1勝がこんなにも難しく、こんなにも嬉しいものだと改めて感じました。
しかしその1勝は、最初の1歩を踏み出しただけであり行く手には棘の道が待っています。
それでもその棘の道を共に進む仲間の涙と笑顔に触れ、決意を新たにすることができました。
ペトロの電撃解任、堀監督就任から僅かに3日。
ユース監督という次世代を担う選手育成をメインとした仕事から、
突如、トップを残留させるという重く困難な結果を求められる仕事を任された堀監督。
2日間でチームに堀のやりたいことを浸透させるにはあまりにも時間がなさすぎでしたが、
ユース時代に堀の指導を仰いだ選手が数多くトップに所属していたことが数少ない追い風でした。
しかし、目先の1勝ではなく、残留という5試合トータルの結果を求められており、
カード累積、U22代表による離脱など就任したばかりの新監督が迎えるこの日の初陣に向けて、
越えなければならない困難が山のように積み上げられていた2日間だったと思います。
横浜戦のメンバーは前日からの予想通り外国人選手抜きで臨みました。
スピラのベンチスタートは累積警告による出場停止をコントロールしたものであると同時に、
堀監督が良く知っている選手である水輝のポテンシャルに賭けたものであると感じました。
ランコさんではなくマゾーラがサブに入ったことは意外に感じましたが、
堀監督がどこでマゾーラを使うつもりなのだろうと想像するとそれも理解出来る起用でした。
なにより坪井ちゃんがベンチに入っていることが大きな変化のように感じました。
対戦相手の横浜は4位と上位につけていますが、4戦勝ちなしで調子はいまいち。
巡り合わせとはいえ、どんなに小さなことでもポジティブに捉えることがいまは必要でした。
開始早々、梅崎が右サイドを突破、シュートはGKに防がれましたが幸先の良いスタートでした。
しかし、直後に先制点は横浜に入ります。相手のシュートをブロックしたボールが、
ゴール正面にポジションをとっていた大黒選手に渡り、一度はシュートをブロックしたものの、
跳ね返ったボールに素早く反応した大黒選手が再びシュート。横浜に先制されてしまいます。
横浜に崩されたわけでもなく、エアポケットに入ったような不運な失点だったと思います。
そんな不運も含めて浦和レッズの実力なのですから、不運は幸運に変えていくしかないのです。
今季、先制された試合に勝ったことがない浦和レッズにとって暗い影を落としましたが…。
しかし、先制された選手達は下を向くことなく戦いを続けました。
当初はパスが繋がらず、セカンドボールも奪えない状況で劣勢な戦いを強いられましたが、
25分を過ぎた辺りから、直輝、柏木の関係が整理されはじめ、徐々に中盤が機能しはじめます。
先制した横浜が早々に引き気味に守備的なサッカーに代わったこともありますが、
直輝を中心とした攻撃陣は、セル、元気、梅崎、柏木の5人がポジションを流動的に変え、
徐々に横浜守備陣を翻弄しはじめ、連動した可能性を感じる攻撃を見せ始めました。
さらに、ここのところ守備の不安から鳴りを潜めていた宇賀神が頻繁に左サイドを駆け上がり、
得意の角度から強烈なシュートを何本も放ちはじめ、前への圧力が増していきました。
やはり思い切りの良い攻撃が宇賀神の持ち味。個の力がチームで活かされていると感じました。
中盤でボールを奪い直輝のボールを受けた元気がPA内で相手DFを交して放ったシュートは、
惜しくもバーを直撃し得点にはなりませんでしたが、横浜DF陣を完全に崩した場面でした。
1点はリードされていましたが、レッズがペースを掴み、手応えを感じて前半を終えました。
良いイメージを持って入った後半。早い時間に同点に追いつくことに成功します。
右サイドをフリーで駆け上がった平川のクロスに合わせた直輝が、後から押されてPKを獲得。
直輝のPKは一度はGKに弾かれましたが、こぼれ球を元気が捻じ込んで同点に追いつきました。
自らが獲得したPKを、自らが蹴ることを志願し蹴った直輝の意思と、
ゴール前に全力で詰めた柏木、元気の必死の形相に、この試合に賭ける誇りと意地を感じました。
早い時間から低い位置で守りを固め、1−0で逃げ切りを図った横浜の思惑を崩すことに成功しました。
同点で勢いに乗るレッズは、逆転を目指して横浜ゴールに迫りました。
レッズの逆転は素早いリスタートから。右サイドから柏木がFKを素早くリスタート。
完全に出遅れた横浜に対して、梅崎がゴールに向かって一直線にドリブルで突進。
梅崎の右にはセル、左には距離をあけて元気が並走し、相手DFと3対2の形となりました。
梅崎は相手DFが空けたシュートコースを見逃さず思い切りよく左足を振り抜きました。
ボールはゴールマウスの外側からゴールギリギリに突き刺さる素晴らしいゴールが決まりました。
1−2逆転。重圧を乗り越えて、喜びが爆発した瞬間だったと思います。
逆転された横浜は選手交代を交えながらレッズゴールに迫ってきました。
レッズは自陣深い位置で何本も相手にFKを与え、その度に中村選手のキックに晒されました。
レッズは引き気味に構え失点のリスクを減らした上で、カウンターから追加点を狙いました。
山本主審の笛は本当によく鳴り続けました。そのほとんどが横浜のFKになりました。
中村選手のFKは精度が高く、横浜の危険な選手の頭に吸い込まれるような弾道を描きました。
レッズはGK順大を中心に、濱田、永田と集中を切らすことなくゴールを守り切りました。
レッズは80分に梅崎に代えて高崎、88分にセルに代えて坪井を投入し横浜の攻撃に対応します。
前掛かりになる横浜に対して、レッズは虎視眈々とカウンターを狙っていました。
直輝から何度か可能性のある攻撃がありましたが、決定的な追加点を奪うことが出来ませんでした。
しかし、攻守の切り替えについても迷いが消え、お互いを感じながらやり切ったと思います。
試合終了の笛が鳴りました。
堀監督を目指して走り出す選手。直輝、元気、順大…大きな輪が出来ました。
まるで優勝したかのように喜びを爆発させるスタッフ、ピッチにいた選手もベンチの選手も。
それに呼応するようにレッズゴール裏も前方に雪崩が崩れるように人の波が起こりました。
互いにイメージを共有し、互いの意思を感じながらプレーする選手達に可能性を感じました。
まだ1勝しただけで何かを成し遂げたわけではありませんが、
この日浦和レッズが魅せたサッカーは、未来に期待を持たせるものでした。
苦しみ抜いた2011年シーズンの終盤に、ほんの少しの希望を見出せたことが嬉しかった。
早い時間に失点してしまいましたが、前半のうちに流れを掴み、
後半の早い時間帯に追いつき、少しでも早くゴールに向かう強い気持ちが逆転を生みました。
横浜が不調だったからかもしれませんが、それでもいまは勝ち点3が何より必要な状況です。
求められた結果を今季初の逆転勝ちで手にした勢いで、残る4試合を一気に駆け抜けて欲しいです。
追い込まれても選手に届けと叫ぶ声に、諦めることなく戦う気迫で応えてくれました。
互いの存在を認め合ったスタンドとピッチが呼応し、最後まで集中して戦った結果の勝利でした。
スタジアムに試合終了の笛が鳴り響き、選手の鼓動を感じ、自分の心が震えるのを感じました。
1勝がこんなにも難しく、こんなにも嬉しいものだと改めて感じました。
しかしその1勝は、最初の1歩を踏み出しただけであり行く手には棘の道が待っています。
それでもその棘の道を共に進む仲間の涙と笑顔に触れ、決意を新たにすることができました。
日産スタジアムに響き渡った 「We are Diamonds」 の凱歌が心地良かったです。
厳しい残留争いの中に身を置き、苦しみもがいている選手に自分が出来ることはただひとつ。
それは、やっぱり応援することだけなのです。諦めていないサポがここにいることを伝えることだけです。
試合中はスタジアムで戦う浦和レッズの選手たちにとって、一番の味方でいることしかありません。
残り4試合、全ての試合で笑顔の選手が自分たちのところに来てくれると信じています。
2011年Jリーグ 第30節
横浜F・マリノス1−2(前半1−0)浦和レッズ
得点者:4分 大黒(横浜FM)、50分 元気、61分 梅崎
主審:山本雄大
2011年10月22日(土)14:04 KO 日産スタジアム 入場者:27,527人

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