「多岐川恭」の連作短篇時代小説
『ゆっくり雨太郎捕物控(一) 土壇場の言葉』を読みました。
「池波正太郎」、
「木村忠啓」、
「月村了衛」、
「神楽坂淳」、
「翔田寛」、
「宇江佐真理」の作品に続き時代小説です。
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町方同心
「雨太郎」は体がすぐれないのをいいことに定廻役を離れている。
ある日境内で若い同心が落ち込んでいる。
聞くと罪人の首を斬る瞬間に
「おやすを殺したのは、おれじゃないぜ」と言ったという。
若い同心は無実の人間を裁いたのか。どうする!ゆっくりの旦那?
『土壇場の言葉』など、十八篇。
江戸情緒が漂う時代推理小説。
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八丁堀同心
「若槻雨太郎」を主人公とした
「ゆっくり雨太郎捕物控」シリーズの第1作、、、
本シリーズは、1967年(昭和42年)から1975年(昭和50年)まで
『週刊新潮』に連載されたみたいです… 本書を1987年(昭和62年)に刊行された徳間文庫の
『ゆっくり雨太郎捕物控』を底本として、以下の18篇が収録されています。
■ふさぎの虫
■釣堀のとんび
■土壇場の言葉
■初陣の功名
■情人
■鬼婆あ
■かくしごと
■迷子のお安
■江戸みやげ
■二人の浪人
■植木売る御家人
■濡れた肌
■凧を揚げる
■妖女の宿
■蛇の地獄
■雲がくれ
■金十両以上
■木母寺の喧嘩
■解説 井家上隆幸
「若槻雨太郎」は、北町奉行所の同心だが、病気で休職中であり、茅場町にある自宅で下男
「梅吉」を相手にひとり暮らし… 精力的に動き回って犯人を逮捕するタイプではなく、好きな女の
「るり」を湯島に囲ってしょっちゅう泊まりにいき、事件の捜査はその時々の気紛れで、常にゆっくり構えている、、、
その
「るり」の推理を参考にしたり、目明しの
「五郎次」や若い衆の
「武一」等を手足として使いながら、快刀乱麻の推理で事件を解決する… という展開で、各篇の末尾を必ず、事件の核心、犯行の動機、処刑等級等を記した覚書で締めくくるという構成になっています。
時代は天保□年となっていますので時代小説なのですが、内容はミステリそのものですね… 読みやすかったし、面白かったです。
そんな中でも特に印象に残ったのは、
釣り堀で成果がなくても困らず、釣り堀で使う竿とビクは借り物ではなく、海釣りで使うような頑丈な竿と大きなビクを自前で用意していた
「大次郎」… 竿とビクの使い道は別にあったという意外な展開の
『釣堀のとんび』、
罪人の
「鹿太郎」が首を斬られる直前に
「おやすを殺したなあ、おれじゃないぜ」と言ったことを忘れることが出来ず、真相の確認を
「雨太郎」に依頼した同心の
「水巻百之助」…
「雨太郎」が調べた結果、殺された
「おやす」は、
「水巻」のことを慕っており、それが殺害の遠因になっていたという驚きの事実が判明する
『土壇場の言葉』、
駕籠に乗っていた浪人が追剥にあって殺されたと思われた事件が、実は殺された浪人や駕籠かきが追剥で… というどんでん返しが愉しめる
『初陣の功名』、
天狗や幽霊、身の丈が人間の三倍もある塔のような怪物による物盗りを解決するユニークな
『凧を揚げる』、
「雨太郎」が同心に変装した盗賊仲間と勘違いされて、親分
「米造」等とともに大掛かりな盗みに加わることになるが、盗賊から狙われた
「雲州屋」の
「喜之助」は、
「米造」を上まわる大盗賊で、事前にそれに気付いた
「雨太郎」は、双方を一網打尽にする
『雲がくれ』、
の5篇ですかね… 機会があれば、第2作以降も読んでみたいですね。

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