原題は【応能負担と必要充足の原則を回復せよ】です。
近代憲法の出発点は、産業革命を通じ、経済的に台頭してきたブルジョワジー(これ、フランス語です)の「経済活動の自由」を封建勢力に容認させることでした。
一方で、産業革命が生み出したもう一つの階級である労働者の権利(「労働時間の上限」や「最低賃金」などの法制化を要求するための団結権や団体交渉権)を、ブルジョワジーはなかなか認めてきませんでした。
ブルジョワジー側は、労働力という商品を、「市場で自由に取引」したかったのです。
しかし労働力の自由取引は、労働者の貧困化をもたらしました。
労働者側の権利獲得の戦い(ブルジョワジーとの階級闘争)の結果、社会的権利が徐々に認知されるようになりました。
「工場法」「少年労働の禁止」「8時間労働」「年次有給休暇」などなどです。
日本国憲法は、これら戦前の国内外の労働者の闘いの成果の上に、社会的権利を国家が保障する法体系を作り上げました。
そこから生まれたのが「必要充足・応能負担」の原則です。
「自由市場」に任せていては格差が広がる。その格差を是正するために、政府がその責任でさまざまな施策をとることを、憲法は命じているのです(生存権を保障する25条を中心に)。
しかし、大企業・財界は、これをみずからの経済活動の自由の障害であるとし、その緩和・撤廃を求めてきたのです。
それが、80年代からの臨調・行革、そしてその総決算の意味合いもあった、小泉政権の「構造改革」により、社会権破壊の枠組みはほぼ出来上がり、安倍政権により、その全面実施が求められているのです(もちろん、財界の要請)。
これが、いわゆる「新自由主義」(自由主義の社会権的規制の撤廃)の日本的現れです。
構造改革の結果である「格差社会」が生み出したのが、
・非正規労働者1600万人(労働力人口の3分の1。うち、1500万人が、年収200万円以下)
・貯蓄なし世帯が23%
・国民健康保険の資格証明書発行世帯が30万世帯(03年)。(収入がないなどの理由で)保険料を滞納するなどして証明書が発行されると、受診の際に医療費全額を支払わなければならず、このことが受診抑制につながり、国民皆保険の精神に反することに。
など、枚挙に暇がないのですが、
これらは企業側のさまざまな「コスト削減」(リストラ、派遣・請負へのシフトなど)の結果なのです。
さらに政府は、消費税の導入、法人税減税(銀行にいたっては、その法人税さえも払っていないところも)、株で遊ぶ大金持ちへの所得税率優遇などで、ますます財界・金持ちを優遇しているのです。
政府が本来やるべき格差是正・弱者救済ではなく、強者応援・格差拡大をするという、何のための政府か、まったく分かりません。
さらに言えば、このような政府の政策は明確に「憲法違反」です。
国民一人一人が憲法を活かす努力をしながらも、憲法擁護義務を果たさない政府を変える努力もしなければなりませんね。
脳みそに余裕があって、さらに詳しく知りたい人は、こちらをお読みください:
自治体の市場化・民営化と公共性
二宮厚美(神戸大学教授)
http://www.jilg.jp/iservice/info54.html
教育基本法との関係で言うと、子どもの人格完成にとって重要な時期である小・中学校での教育を、国家が責任を持つことが要請されています。
特に子どもの「学力」というのは、その子ども一人の努力によってはいかんともしがたい生活環境(家庭環境や親の収入など)によって、大きな影響を受けます。
「公教育」というものは、そういう、一人の努力では埋められない「差」を、いかに埋めるかに腐心するべきで、「学力テスト」や「学校自由選択」などで「競争」を煽り、格差を拡大することを目的とすべきではないのです。
この観点からも、「競争」至上主義を導入しようという教育基本法の改悪は、「憲法違反」であり、絶対に許されないものです。

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