「66 19歳の中絶50人に1人・・・水子の祟り」
性心理
日刊スポーツ新聞が報じるところによれば、
19歳の中絶50人に1人、厚労省統計
19歳の女性の50人に1人、18歳だと64人に1人の割合で03年度に人工妊娠中絶をしていたことが2日、厚生労働省の統計で分かった。10代を1歳刻みで集計したのは初めて。10代の中絶率は前年度より微減したが、10年前の約2倍と依然多かった。
厚労省は10代女性の身体と心を傷つける中絶の減少を母子保健10カ年計画で目指しており、母子保健課は「ショッキングな数字。学校や市民団体と協力して性に関する知識の普及啓発をしたい」としている。[2004/11/2/08:59]
ということである。これは大きな問題であると言える。厚生省においては性知識の普及啓発を考えているようであるが、それとともに、性の心理、中絶に関する心理の教育も重要ではないだろうか。その一例として、かって、第3回「東洋思想と心理療法研究会」一般演題・平成13年3月17日・東京・駒澤大学にて発表したものを以下に示しておきたい。
水 子 の 祟 り の 精 神 分 析
日本文化の心理療法への導入の試み (1)
又 吉 正 治○
1. はじめに
我が国において、「水子の祟り」は、民間では広く普及した概念であるが.、これまでに心理学・精神医学の俎上に載せられることはなく、もっぱら、宗教が扱ってきた問題であった。その宗教にも、それはある、と主張するもの、迷信だ、と主張するものがあり、一定の見解が存在しない。この様な状況なので、「水子の祟り」を心理学的に検討することは、急務でないかと考えられる。また、宗教の名を借りて詐欺まがいのことが横行する今日では、学問の対象とし、心理療法化することも重要であると考えられる。
2. 水子の祟りの概要
これまでに、「水子の祟り」の問題で困った五百人以上のクライエントの相談に応じてきた中で、「水子の祟り」とは、次のように考えて良い現象であることが判明した。
引きこもり、不登校、摂食障害、虐め、虐められ、激しい兄弟(姉妹)喧嘩、夜間徘徊、といった種々の問題行動を子供達が見せるとき、彼等の母親は、シャーマン(沖縄ではユタという)や新興宗教の元に相談に行くことが多い。当方へ相談に来る人も、既にそちらへ相談に行った経験のある人が大多数を占める。子供に発生した問題の原因が「水子」であり、問題は「水子の祟り」として発生している、と解釈するのである。この様な解釈が成り立つものかどうか、事例を通して精神分析を行う。
3. 水子を持つ母の心理と家庭状況
子が水子(人工・自然流産)とならざるを得なかった女性の心理には、罪(人工)または恥(自然)の心意が共通に見られることが特徴である。初回妊娠において水子となった場合には、特に顕著である。ということは、若年者の妊娠中絶が増えているという懸念のある昨今では、この問題は看過できない重要な問題である。
水子を持った後、女性は、暫くは悶々とするが、それは次第に抑圧されて「忘れる」事になる。この期間は三ヶ月から六ヶ月に渡っている。平均して四ヶ月といったところである。水子を持った女性が次回に妊娠すると、それが出産可能で有れば、「死なせてしまったあの子の分までも、この子を立派に…」という思いが共通してみられ、出産後に過保護になる傾向がはっきり見える。いわゆる溺愛とも言えるが、本人には自覚がない1ところが多いのも特徴的なことである。
過保護に育てられた子に同胞ができると、母親を同胞に奪われるため、その子は嫉妬の感情に駆られる。定量的な表現は困難であるが、水子のいない場合と比較すると、嫉妬がかなり強く現れることは臨床的に伺える。すると、水子の後の子(実質的な第一子)は、母親に甘えたくても甘えられない状態となり、拗ねて、僻んで、恨んで、ふて腐れて、自棄糞になる、と土居健郎が指摘した心理になり、退行現象を起こすか、越行現象を起こすようになる。(越行の定義については拙論文Iを参照)。臨床的には、退行現象を示した子が、全体の九割であった。
水子の祟りの問題を抱えた女性に共通した心理は、この退行した子を「アンタはお兄(姉)ちゃんでしょ!」と叱責することであった。そのため、水子の次の子は、甘えたいのに叱責され、という悪循環に陥り、拗ね、僻み、恨み、ふて腐れ、自棄糞の心意に基づく問題行動を呈したのである。また、越行現象を示した子は、いわゆる「良い子」となるが、そのため、母親は安心して第二子にかかりっきりとなることが殆どであった2。
この様に考えれば、水子の後の子は、母親の愛情獲得に落差を大きく経験することになるが、これを先人達は、退行した子を見て、供養されていない子の霊Iが乗り移ったと表現したものと考えられる。これはまた、フロイトが家族コンプレックスと呼んだ現象でもある。古代日本の精神文化とも考えられる沖縄の文化(祖先崇拝)では、これは長子押込(チャッチ・ウシクミ)のひとつの型として広く認識されているII。
4. 「水子の祟り」のモデル化
以上の様にして発生する現象は、次のようにモデル化が可能である。
女性が妊娠したとき、お腹の中の子に対して「愛着」が生じる。少数の事例ではあるが、望まない妊娠で「愛着」を覚えなかった女性は、出産後も、子に対する愛情を示し得ず、子を施設に送らざるを得なかったことからすると、妊娠時に子に対する愛着が生じるかどうかは、重要なことであるように考えられる。面接に寄れば、この愛着は、普通は第二子、第三子にもそれぞれ現れる。このことを基にすると、次のようなモデルを考えることができる。
つまり初回妊娠時に生じた「愛着1」は、人工・自然流産により、その対象を失うので(対象喪失反応)、悶々とする中で次第に抑圧されていく。第一子を妊娠すると、その子に対する「愛着2」が生じるものの、抑圧されていた「愛着1‘」が現れるようになり、第一子には、本来の愛着以外に水子に対する愛着までが加わることとなる。「愛着1’」は、新興宗教的に言えば、「浮游霊」などと呼ばれるものに対応するものであると考えられる。
この様にして第一子は母親の過分な愛情の基に育つこととなるが、それは第二子が出生するまでのはかない期間でしかない。第二子出生後は、第一子は甘えたくても甘えられない状態になり、母親の扱い方次第で程度は異なるが、拗ね、僻み、恨み、ふて腐れ、自棄糞、の心意を持つようになる。ここで第一子は退行、または越行を示すこととなる。
5. 水子の祟りの防止法
以上のようなことからすれば、水子の祟りが及ぼす影響を防止するには、浮游霊に対応する愛着1‘を何とかすればよいことになる。これを民間伝承的に表現すれば、愛着1を浮游霊化するのではなく(無意識界に抑圧するのではなく)、何時もその水子に向けるべきである、ということになる。これは、水子を持ってしまうと仏壇に祀ったりして供養する、という日本の生活習慣と一致するものとなる。
「水子」なるものは、以上のような心理的影響を与えるものであるから、その防止策を講じることは当然であろう。次のようなことが考えられる。
第一には、男女関係を営む際、双方がこのことをしっかりと認識すべきである。男は、女が不要な心理的負担を抱え込むことに配慮が必要であるし、女もまた、同様である。
第二は、もし「水子」を持ってしまったら、女は次のような生き方をすることが望ましいことが分かる。すなわち、いったん自分のお腹の中に宿した生命ならば、それが生きていようといまいと、母としての情を全ての子に対して平等に死ぬまで持ち続けること、ということになる。男(夫)もこの事には理解を示す必要がある。
6. 「水子の祟り」の世代間伝達
一般に「虐待」などが世代間伝達される現象であることは認識されているが、「水子の祟り」もまた世代間伝達される現象であることが臨床的に確認される。
左図に於いて、第一子は母の愛情に飢えた中で成長するとき、それが男の子であれば、年頃になると早くから母親代わりの女の子を求めるようになることが多い。これは、また水子を作る可能性が高いもので、言ってみれば、親の不徳がまた子によって繰り返される、ということになる。
第一子が女の子であるとき、母の愛情に飢えた女の子は、思春期以降は、それまでに獲得すべきであった心理的快感を、性的快感の取得で補おうとするかのような行動を見せるのでIII、いわゆる性的な問題を引き起こしやすい。まだ少数の事例ではあるが、援助交際などにもこの傾向が伺える。
7. 事例紹介
以上のようなことに基づき、小学校高学年の子供が起こした「引きこもり」と「不登校」について、母親の話を聞いているうちに、この論法を適用可能であることが判断されたので、適用してみることとした。母親がしんみりと「全てを納得」という形で受け止めることができたので、地域の生活習慣IVを利用して試みた結果、およそ3ヶ月ほどで問題は解決となった。これらは全て「甘え」の問題Vであることが確認される結果となった。
8. 参考文献
○家族療法研究所、医学博士・臨床心理士
メリーランド大学アジア校
沖縄県宜野湾市志真志4-15-6 〒901-2213
1 傍目には過保護、放任とはすぐ分かっても、当事者になれば、どこまで可愛がるか、どこまでほったらかすか、というのは、自分の感情の赴くまま、周りの事情が許すままになっていることが殆どである。
2 燃え尽き症候群と呼ばれる現象を示す人の生い立ちには、この越行現象を示した経緯があることを指摘しておく。
I 又吉正治:祖先崇拝と心理療法、第二回東洋思想と心理療法研究会、平成12年3月、駒澤大学、東京都。
II 又吉正治:琉球文化の精神分析第一巻・第二巻、月刊沖縄社、1999年(第6刷)。
III 又吉正治:生理的欲求としての性欲の性質について(未発表)
IV 又吉正治:勤労意欲が無く金銭浪費癖の激しい青年の心理治療、九州臨床心理学会沖縄大会、平成11年3月、那覇市。
V 又吉正治:正しい「甘え」が心を癒やす、文芸社、東京都、1998年。

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