君を友人としてじゃなく、男性として好きになっても、
僕は自分が好きになれなかった
君が僕を「好き」と言ってくれるまで、
僕は自分の手が嫌いだった
木刀ばかりを握ってきたから、マメだらけ
真剣で戦うから、小さな傷も重なっている
疲労骨折も繰り返しているから、少し歪つ
肌の色も、澄んだ白とは言えない
君の為に、料理も裁縫もまともにやってあげられない
そう思ってしまい、僕は自分の手を憎んですらいた
この手を失えば、自分の存在意義を保てない立場なのにね
けど、あの瞬間、君が僕の手を、僕が好きな君の手で
優しく、力強く、少し、臆病さを滲ませながら
しっかりと握り締めてくれた、あの瞬間、
僕は自分の手を好きになれた
君の手にすっぽりと包み込まれるサイズでよかった、と思えた
本当にありがとう
僕に君を好きにならせてくれて、
僕に僕を好きにさせてくれて
「土方君、ここで大丈夫だ」
俗に言う、恋人繋ぎでここまでの道すがら、土方と談笑を交わしていた九兵衛は、柳生家の屋敷が見え出す曲がり角で足を止めた。
だが、「好きだ」と自分の気持ちをしっかりと彼女に伝えた土方は今更ながら、一分どころか一秒でも多く彼女と一緒にいたくなっていた。自分でも短い間に女々しくなっちまったな、煙草を咥えた口が苦々しく歪んだが、もう自分の気持ちを偽らないと決めていた彼は首を横に振る。
「いや、門の所まで送る」
土方も自分と同じ気持ちなのだ、一緒にいたい、そう思ってくれている、しっかりと繋ぎ合っている手から伝わってきて嬉しくなった九兵衛だったが、柔らかな微笑を浮かべた顔はゆっくりと左右に動かされた。
「かなり門限を過ぎてしまっているんだ・・・君を危険に晒したくない」
土方が門下生に負けるなんて思っていなかったが、彼には小さな傷でも負って欲しくなかった九兵衛は自分から手を離した。咄嗟に、手を伸ばしかけた土方だったが、自分が傷つけば九兵衛を悲しませてしまう、と考えた途端、その手が虚空で止まってしまう。
「・・・・・・解った」と、土方が手を引っ込めてポケットに突っ込んでくれたので、九兵衛はホッと安堵の息を漏らした。しかし、心の片隅には土方よりも濁った、名残惜しさが芽吹く。
「明日・・・は無理だな。明後日の正午ちっと前に、今日、昼飯を食った店の前で待ってる」
「必ず、行くよ」
年頃の少女らしい笑顔を浮かべて小走りで門まで走っていった九兵衛がおもむろに立ち止まり、振り返って寂しそうな面持ちの土方に小さく手を振った。
「っつ・・・・・・・・・また、な」
土方はキョロキョロと周囲を見回して、人影がいない事を確認してからポケットから左手だけを出し、彼女へと小さく振り返した。土方が反応してくれたので、満足気に頷いた九兵衛は再び背を向けて角を曲がってしまった。
九兵衛の体重を感じさせない、重力からも解放されたような、軽やかな足音が遠ざかっていく。一抹の寂しさが胸の中に広がるが、それすらも今の土方には心地良かった。姿が見えなくて寂しくなるという事は、会えた時はそれに比例して嬉しくなるものだから。
右の掌に残っている九兵衛の熱を、拳を作る事で再確認した土方は帰路に着いた、口元を緩めたままで。
土方と同じくらい、いや、女子ゆえに男である彼より強く濃い「喜」と「嬉」の感情が胸をいっぱいにしている九兵衛は自分の足取りが普段よりも軽い事に気付き、口許を緩めた。
(ふふふ、今なら空を飛べるかもな)
好きな相手が自分を好きでいてくれる、自分も好きな相手を好きでいられる、それはとても難しい事。
(今なら、妙ちゃんや神楽ちゃんの気持ちが理解できるよ)
「今」の自分なら裏柳生の八巨頭にも負けないだろう、と筆頭である瓜生が自分を狙っていた事、そして、近藤との一瞬の死闘の末に雄々しく現世を後にした事を微塵も知らない九兵衛は自分の中に新しい力が漲ってくるのを、はっきりと感じていた。
だが、隻眼で門を捉えた瞬間、彼女の足は止まってしまう。
普段は入ったばかりの門下生がそこに立っている筈なのに、どう言う訳か、東城がいたからだ。
東城の方も、動揺で足を止めてしまった九兵衛に気が付いたのだろう、一転して青ざめ、表情をコレまでにないほど強張らせている彼女の方に、穏やかな面持ちを向ける。
(く、いつも以上に思考が読み取りづらいな)
ここで立ち止まっていても仕方ない、と九兵衛は歩みを再開した。しかし、途中で、彼が自分に顔を汚くして駆け寄ってこず、腕組みをキツくし、悠然と立ち構えているだけなのを疑問に思う。
東城は腸が千切れそうな痛みに襲われつつも、決して足の裏をその場から離さないままで九兵衛が近づいてくるのを待った。もし、我慢の限界を迎えて、彼女に近づいてしまったら沖田に口止めを頼まれている今宵の一件を余す所なくブチ撒けてしまうだろう。自分が話してしまっても、沖田は自分の性格を読み切っているだろうから怒りはしないだろうが、近藤には要らぬ負担を強いてしまうだろう。近藤を莫逆の友と認めている東城はその事を思うと、足へ更に力を入れられた。
ついに、九兵衛は東城の前まで来た。東城は最後まで耐えられた自分を褒めてやりたかったが、それを顔に出しては本末転倒なので、強引に口の端をぎこちなさが出ないように気をつけながら上げて微笑んだ。
「お帰りなさいませ、九兵衛様」
「う、うん・・・門限を破ってしまった、すまない」
「いえ、お気になさらず」
「お父様は怒っているか?」
一瞬、返す答えに迷った東城だったが本当の事を口に出す。
「・・・北大路が宥めています。一刻も早く、お顔を見せてあげて下さい」
「そうしよう」
「九兵衛様・・・・・・」
「何だ? 東城? 急に改まった口調で」
「楽しかったですか?」
「うん、愉しかったよ」
東城は本当に嬉しそうな、久しぶりに見た無邪気な笑顔が眩しすぎて、細い目をキュッと細めてしまう。
一つ大きく、息を吐き出した瞬間、彼は心の中で荒立っていた裏柳生への憎悪が霧散するのを感じた。そして、同時に、土方への不信感も。正直に言えば、東城は以前の因縁もあったので、近藤勲が全幅の信頼を置いているという事実があっても、土方十四郎と言う人間が気に入らなかった。理由は自分でも嫌になるくらい解っていた。
(あの男は、私の一番に大事な人を奪い去ってしまう男、と最初に顔を合わせた時から気付いていたからだ)
そんな男を好きになれ、と言う方が難しい。
しかし、元来、喜怒哀楽が顔にはっきりと出やすいとは言えない九兵衛をこんな幸せそうに笑わせられる男を、東城歩は知らなかった。少なくとも、九兵衛は自分がどれだけ道化に徹したとしても、こんな風に笑ってはくれないだろう。自業自得だとも解っているので、それを悲しいとは思わなかったが、素直に悔しかった。
(これは最早、潔く、武士らしく、漢らしく、負けを素直に認めるべきなのかも知れないな、あの男に・・・・・・)
突然、憑き物が落ちたような微笑を浮かべた東城を、九兵衛は心配そうに見つめてきた。
「だ、大丈夫か、東城? やけに・・・サッパリした顔だが」
サッパリしているなら良いじゃないか、と九兵衛は自分に突っ込んでしまったが、これまで目の前の男がそんな顔をした事がなかったので、驚きを隠せないでいた。
「―――・・・何と言うか、スッキリしましたので」
「何かあったのか?」と九兵衛は興味半分で尋ねたが、東城は困ったように顔を傾けて笑っただけで口を開かなかった。
九兵衛は納得がいかなかったが、ここに留まっていて父の怒りを膨らませても仕方ないな、とこの場を後にする事にした。だが、門を潜る寸前、最後に最も気になっていた事を東城に聞いていない事を思い出した彼女は階段を登る足を止めて振り返る。
「東城、そこで何をしていたんだ?」
「特には何も・・・・・・ただ、火照った頭を夜風で冷ましていたのです」
沖田からの電話で彼の脳味噌が沸騰しかけた事を知らないので、西野か南戸辺りを相手に自分の不在を愚痴りながら酒を浴びるように飲んでいたのだろうか、と推測した九兵衛は「そろそろ、季節も変わる、体を大事にしろよ」と言い残し、階段を駆け上がっていった。
何か誤解をされたな、と思いつつも、これはわざわざ解くべきじゃないな、と顔を前に戻す東城。
不意に、東城は一つの事に思い当たった。それは自分が土方を毛嫌いしてしまっていた理由。
(あー、そうか・・・・・・私は九兵衛様が『好き』だったんだな、心技体を賭して仕えるべき主としてではなく、一人の異性として)
音を出さぬように手を打ち、一人で勝手に納得して、しきりに頷き続ける東城。
(遅すぎる、か)
鈍りのように重い嘆息をショックで小刻みに震える口から出し、再び、苦笑いが彼の顔に色濃く浮かび上がった。
自分は無意識の内に、土方を好敵手扱いしていたらしい。それなら、九兵衛に近づけさせたくないのも当然だった。
東城は自分の狭くはない額に手を当てて項垂れると、湿った深い溜息を漏らす。
(何と情けない・・・・・・女々しい男だ、私は)
己の中の醜い独占欲を改めて目の当たりにさせられ、東城は精神修行の不足を恥じた。
しかし、東城は大声を上げて笑いたい気分だった。土方に礼を言いたい気分だった。そして、素直に何の引け目も持たずに「九兵衛を任せる」、そう言える気がした、挨拶代わりに斬りかかってしまう可能性があったものの。
「おや、土方さん、お帰りなさい」
どうにか、面倒な後始末を終え、屯所に戻ってこれた沖田。
自分に十数分ほど遅れて帰ってきた土方に、縁側に腰を下ろして月を見上げながら、帰り際に夜店で買ったタコ焼をツマミにして甘口の冷酒、『緑玉(りょくぎょく)』をチビチビと呑んでいた彼は、欠伸交じりに声をかけた。
「おう」
沖田の隣で胡坐を掻いた土方は彼からの酌を受け、一気に飲み干す。彼の舌には物足りない感はあったが、喉を流れていく際の冷たさは心地のいいものであった。
「どうでしたぃ?」
「どうって?」
「手の一つくれぇは握れましたかぃ? それとも、いきなりナニなんか握らせてないでしょうねぃ?」
いきなり下ネタをかましてきた弟分の後頭部を、土方は無表情で張り飛ばす。
「・・・・・・悪かったな」
顔を顰めて後頭部を擦っていた沖田は、不意に土方が詫びの短い言葉を口に出してきたので、まさか今宵の一件に気付いていたのか、と肝が冷える。しかし、続いた、「チャイナ娘と祭り、行きたかったろ」と言う言葉で胸の中で安堵の息を漏らした。単に、沖田や近藤が仕事をしている時に、自分は惚れた女と遊んでいた事に一抹の罪悪感を抱いたらしい。
「別に気にしないでくだせぇ」
「んな殊勝な態度、アンタらしくないですぜ」と、嘲りも籠もった苦笑いを浮かべた沖田はタコ焼に爪楊枝を刺す。
「コイツは神楽が持ってきてくれたんでさぁ」
「あぁ、祭りで会った。何か、とんでもない美人と一緒だったぞ」
その女は俺と近藤さんですぜ、と言いたい気持ちを熱々のタコ焼と一緒にグッと飲み込んだ沖田は喉に走った熱を酒で冷ます。
「もう帰ったのか?」
「いえ、随分と疲れたみたいなんで、今は俺の部屋で寝てやす」
「・・・・・・今更だが、この屯所は女人禁制だぞ」
「ホント、今更ですねぃ。
だから、土方さんは九兵衛さんの部屋か、ラブホに行ってくだせぇ。
同じ敷地で、互いに惚れた女の蜜唇やら花洞からタップリ溢れてくる甘露で喉を潤してるなんて思うと、肉刀も萎えちまうでしょう?」
「・・・・・・お前の言い方はオブラートに包みすぎて、逆にエロいんだよ」
呆れたように溜息をつく土方だったが、無意識の内に頭の中に、自分の布団の中で頬を赤らめて恥らう下着姿の九兵衛を想像してしまい、一部分に血液が集まりそうになった彼は下品な妄想を追い去るように頭をブルンブルンと激しく左右に揺さぶった。振られる頭から弾き出される映像の破片を宙に見た沖田は、「ヤセ我慢は体に良くありませんぜ」と笑う。
「ま、俺らも今日は色々あって疲れたし、大人しく寝ますんで耳栓は使わなくてもいいですぜ」
「何だ? 何かあったのか?」
沖田の言葉で、すぐさま険しい表情に変わる土方。
「ちょっとした小競り合いでしたがね」
土方が手にしている空の猪口に、自発的に酒を注いでやる沖田は肩を竦めた。
「少し手こずりましたが、ちゃんと片付けておきましたんで安心してくだせぇ」
「なら、いいが・・・・・・近藤さんは? 風呂か?」
途中、近藤の部屋の前を通ったが、灯りは点けられていなかったし、新人隊士を悩ませるあの豪快な鼾が聞こえなかったので、土方は部屋の中を見ずとも彼が部屋で寝ていない事は解っていた。ならば、入浴中か、夜食を取っているかのどちらかだろう。
だが、沖田は首を横に振った。
「いえ、近藤さんなら今は医務室でさぁ」
「怪我をしたのか、近藤さんが!?」
血相を変えて立ち上がろうとした土方を、沖田は眉根を寄せて引き止める。
「んな重傷じゃありやせんって。
ただ、今は点滴を打って寝てるんで、会うなら明日にしてくだせぇ」
前半は嘘である。
軽い怪我人を東城が寄越してくれたバスへ押しこ・・・運び終えた沖田と神楽が戻ってくるのを待ってましたとばかりに、近藤は気を失ったのだ。ある意味、この事態を予想していた沖田はさほど慌てず、すぐに的確な処置を施した。
しかし、沖田としてはあれだけ激しい頭突きを相手にお見舞いしていたので脳へのダメージが心配で、近藤に大事を取って検査入院をすべきだと勧めたのだが、当の本人が土方に心配をかけたくないと言い張り、仕方なく屯所に帰ってきたのだ。
近藤を運ぶのを手伝ってくれたのは、その場に残っていた四人だった。
車中で近藤から彼らを真撰組に入れるからと言われた瞬間、沖田は危うくブレーキを踏んでしまう所だった。これは全く予想していなかったのだが、バックミラーに映る近藤の血が足りなくて青白くなっている顔に浮かんでいる表情を見て、何を言っても無駄か、と反対するのを諦めた。沖田の心の中の葛藤を横顔から読み取ったのか、助手席の神楽は同情するような面持ちで彼の肩に優しく手を置いた。
(ったく、言い出したら聞いてはくれないんですから、近藤さんは)
そう言う所が嫌いではないのだが、限度はある。器が大きすぎるのも問題だ、と沖田は思う。薬も毒も平気で受け入れていたら、混ぜ合わさったソレが何になるかなど予想も付かない。今の真撰組は辛うじて、イイ具合の均衡を保っているが、このまま癖があり過ぎる人間が増えていったらどうなるだろうか。怖くもあり、楽しみでもある。
猪口を傾けた沖田が口許に黒い笑みを浮かべたのを見逃さなかった土方は、背中にゾワゾワと蠢く寒いものを覚えた。
土方が険しい視線を送ってきているのに気がついた沖田は、ツマミを口に運んでさりげなく己の笑みを感情と一緒に隠す。
(ただ一つ残念なのは、俺ん下に一人も来ないって事ですかねぇ)
トップの近藤が隊に入れる決めた以上は、いくら沖田が真撰組の中で最も出動回数の多い一番隊の隊長を荷っているとは言え、それを否とは言えない。むしろ、実力主義を推奨とする沖田としては彼らを一番隊に入れて欲しかった。
あの四人は瓜生の周囲を固めていた事で、最後まで無傷でいられた。中には彼らを臆病者だとか、雄々しく敵に立ち向かった仲間に合わせる顔があるのか、と蔑む者も多いだろうが、沖田はそうは思わなかった。戦場で『生き残る』人間は運も含めた実力を持っている訳だし、瓜生の周りにいたと言う事は裏柳生内で強さを認められていた事を意味しているからに他ならない。近藤は大雑把過ぎるものの、沖田も仲間になる以上は出自などは気にしない性格なので、そんな優良株は回して欲しかった。
現時点で、自分の隊の総合力は悪くないが、強い人間が入るに越した事はない。先述の通り、前線に立つ回数が多いのなら、戦力の強化は必要である。
だが、現在、欠員が出ているのは他の隊で、今すぐにでも人員を補充しないと、血尿も一滴も出なくなり、首も回らない所まで来ているのだ。さすがの沖田も文句を言えなかった。
土方は試験も受けさせない事を怪しむかも知れないが、相手の地力を見抜く目は曇っていない。文句こそ言うかもしれないが、何だかんだで首を縦に振るだろう。
九兵衛が屯所を訪れた時、顔を合わせてしまったら多少の問題は起こるか。そうなったらそうなったで、近藤に責任を押し付けてしまおう、と胸の内で決める沖田。
「―――・・・・・・おい、総悟」
「何です? 土方さん、牛鬼みてぇな怖い顔をして」
「お前、俺に何かを隠してるだろ。今夜、何かあったのか? あったんだろ?」
「俺が土方さんに隠してる事? そら、足の指まで使っても数え切れない程ありやすね。
俺の秘密を探ろうとするなんて、アンタは俺のお袋ですかぃ?」
「茶化すな。やっぱ、何かあったんだな」
土方は沖田に詰め寄るが、沖田は飄々とした態度で彼の放つ不信感が色濃い視線を流してしまう。
「さぁて、俺も疲れたし、酒もイイ具合に回ってきて眠くなったんで、そろそろ神楽が温めてくれてる布団に入る事にしやす」
襟首を掴もうと土方が伸ばしてきた手を、立ち上がったと同時に残像をその場に置くほどの高速移動で避けた沖田。忌々しげに舌打ちを漏らした土方が更に手を伸ばした時には、自分の猪口だけ手に持った沖田は床を軽く蹴っていて、腰を上げないと届かない距離まで離れてしまっていた。
(・・・・・・馬鹿馬鹿しいな)
疑わしくても、わざわざ立ち上がって沖田と鬼ごっこをしたくなかった土方は諦める。
肩を竦めて浮かせかけていた腰を下ろし、手酌で酒を注いだ土方の方を振り向いた沖田。
「土方さん」
「あ? 何だ」
「俺は何があっても、アンタの味方でいてやりやすよ」
「は?!」
土方は目を丸くしてしまう。慌てて、言葉の真意を問い質そうと口を開こうとした瞬間、ニヤリと嗤った沖田は角を曲がってしまう。
(やっぱ、何か厄介事を隠してやがるな。
明日、朝一番に近藤さんに聞きに行くか)
再び、舌打ちを漏らした土方は月を見上げた。
(あぁ、ホント、月が綺麗だ・・・なぁ、ミツバ、そっちでも見えてるか?)

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