言わば、こいつと俺の関係は「喧嘩友達」だ
顔を付き合わせれば悪口の応酬で、自然と闘り合っちまう
こんな風に静かでいるとどうしたら良いのか、彼は判らなかったし、知りもしない
同じ年代の男ならば女と遊ぶことしか考えないのだろうが総悟は基本「シスコン」で、青春真っ只中の現在は「剣」と「真撰組」の事しか頭にない
今の今まで女とほとんど関わらずに生きてきた
性格こそアレだが喋らなきゃ、顔も良く、就いている地位も年から考えれば申し分ない存在なので黙っていても女が自然と寄ってくる
それでも、彼は興味などまるで無く、袖にしてきた
だから、こんなに自分の心を支配できる女がいるなど、
総悟は姉のミツバ以外いると思いもしなかった
何時の間にか、このチャイナ娘は俺の心の深いところにしっかりと根付いてやがった
気付くと、見回りの最中でも無意識に彼女のお団子頭を人ごみの中に探してしまう。遭遇して喧嘩になって分かれた後、後ろ髪を引かれながらも不思議と幸せな気持ちになっている
もしかしたら、これは自分の『初恋』なのかもしれない
そう考えると、気恥ずかしくなり、余計、言葉が出ない
「おい、サド」
「んあ」
いきなり、呼びかけられ、間抜けな声が出てしまう
「何、さっきからウンウン唸ってるアルか」
「気にしないでくだせぇ」
「変な奴ネ」
俺が変になるのはあんたの所為ですぜ、神楽
心の中で呟く
「なぁ、サド」
「何です、チャイナ」
「・・・桜の木の下には死体が埋まってて角の生えた女が出るるってホントか?」
一瞬、こいつが何を言ったのか、理解できなくなる
「は?」
「昨日、夜、やってたのヨ
怪奇特集でタマリが花野アナ、脅してたアル」
あぁ、あのグラサンと騒がしいアナウンサーさんがMCやってる春の特番か
原田と斉藤が見てましたね、そういや
確か、どこにでもありそうな都市伝説だ
街の公園に生えている立派な桜
実は、昔、この公園は処刑場で、その桜が植えられていた場所が屍体を捨てて埋めていた穴だったらしい
時が経ち、慰霊目的で桜の樹が植えられ、
桜は死体の血と養分を根から吸い上げ、それは見事な美しい花を咲かせた
それからと言うもの、毎年、桜を見事に咲かせる為、夜な夜な死体を埋めに来る者がいるのだが、その死体を掘り返して食う鬼と化した美女がいる
そんな根も葉もない噂
「ホントに埋まってるアルか」
桜の根元をじぃと見つめる神楽は
心なしか、小さく震え、顔色も青い
総悟は我慢できず、笑いを零してしまう
「笑うナ」
耳まで真っ赤になった彼女がどうしようも無く愛おしく思える
「んな訳あるかよ」
「タマリが言ってたアル」
「ただの噂だろ、そら
て言うか、真面目な話、そんな猟奇事件、本当にあったら奉行所や俺達、真撰組が忙しくなっちまう」
でも、俺はふと思う
「でも、まぁ、悪くねぇ」
「?」
チャイナが首を傾げる、俺はチャイナの頭に乗った桜の花びらをつまむと、それを杯に並々と注いだ「鬼鮫」に浮かべ、一気に飲み干す
軽く、喉と胃の腑を焼く感覚が堪らない
「でも、まぁこんなに綺麗な花を咲かせる為に死体どもが一役、買ってるならその「死」にも意味があるのかもしれませんぜ」
「よく判らないアル」
「・・・命は巡るってことでさぁ」
チャイナは余計、困惑顔だ
あ、こういう顔も可愛い
「なぁ、チャ・・・神楽」
「何アルか、ソーゴ」
「もしもの話ですぜ」
「うん」
「もし、俺が不治の病になったりあんたが俺に勝ったのならの、話でさぁ」
「・・・うん」
「そん時は俺を遠慮なく殺してくださぇ」
「もう酔っ払ったアルか?」
怪訝な表情を浮かべた神楽の頬を撫でる
「素面でさぁ。
で、俺をこいつの根元に埋めてくれや」
俺は桜を見上げた
神楽も視線に釣られて桜を見上げる
「そんで、毎年、この季節になって
花を付けたら見に来てくださぇそんで、少しでも良いから俺の事を思い出してくれたら嬉しいですね
ま、ありえないですけどね」
「当たり前アル。
何、つまらない事言ってんだ」
「もしもの話でさぁ
それに俺がお前に負けるなんて、土方の野郎が煙草とマヨのローテーションを止められるのと同じ位にありえねぇや
それに、負けるのはあんたの方ですぜ」
「それこそありえないアルナ
銀ちゃんが週一度のジャンプと糖分摂取を諦められる位、ありえないアル」
「違ぇねぇ」
俺は大声で笑った、神楽も可笑しそうに眩しい笑顔を零した
「・・・でも、良いアル
約束してやるヨ」
神楽が小指をすっと出す
「姉御に教えて貰ったのヨ
誰かと“絶対の”約束をする時にやる
地球のおまじないだって」
俺はほんの少しだけ、いや、かなり姉御に感謝をした
動揺を気取られぬよう、さっと小指を絡める
「指切り拳万アルな
あと、私とも約束しろアル」
「何でぃ」
「今度、また同じ番組がやるネ。
そん時、一緒に見て欲しいアル」
「・・・良いですぜぃ」
離れる指、名残惜しい

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