「井上靖」の長篇山岳小説
『氷壁』を読みました。
「串田孫一」の随想集
『山のパンセ』で
『氷壁』紹介されていて読んでみたくなったんですよね… 山岳関係の作品が続いています。
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奥穂高の難所に挑んだ
「小坂乙彦」は、切れる筈のないザイルが切れて墜死する。
「小坂」と同行し、遭難の真因をつきとめようとする
「魚津恭太」は、自殺説も含め数々の臆測と戦いながら、
「小坂」の恋人であった美貌の人妻
「八代美那子」への思慕を胸に、死の単独行を開始する…。
完璧な構成のもとに雄大な自然と都会の雑踏を照応させつつ、恋愛と男同士の友情をドラマチックに展開させた長編小説。
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1956年(昭和31年)2月24日から1957年(昭和32年)8月22日まで
『朝日新聞』に連載され、1957年(昭和32年)に新潮社から単行本が発表された作品… 切れるはずのないナイロンザイルが切れたために登山中に死亡した友人の死を、同行していた主人公が追うという展開で、当時、実際に起きた登山(登攀)中の複数の事件をモデルにしたフィクションです。
新鋭登山家の
「魚津恭太」は、1955年(昭和30年)の年末から翌年正月にかけて、親友の
「小坂乙彦」と共に前穂高東壁の冬季初登頂の計画を立てる… その山行の直前、
「魚津」は
「小坂」の思いがけない秘密を知る、、、
「小坂」は、人妻の
「八代美那子」とふとしたきっかけから一夜を過ごし、その後も横恋慕を続けて、
「美那子」を困惑させているというのだ… 不安定な心理状態の
「小坂」に一抹の不安を抱きつつも、
「魚津」達は穂高の氷壁にとりつく。
吹雪に見舞われる厳しい登攀のなか、頂上の直前で
「小坂」が滑落… 深い谷底へ消えていった、、、
二人を結んでいたナイロンザイルが切れたのだ… 必死に捜索するも
「小坂」は見つからず、捜索は雪解け後に持ち越されることになった。
失意のうちに帰京する
「魚津」… そんな思いとは裏腹に、世間では
「ナイロンザイルは果たして切れたか」と波紋を呼んでいた、、、
切れるはずのないザイル…
「魚津」はその渦に巻き込まれていく。
世間から様々な疑念がある中、
「魚津」は、パートナーの
「小坂」を信じ、登山家が山で自ら死することはないと、また自分たちの技術においても落ち度がないことを、揺るぎなく語る。
ナイロンザイルの製造元は、
「魚津」の勤務する会社と資金関係があり、さらにその原糸を供給した会社の専務は、
「小坂」が思いを寄せていた
「美那子」の夫
「八代教之助」だった… ナイロンザイルが切れた原因は?
「美那子」への徐々に惹かれていく
「魚津」の想いは? そんな
「魚津」に対して、思いを寄せる
「小坂」の妹
「かおる」の運命は、、、
その後の展開は端折りますが… ナイロンザイル切断に関する
「魚津」の疑惑は晴れ、そして
「魚津」は、
「美那子」への想いを断ち切り、
「かおる」との新しい人生をスタートさせるために、自然の力へ立ち向かっていく… それを乗り越えることで気持ちの整理をつけようとしたんですね。
でも、その結果は… 危険を感じつつも、前に進むことが
「かおる」を選ぶことで、引き返すことは
「美那子」を選ぶことだと、自分の中で勝手に思い込んで愚直に前に進むことを選択した
「魚津」に内面の弱さを感じましたね、、、
自分の判断に自信があれば、進んでも、引き返しても、気持ちは変わらないはずなのになぁ… 山岳小説的な要素が強いですが、事故の謎を解くミステリ小説的な要素や、恋愛小説的な要素がバランス良く織り交ぜられ、愉しめる作品でした。

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