職員の「意欲」ないしは「やる気」は、業務の成果に直接に関連する重要なファクタである。管理職の地位にある者にとっては、部下の「やる気」のマネジメントは、管理者としての能力が問われるほどのものだ。
「やる気」とは物事を進んで成し遂げようとする心意である。職員のこの心意をマネジメントするにはどうすればよいだろうか。
「まるでやる気が無いという状態は、実は、やる気の塊の状態である」ということが認識できれば、やる気のマネジメントの第一歩となるだろう。「まるでやる気が無
い」という状態は、逆説的ではあるが、「俺はやる気など絶対に出すものか」といった、まるで「やる気の塊り」の状態なのである。
しかし、極端なケースでは、引き篭もってしまい何のやる気も見られないような場合や鬱病のような状態では、そういうことは言えないだろう。病気との区別が重要となってくる。病気であれば医師やカウンセラーが扱うものであり、職場の管理者が扱うには荷が重過ぎると言えよう。
やる気のマネジメントは心理学として考えることができるようになってきている。中心的役割を果たすのがアブラハム・マズローの理論であるが、これはこのままでは実用にならない。しかし、私が提唱している日本文化の心理学では、<日本の文化>に照らし合わせて理論を拡張し、実用可能にすることに成功した。
「やる気」はマズローが言う基本的欲求と関連する。基本的欲求とは、それが無ければ病気になり、それが有れば病気を防ぎ、それを取り戻せば病気が治る、という性質を持つものである。例えば「食欲」などがそうであることは説明の要はないだろう。
マズローの基本的欲求とは、(1)生理的欲求、(2)安全欲求、(3)所属・愛情欲求、(4)承認欲求、(5)自己実現欲求、である。そして彼は、これらが階層構造を有すると考えたのだ。すなわち、下位の欲求を充足させると次位の欲求が自然に発現するというものだ。しかし、順序よく下位から充足させるというのは、実生活においてはきわめて難しいし、現実的でない。ここを現実的になるように理論を拡張することができ、やる気をマネジメントするための方法論の基礎となったのだ。
その方法により、家庭内のみでなく、擬似家族とみなせる組織において、やる気のない人にやる気を出させたり、やる気がありすぎて燃え尽きてしまう可能性がある人などを事前に検査することができ、予防策を講じることが可能となった。

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