今回はダイバーらしく
圧力についての勉強をしましょう。物理ですよ、
ぶ・つ・り。今回は長〜いから覚悟しなさい。
スキューバダイバーの方なら必ず教わる事ですが、ダイバーは
水中世界を楽しむリターンのかわりに様々なリスクを背負って潜ります。その内最も重要なのが「
呼吸」ですね。
人間は水中では機材無しでは呼吸出来ません当たり前ですが。タンクに入ってるエアを命綱に潜ります、しかしこの命綱が時としてダイバーを危険にさらすことになります。
大体どこのショップでも200気圧のエアが入ったタンクを用意してくれてます、10リットルのタンクなら2000リットルの空気が詰め込まれてます、お風呂の湯槽の10杯分くらいだと思って下さい。映画「
ジョーズ」のラストではこれをサメの口に放り込んで
爆発させてやっつけるということをしていましたが実際爆発すればそれくらいの破壊力はあります。
まぁこれは極端な例で、近年爆発事故は殆どおきていません。
なぜリスクとして「
呼吸」が重要なのかは「
圧力」が関係してきます。
みなさん経験あると思いますが、学校の
水泳の授業で
プールの底に潜ったことぐらいあると思います、その時耳が
キーンとなりませんでしたか?それはプールの水に耳の鼓膜が押されているからです。胸くらいの深度でそうなるくらいですから、ダイバーが入るような深度でかかる力の強さは推して知るべしです。
上図のように筒型の容器があるとして水面上では当然目一杯空気が入ってます。これを沈めていきましょう、すると周囲の水が物体を押す力が増すので空気の体積が減っていきます。
これを「
ボイルの法則」と言います、ハイここテスト出ますよ〜しっかり聴いて下さい。
通常私達が吸ってる空気は1気圧(高所は別として)ですが、水中では10m沈むごとに1気圧増えます。つまり深度10mで
2気圧、20mで
3気圧となり、周りの水から圧迫される力が
2倍3倍と増えていきます。
なので深度が深くなればなるほどダイバーは
深呼吸するために地上では1の空気を10mでは2、20mでは3吸わないといけないので、深く潜るとエアの消費が早いのはこのせいです。
「じゃあ、深いところでは空気が減るの?」と言われる方もいらっしゃると思いますが、これはちょっと違います。同じエアでも地上と水中の状態は下図のような感じになってると思って下さい。
地上での
空気君達は圧力が低いので水中に比べゆったり

してますが、水中の
空気君達は圧力のせいで圧縮されて
ギューギュー
になってます、これを「
ダルトンの法則」と言います、これもテスト出ますよ〜。
「じゃあ、空気が
濃くなってるんか?」
「ウム、そうや。」
「じゃあ、深いとこやったら少しだけ吸うたらええやん。」
「
無理やね!
」
人間は地上の生き物なのでそんな特殊な空気を吸った場合に酸素の消費をコントロール出来るほどの能力はありません、何より
二酸化炭素のような
有害な不活性ガスを排出しなければならないので吐く事も重要ですから吸い込んだ空気内の酸素を消費しきるのを待ってることはできません、陸上短距離選手は呼吸を止めて走ると言いますが厳密には止めてはおらず吐くことだけはしてます、吐かずに100mダッシュできる人間はいません。
さてと、
「いつになったら潜水病の話始まんねん!」と言われそうなのですが、まぁまぁ落ち着きなさい

、この
圧力の前ふりが重要なんです。
水中では空気がどんな状態になるかは分かってもらえたと思います。まず圧縮されることで体積が変わる現象で起る潜水病の一つ
エンボリズムがあります。
ダイバーは潜水中、呼吸を止めないという
鉄則がありますね、深呼吸を続けることでエアの消費が最も効率的に行われるというのも理由の一つですが、ことこの鉄則を守らなければいけないのは
浮上中のことです。
上で解説したことを思い出して下さい。ダイバーは深度下では
圧縮された空気吸ってる事になりますね。10mでは肺に目一杯の空気を吸い込むと実際地上での2倍の空気が肺に入ってます。この状態のまま息を止めて浮上したらどうなるでしょう?
簡単です、圧力が弱まり肺の空気がだんだん膨張しだします。当然、許容量を超える体積になりますので肺は損傷または破裂します。これが
エンボリズムです。
ダイバーが水中で呼吸を可能にする機材がレギュレターですがこれは常に外圧に合ったエアを供給してくれるので、浮上中に呼吸を止めないことでこのエンボリズムは回避できます。
しかし、実際にあった事故でこんなのがあります。
ある
スキンダイバー(素潜り)が潜水中に10m付近で
スキューバダイバーと遭遇しました、彼は
「お、ちょうど良い、空気をわけてもらおう」
と軽い気持ちでスキューバダイバーに近寄り「エアをわけてちょうだい」とジェスチャーし、またスキューバダイバーも軽い気持ちで「OK」とセカンドステージを差し出し空気をわけてあげました。そしてスキンダイバーの彼はその後、
死亡します。
なにが起ったのでしょう?直接の原因はやはり
エンボリズムです。スキンダイバーは水面上でハイパーベンチレーションを行い
1気圧の空気を肺にためて潜ります、深度が増すにつれ肺内の空気は圧縮されますが浮上する時はもともと
1気圧空気がもとに戻るだけなので体積が増えることはありません。しかしこの事例の場合スキンダイバーはスキューバダイバーに
2気圧の空気をわけてもらってるので彼の肺には地上での2倍の空気がためられました、息を止めるのが普通のスキンダイバーは浮上中に肺が過膨張して重度のエンボリズムを起こし、意識不明、そして
溺死しました。
この場合、両方が軽卒でしたが、スキンダイバーがスキューバの経験や知識が無い場合はスキューバダイバーに落度があると思います。息の限界で、どうしてもエアをほしがってるスキンダバーだったかもしれないのでエアをわけてあげた事はいいとしても、その後の事を考えスレートなんかに「必ず息を吐きながら浮上してね」と書いて念を押すか、理解してないようなら、エアを共有しながら
一緒に浮上してあげなければいけません。
私のような経験の浅いダイバーはこんな事思いつかないかもしれません、この事例を読まず私が同じ状況ならおそらく同じ結果が出たと思います。親切でしたことが仇になった悲しい事例でした。
この
エンボリズム(肺の過膨張障害)を起こした人は軽症の場合は胸が痛くなったり吐血をしますが意識はあります、即病院へ連れていきましょう。重度の場合は意識も無く極めて危険な状態なので、発見したら即引き上げて蘇生処置をしましょう、「
肺が損傷してるのに人工呼吸なんかしていいの?」と考えるでしょうが(これは最初私も疑問でしたが)ほっといても呼吸してなかったら死亡しますので、
おかまい無しでやっちゃって下さい、ただ吐血してますので血がじゃまでやりにくいかもしれません。

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