『手塚一志の上達道場 【ピッチングの巻】』(手塚一志著、ベースボールマガジン社)
小生、遠投110mであった。しかし、マウンドに上がると球速は130km/hソコソコであった。遠投能力からすれば、余りにも遅い。逆に、遠投90mで140km/hを超える人もいる。その差はメカニックの差である。自分の投球ビデオをみてそう思い知ったが、この本を読んでさらに納得。詳細は後で書くとして。
この本は、ピッチングメカニズムに焦点を絞ってその合理的な鍛え方を書いている。そして、物理学を肉体的に貫徹するための精神の利用法について書いている。で、その書き方が野球の投球という領域に留まらず、広く生きていくための、特に肉体的な「労働」に関する一般論に通じ、そして深いものを書いている。
まずは上達のための段階について書く。
「知識」:投球メカニズムの知的理解。
「意識」:「ああするべきだ、こうするべきだ」と考えながら、体を使うこと。スポーツをやっている人間なら周知の事実だが、意識しているうちは身についていないのだ。ここがポイント。
「感覚」:まさに感覚。言葉に置き換えられない。置き換えると嘘になる。
「イメージ」:統合されたもの。細かい所に拘るうちは「意識」
「動作誘導」:知識〜意識されるものを理想通りに行なうためのトレーニング。ランニングとか筋トレとか。
これらがこなれ、無意識の境地(「無の境地」)に至ればいい。だが、これまたスポーツやっている人間なら分かるが、無の境地はすぐにスルーする。ここで螺旋的上昇階段という一種の弁証法がスポーツにおいて貫徹する。
ピッチングのメカニズムについては聞きなれない言葉で説明される。足が大地にどっしりと根付き、その態勢から真下にグッと腰が下がり、次の前へ体が引っ張れる動作の準備をすることを「かませ」と名づけている。一番前へ出し易い形、そして力をロスしない形についての説明。前後に揺れれば「すべり」と言い、悪いメカニズムである。次に、臍下丹田から前足の先に至る弓状線をグググッと一直線に前に出す動作を「隠し」と名づける。下から順に前へ出し、最後に上半身をボディースイングする理論は今までと基本的に同じ。違うのは、肘を上げろとか言わない。確かに、今日見たスポーツ新聞の上原や藤川は、腕を無理に上に上げずに、二の腕は胴体と直角だ。昔の鉄腕はスリークォーター以下か、サイドが多い。個人的には25歳、ブリバリーズにいたときにこの辺までは出来るようになっていたと思う。しかし、次が未だに出来ていない。
ギリギリまで粘りついて上半身をくるっと回転させなければいけない。この本のイメージでは、後腰を、前腰にぶつけて一瞬のうちにはじき出す感じ。ビリヤードで言えば、45°接面でぶつかり、90°横にはじき返される感じ。小生の感じは、前腰をカベにして、後ろ腰を追い越すように送り出す感じ。小生のやり方では回転モーメントが大きくなる。だから、切れがない。本書では明白に「前のカベの意識は捨てよ」と書いている。この辺を本書では「ズバッ」と名づけている。
ここまでは分かる。しかし、この後は良く分からない。足を怪我してシャドーが出来ないせいもあるのだが。リリースポイントよりも前に意識した標的を脱力した状態の上腕で打ち抜くイメージの「パンチング」。
それから、スクラッチで腕を上げる(手の甲を捕手側に向けて腕を上げる)と、自然と肘が上がるので「肘の上げ下げ」を意識しなくていい、と思う。
子供の投げ方、あるいは一般に言う「女投げ」は合理的だと小生も思う。繰り返しになるが、リリースポイントを高く、高くというイデオロギー(高いほうが角度のある球になるから!)で指導された戦後、特に平成期の投手よりも、サイド気味の投手が多かった昔のほうが、タフな投手が多かった。そして、豪腕投手で成功している人の多くは、スリークォーター以下の腕の流れ方だ。
下半身の使い方は昔より理に叶っているが、上半身は?という著者の考えは興味深い。
なお、分解写真などで小生が一番速い球が投げられただろうなあ、と思うのはサチェル・ページである。ボブ・フェラーの速球がチェンジアップに見えたという伝説の投手。物凄く高く上がった足、でも崩れずにそれをぶつけるように地面にもって行き(かませ)、でも上半身は残り(隠し)、激しい勢いでボディースイング(ズバッ)。170km/hくらい出ていたというのも、何となく分かる。(リンク先は残念ながら物凄い分解写真はない)
http://www.youtube.com/watch?v=IW_DhVCgb-8
で、噂のジャイロ。何か壊しそうで怖い。俺はやめとこ。
http://www.youtube.com/watch?v=WKhHcTCDF5E

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