『漫画で読破 赤と黒』(スタンダール原作、イースト・プレス)
魅力的なデルヴィル夫人が出ていない! のは仕方がないとして。赤とは、ナポレオンの軍服に象徴される世俗の色。黒とは、僧服。時はフランス革命後の反動期。貴族が再び跋扈する時代。
平民出の野心家、ジュリアン・ソレルはどちらでもいいからのし上がろうという野心を胸に秘め、学問をする。その才能は傑出している。しかし、平民だ。平民は基本的には出世できない世の中。彼は世俗での出世が叶わぬなら、教会で出世しようと考えていた。
世に出るきっかけは、町長を勤める地元の貴族の家の家庭教師。非常に優秀な家庭教師として、町長の自慢になる。それを快く思わないのが町長のライバルであるヴァルノ。
さて、ジュリアン。まずは家政婦エリザに見初められ、結婚を申し込まれるが、愛情のない結婚は出来ないと断る。レナール夫人は純粋で、心の清い正しい人。彼女もまた、ジュリアンのまっすぐさ、彼なりの純粋さに好意を寄せるが不倫なので はじめはいけないことと考える。ジュリアンは手が触れたことをきっかけに夫人の本心を察知し、野心から彼女の愛を得ようと試みる。そして成功し、彼女を肉体的にもモノにする。
逢瀬はエリザにばれる。彼女は町長のことを快く思っていないヴァルノにスキャンダルを握らせるために密告する。ヴァルノはジュリアンの師匠であるシェラン司祭のことを快く思っていないマスロン神父とつるみ、町長追い落としにかかる。だが、結局はシェラン司祭の知るところとなり、ジュリアンは街を出て神学校に行くこととなる。勿論、野心を胸に。同時に、正しい人・レナールの真実の愛を感じながら。
神学校では学内の権力争いに巻き込まれる。校長につけば権力を利用できると思い、校長を告解師に選んだが、実権は副校長にあった。ジュリアンは嵌められて評価がベッタ近くにされたりする。(怖い顔に描かれているけど、実は正しい)ピラール神父とともに、ジュリアンは学校を出、パリへ行く。そこで、貴族中の貴族、立派な貴族であるラモール侯爵と出会い、彼の下で秘書となる。そこでは貴族同士の品定めの嫌な姿を見る。しかし、洗練されたスタイルの底に潜む退屈に彼は気づく。そんなある日、決闘をするハメになり、そして相手(ボーボワジ従男爵)に認められ、彼の流す変な噂話に箔をつけるためにラモールはジュリアンに「ソレル従男爵」を命名する。この段階ではお遊びだが。
さて、パーティーに参加するジュリアン。そこで退屈に飽き飽きしていたマチルド(ラモールの娘)に気に入られる。ただ、彼女は究極の危ないナルシスト。
ジュリアン・ソレル… 平民の子 彼となら 許されない恋に生きることが出来る
マチルド嬢はラ・モールへの敬意から毎年この日喪に服すんだ。……ボニファス・ド・ラ・モールはマルグリット王妃の愛人だったのだが… 処刑された日 この王妃マルグリットはラ・モールの首を死刑執行人から買い取って… その首を自らの手で葬ったんだ。マチルド嬢はその美しい愛の物語に心をうたれた。マルグリットの情熱こそが本物の愛だと信じているんだ。そして偶然にもマチルド嬢の正式名はマチルド・マルグリット。
(さてさて、史上最高とも言われる恋愛小説のクライマックスだよ〜)
恋に恋する女性は、自らのプライドを優先する。そっけない態度のジュリアンに屈辱を感じる。それだけ今までちやほやされていたということだ。彼女は彼を部屋に招く。ジュリアンはからかわれているのかと悩みつつも、部屋に突入。一夜を共にして、ジュリアンはマチルドのフィアンセ=クロワズノワ侯爵に勝ったと思う。「また一歩、野望に近づいた」
以下、ジュリアンの恋の講釈。
自信家の貴族の男が魅力を持っていても女に相手にされない理由は… 好きだと言えば女は惚れると思っているからだ。それは大間違い。男の告白《エゴ》に女は貞操の危機を感じる。女が愛を感じないのは当然だ。忍耐強く待ち 女に惚れさせてから行動に出る… それが僕の恋に勝つ法則
しかし、一発やっただけ(何てお下品!)で彼氏気取りはマチルドのプライドが許さない。恋のさや当ての段階。自信家・ジュリアンは悩む。「嫉妬パワーですぅ(タママの声で)」「男心=女心」の助言を得、じらし(大統領ってテクニシャン!(スーパーみるくちゃんの声で))、ついには妻にして!と言わせる。やがてマチルドは妊娠する。ソレルはヴェルネー従男爵として、本当の貴族に成り上がる。
あ、別の嫉妬パワーが。ソレルの出世を快く思わない神学校のカスタネード神父がマスロン神父を利用して、レナール夫人とソレルとのスキャンダルを蒸し返し、レナール夫人に「金と地位を目当てに貴族の女を誘惑して堕落させた」との告発文を書かせる。それを見たラモール侯爵は結婚を認めない、という。復讐のため、ジュリアンはレナール夫人に発砲する。そのとき、レナール夫人は微笑みながら思う。
これがあなたの情熱なのね。最期にあなたに会えてよかった だが、レナール夫人は一命をとりとめる。
裁判が始まる。しかし、財力でマチルドは夫となるべき人を守ろうとする。財力で。だが、そのようなありようにジュリアンは強い嫌悪感を覚える。どう、あがいても、差別はある。
あなた達が裁くべき僕の犯した罪とは、平民であるこの僕があなたがた貴族の懐に入り込み、立身出世を目論んだことだ!……
僕はあなたがたの存在を脅かす危険思想者だ!……
本当はこの僕が怖いんだろう? 貴族《ブタ》ども
ジュリアン、マチルドに対して
君の「愛」は自分自身の人生を情熱的に生きるための道具だ つまり僕は君の人生のコマに過ぎない。それは愛と言えるのだろうか?
ジュリアン、レナール夫人に対して
僕はかげろう… 愛を知らぬかげろう あと少し この女性と暮らせる時間があれば… 僕にも理解出来たかも知れない……愛を!
最後、マチルドはジュリアンの切断された首を抱く。

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