14年(2002年)、捜査二課次席まで出世していた
「三上」は、突然警務部の広報官を任じられ、46歳にして20年ぶり2度目の広報室勤務となった、、、
1度目のときは捨て鉢な態度で職務につき広報マン失格… 1年で刑事に戻れたものの、人事異動へ怯えが精勤を支え、結果、刑事として確かな実績を作ってきた。
だがしかし―― 職能を見限られた気はしたものの、前のような愚はおかさず、警務部長の意向に沿うだけではない、広報室に改革に乗り出し、記者との歪な関係も解消されてきていた… そんな矢先、ひとり娘の
「あゆみ」が失踪した、、、
全国への捜索手配を警務部長の
「赤間」に願い出た
「三上」は、上司に服従するほかなくなったのだった… 変節をした
「三上」が、記者クラブと加害者のやっかいな匿名問題で対立する中、警察庁長官による、時効まであと1年と少しの
「64(ロクヨン)」視察が1週間後に決定した。
「64(ロクヨン)」とは、たった7日間の昭和64年(1989年)に発生した
「翔子ちゃん誘拐殺人事件」を指す刑事部内での符丁だった… 遺族の
「雨宮芳男」に長官慰問の件を知らせに行くが拒否される、、、
なぜここまで
「雨宮芳男」と拗れたのか…
「雨宮芳男」を懐柔するための情報を得ようと、当時の捜査員など
「64(ロクヨン)」関係者にあたるうち、刑事部と警務部の間に鉄のカーテンが引かれていることを知る。
それには元捜査員が口を滑らした
「幸田メモ」が関わっているらしい… 警務部で
「陰のエース」の名を恣にする
「三上」の同期
「二渡真治」も
「幸田メモ」に関して動いていた、、、
「幸田メモ」の真相をつきとめ、警察庁長官の視察の真の目的を探るために動く
「三上」の前に
「二渡」が現れる…
「二渡」は名将の誉れ高く、8年前に退官した
「尾坂部」の家に入っていった。
登場人物が多いうえに、登場人物たちの細かな内面描写に多くのボリュームが割かれているので、序盤は、ややもたつき感があるものの、序盤で提示された情報が、中盤以降の人と人、組織と組織、警察と犯人の駆け引きや、個々の内面の葛藤に活かされており、しだいに物語に引き込まれていきましたね… そして、、、
失踪した
「三上」にひとり娘
「あゆみ」を巡る、夫婦の感情の変化や職場環境への影響、
広報室とマスコミとの歪な関係と、報道内容を巡る諍い、
県警内の警務部と刑事部の微妙な関係や覇権争い、駆け引き、そして、組織を越えた同期・同僚との仲間意識やライバル意識、
警察庁長官視察の真の目的と、刑事部長ポストを巡る中央と地方の確執、
「64(ロクヨン)」に隠蔽された捜査ミスと、その犠牲になった人々の想い、
「64(ロクヨン)」の犯人を孤独に追い続けた、被害者
「翔子」の父
「芳男」の執念、
「64(ロクヨン)」を模倣した、新たな誘拐事件の勃発、
と、様々な要素が並行して展開しつつ、終盤では14年の時を経た2つの誘拐事件が1つに収斂していきます… 読みながら、物語にぐいぐいと引き込まれましたね。
心理描写が巧いところが大きな要因だと思います… 面白かったです。
以下、主な登場人物です。
《三上家》
「三上 義信(みかみ よしのぶ)」
D県警察本部 警務部秘書課調査官〈広報官〉警視。46歳。二渡とは同期。
刑事になって3年目に突然広報室への異動を命じられ、刑事としての大事な時期を失ったと考えている。
1年後に刑事に戻って以降は、いつまた刑事以外の課に異動させられるかという恐怖感から遮二無二働き、捜査一課で盗犯・強行犯・特殊犯などを担当し、捜査二課で職能を開花させて実績を上げ、知能犯捜査係の班長として汚職や選挙違反事件捜査の現場指揮を取り、次席まで務めた後、この春に20年ぶりに広報室勤務となる。
赤間からの制止を聞かず、広報室改革を進め、記者や現場の人間にも理解されかけていたが、あゆみの家出を機に、再び彼らとの間に距離が出来ていく。
ロクヨン当時、捜査一課特殊犯捜査係(係長代理)に所属し、身代金の受け渡し場所へ向かう父親の車を追尾する任務に就いていた。
「三上 美那子(みかみ みなこ)」
義信の妻。元ミス県警の美人。
あゆみから電話があるかもしれないからと引きこもり気味になっている。
ロクヨンの時は、犯人が身代金の受け渡し場所に指定した喫茶店で、アベックの女役として駆り出されていた。
「三上 あゆみ(みかみ あゆみ)」
義信と美那子の娘。16歳。
父親に似た顔立ちにコンプレックスを抱き、母親の美貌を憎み、高校を半年で不登校になり、引きこもる。
自分の顔を醜いと思うようになり、カウンセラーから醜形恐怖と診断されカウンセリングを受けていたが、三上に整形を反対され、家出する。
《D県警広報室》
「諏訪(すわ)」
D県警警務部秘書課 係長。広報室勤務は5年で、記者を懐柔する機転にも長ける。
「蔵前(くらまえ)」
D県警警務部秘書課 主任。真面目だけが取り柄。
「美雲(みくも)」
D県警警務部秘書課。広報室の最年少。23歳。元交通課。
《ロクヨン関係者》
「雨宮 翔子(あまみや しょうこ)」
昭和64年1月5日に、近所の親類宅へお年玉を貰いに行くと言って出かけたまま姿を消した。
10日に市内の廃車置き場で遺体で発見される。
「雨宮 芳男(あまみや よしお)」
翔子の父親。事件当時は雨宮漬物の社長をしていたが、事件を機に経営を従兄弟に任せて退いた。
心労から髪は真っ白になり、見た目は実際の年齢以上になってしまった。
「雨宮 敏子(あまみや としこ)」
翔子の母親。6年前に脳梗塞で倒れ、去年亡くなった。
「雨宮 賢二(あまみや けんじ)」
芳男の実弟。
芳男とは亡き父の遺産相続を巡って揉め、また経営していたオートバイ販売店の資金繰りが苦しく、街金から多額の借金をしていたため、長らく第一容疑者として厳しい取調べを受けた。
「吉田 素子(よしだ もとこ)」
雨宮漬物事務員。事件当時32歳。会社で身代金の受け渡し場所を指定する電話を受けた。
《D県警》
「赤間 肇(あかま はじめ)」
D県警警務部長。41歳。
警察の権威を貶めんと失策をあげつらおうとするマスコミを牽制するため、無愛想で強面の三上を広報官に抜擢するが、三上の広報室改革には反対する。
「二渡 真治(ふたわたり しんじ)」
D県警警務部警務課 調査官(警視)。三上の同期。
三上とは高校の同級生で同じく剣道部に所属していたが、三上が3年の県大会の団体戦で大将を務めたのに対し、二渡は補欠だった。
警察学校を首席で卒業し、昇任試験にも次々と受かり、D県警最年少の40歳で警視に昇任した。
「幸田メモ」について調べている。
「松岡 勝俊(まつおか かつとし)」
D県警捜査一課長 参事官。
ロクヨンでは直近追尾班を束ね、身代金を運ぶ芳男の車の後部座席に潜んでいた。
「前島 泰雄(まえじま やすお)」
三上の同期。現在は警察庁刑事局に出向している。
二渡とは警察学校で同室だった。
「辻内 欣司(つじうち きんじ)」
D県警本部長。44歳。前警察庁会計課長。現在、同期の中では最も警察庁長官の椅子に近い男と目されている。
「荒木田(あらきだ)」
D県警刑事部長。刑事たちの象徴ともいえる刑事部長職についている。
そのポストが本庁に『召し上げ』られると知り、最後の地方の刑事部長になるのを阻止すべくあらゆる手段を使おうとする、が。
「糸川 一男(いとかわ かずお)」
D県警捜査二課次席。
三上の4つ下で、三上が知能犯捜査一係の班長だった時に、3年部下だった。商業高校出身で、帳簿類に強い。
「栗山 吉武(くりやま よしたけ)」
F署留置管理係 巡査長。50歳。
女性留置人に猥褻な行為をし、商品券で口止めをしたとして東洋新聞に抜かれ、緊急逮捕される。
「石井」
D県警警務部秘書課 課長。
「戸田 愛子」
秘書課末席。
「坂庭」
D県警Y署署長。石井の前任者で、前秘書課長。
「落合」
D県警捜査二課長。
「草野」
専従班の刑事。三上の同期。
「阿久沢」
専従班の刑事。
「槌金 武司」
専従班の副班長。三上の一期上。警部。
「漆原」
ロクヨンの自宅班キャップ。当時、捜査一課特殊犯捜査係 係長。現在、Q署の署長。
「柿沼」
ロクヨンの自宅班サブキャップ。当時、捜査一課特殊犯捜査係。現在、専従班。
「七尾」
婦警で唯一警部に昇任した。D県警本部警務課で婦警担当係長を長く務めている。
「南川」
三上の二期下。本部鑑識課員。
「猪俣」
科捜研所長。
「梨本 鶴男」
警備部。次期刑事部長と目される。
「小保方(こぼがた)」
F署の署長。
「生駒」
警務部監察課長。
「御倉(みくら)」
捜査一課。三上の二期下。
「橋元」
捜査一課内勤。
「芦田」
暴力団対策室係長。
「会沢」
三上の元部下。
「緒方」
強行犯捜査一係 班長。
「峰岸」
特殊犯捜査係 班長。
「鬼頭」
強行犯捜査二係 班長。
《警察庁》
「田辺」
警察庁前長官。
長官人事の主流は警備局出身者だが、4代ぶりに刑事局から就任し、刑事警察の建て直しを宣言したが、半年後の今年7月に急性高血圧症で他界した。
「小塚」
警察庁長官。警備局出身。
《マスメディア》
「手嶋(てじま)」
東洋新聞サブキャップ。H大卒。26歳。
「秋川」
東洋新聞キャップ。K大卒。29歳。記者クラブのボス格。
「山科 」
全県タイムス暫定キャップ。F大卒。28歳。代議士秘書の三男。
「梓 幹雄」
東洋新聞D支局上席デスク。T大卒。46歳。
「富野」
D日報の記者。
「野々村 利一 」
東洋新聞D支局長。居丈高な男。
「宇津木」
毎日新聞キャップ。
「袰岩(ほろいわ)」、
「林葉」
NHK記者。
「梁瀬」
時事通信記者。
「高木 まどか」、
「掛井」
朝日新聞記者。
「牛山」、
「笠井」、
「木曾 亜美」
読売新聞記者。牛山は秋川を嫌っている。
「須藤」、
「釜田」
産経新聞記者。
「角池」
共同通信記者。
「浪江」
記者。
《美術館建設入札談合事件》
「八角建設」
入札を陰で仕切る地方ゼネコン。
中堅建設会社6社の幹部8人が逮捕されたが、二課は黒幕である八角の専務の逮捕を狙っている。
「祖川建設」
県議の弟が社長を務める、準大手の建設会社。
行政との癒着や暴力団絡みの噂が絶えず、談合からは八角から外された。
《その他》
「銘川 亮次(めいかわ りょうじ)」
酔って道を渡っていた時に車にはねられ、意識不明の重体、後に死亡する。北海道出身。
「菊西 華子(きくにし はなこ)」
Y署管内で銘川をはねた加害者。32歳の主婦。
妊娠8か月であったため、母胎への影響を考えて広報室が匿名で報じたところ、匿名にする理由を巡って、記者クラブともめる原因となる。
「望月」
三上の同期で、ロクヨンでは同じく直近追尾班に属し、三上が離れた後も捜査本部に残っていた。
3年前に父親が倒れ、辞職し、園芸農家を継いだ。
「尾坂部 道夫」
8年前に退官した元D県警刑事部長。
尾坂部がいればロクヨンは解決できたと言われる優秀な刑事だったが、事件当時は警察庁刑事局に出向していた。
「幸田 一樹(こうだ かずき)」
元D県警捜査一課刑事。ロクヨンでは自宅班だったが、事件の半年後に辞職。
「日吉 浩一郎(ひよし こういちろう)」
元科捜研研究員。38歳。
NTTの先端技術部門から転職してきた職歴を買われて、技術吏員としてロクヨンの自宅班の4番手として招集された。
事件後に3か月ほど休職したまま依願退職扱いとなった。自宅では事件以来、14年部屋に引きこもったまま。
「村串 みずき(むらくし みずき)」
旧姓・鈴本。
ロクヨンでは憔悴する雨宮敏子対策の交替要員として雨宮家にいた婦警。
美那子の一期上で、三上とも所轄の刑事課で一緒だったことがある。
銀行員と結婚して退職した。あゆみからと思われる無言電話後、家を出なくなった美那子が心配で、三上が家に呼んだことがある。
美雲の高校の先輩でもある。
「久間 清太郎(きゅうま せいたろう)」
ロクヨン当時の刑事部長。知性派と言われ、実際の事件には弱かった。
当時は退官間際で、外郭団体への天下りも決まっていた。
「室井 忠彦(むろい ただひこ)」
久間の次の刑事部長。
「大舘 章三(おおだち しょうぞう)」
元刑事部長。三上と美那子の仲人親であり、三上が「刑事の父」と慕っていた。
「林 夏子(はやし なつこ)」
37歳。元マッサージ嬢。現在は空き巣専門の泥棒の情婦。
内縁の夫は常習累犯窃盗罪で服役中。窃盗容疑で留置中に管理係から猥褻な行為をされた。
「目崎 正人(めざき まさと)」
スポーツ用品店を経営する。娘が2人おり、高校生の長女・歌澄(かすみ)が誘拐される。

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