「吉村昭」の伝記的歴史小説
『虹の翼』を読みました。
「吉村昭」作品は昨年8月に読んだ
『海軍乙事件』以来ですね。
-----story-------------
「吉村」ファン必読の書が待望の新装版!
人が空を飛ぶなど夢でしかなかった明治時代―
「ライト兄弟」が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、独自の構想で航空機を考案した男が日本にいた。
奇才
「二宮忠八」の、世界に先駆けた
「飛行器」は夢を実現させるのか?
ひたすら空に憧れた
「忠八」の波瀾の生涯を、当時の社会情勢をたどりながら緻密に描いた傑作長編。
-----------------------
1978年(昭和53年)、
『京都新聞』に
『茜色の雲』というタイトルで連載された作品、、、
明治時代、
「ライト兄弟」が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、凧が風を受けて空に浮かぶ原理や、烏が空を滑空する姿、虫が飛翔する姿等を研究することから飛行理論を確立、その後、全く独自に
「飛行器」を考案し、実際にゴム動力のプロペラを用いた模型を飛ばすことに成功した天才
「二宮忠八」の生涯を描いた伝記的歴史小説です。
「忠八」は四国・八幡浜の裕福な商家
「大二屋」に生まれたが、大阪に取引に行った長兄
「繁蔵」と次兄
「千代松」が相次いで都会での誘惑に溺れてお金を使い込んだことが原因で家が没落したため、薬問屋で丁稚奉公することに… その後、志願して香川県丸亀歩兵隊に入隊、薬問屋で働いていた経歴から、軍病院に配属となり、軍隊勤めの傍ら、彼は鳥や昆虫の飛行状態を研究して飛行原理を見出し、それに沿って模型飛行器を完成させた、、、
ゴム紐を動力とするプロペラ飛行器は、
「忠八」の期待どおり数十メートルも空を飛んだのである… そして、衛生兵として日清戦争に従軍した
「忠八」は、飛行器が軍にとって有益な武器となると考え、考案を上官に上申したが一笑に付され却下される。
戦後、
「忠八」は、広島陸軍予備病院等に配属されるが、飛行器の研究を続けたいという気持ちを抑えることができず、莫大な研究資金をつくるために民間の製薬会社へ就職… 製薬会社で実業家として成功するが、実業家として多忙な生活の中で、なかなか研究に時間を割くことができず、
「ライト兄弟」の成功やその後の飛行機の発展を傍観することに、、、
その頃、世界的に飛行機が注目され始め、日本軍でも開発を急ぐこととなり、その責についたのは、
「忠八」の上申を二度に亘って却下した人物だったというのは皮肉なものですね… 悔しかったろうなぁ。
でも、こんな素晴らしい発想力を持つ天才が明治時代の日本にいたことを誇らしく感じましたね…
「忠八」の研究成果の上申書が軍の上層部に採用されていたら、ひょっとすると航空史が変わっていたかもしれないですね… 限られた環境の中で、夢を実現するために、揺るぎない信念を持って、全力を尽くして生きた
「忠八」の姿に共感しながら読めました。
歴史に、たら・れば は禁物ですが… 軍に却下されたことは残念でならないですねぇ、、、
先見の明がある人物が身近に居たら… きっと歴史は変わっていたと思います。
500ページを超える大作ですが…
「忠八」の人物像に惚れながら、長さを感じず愉しく読める一冊でした。

0