『化学工学』Vol.74, No.11, 2010 が家に送られてきてマイクロリアクター関連の記事やら取り組みやらご案内などを見ている。
大変興味深いし、関心もあるけど、しかし、化学プロセスに入れるには色々難しいかも? と思っている。
マイクロリアクターの利点は、除熱のしやすさ、混合の良さ、層流で流れるので反応系を制御しやすいことが挙げられる。幅が狭いので熱が横からすぐに逃げるし、別の物質同士も混合に要する距離(この場合も幅)も短いので混合しやすい。よく、除熱や混合に要する時間tは、(距離の二乗)÷(拡散係数)で表現される。「(距離の二乗)」というところがミソ。小さくすれば極端に必要時間が短くなるのだ。また、層流ってのは、「(流れているものの慣性力)/(壁から受ける地から)」の比であるレイノルズ数ってもので言えば大体2300以下で現れる、揺らぎのない流れのことである。(勿論、乱流との遷移域ってのがあるけど。)こいつは制御しやすい。ちなみに、流れってのは、基本的には乱流で予測不可能な、乱れに乱れたものと思っておいたほうがいい。これのおかげで、ものの混合は速やかに行なわれるのだが。
ちょっと脱線した。マイクロリアクターの実用例について。例えばビタミンA合成のように、発熱が大きいくせに熱分解性の強いものや(混合と除熱を速やかに行なわなければならない)、逐次反応系(A→B→C)で精密制御(流れが層流であることが望ましい)が望まれるものには実用例があるようだ。また、装置や流路が小さいので、非常に危険なものを扱う場合、仕掛り量や内部滞留量が少ないのも魅力だ。
まずは、処理出来る量の問題がある。
化学プロセスで液体は、大抵1〜1.5m/sで流れている。比較的遅めだが、これは有機溶媒の制限流速−−静電気が余り発生しないための制限流速−−の感覚から、そのくらいにすることが多い。マイクロリアクターでは、ちょっと大きめで10m/sとしよう。
マイクロリアクターで一般的と思われる径は、0.2oφくらいか。ちょいちょいと計算すると、一日に処理出来る量は27L/日(一日27L)。一年の操業日数を300日とすると、年間8.1m3/Yr。
化学工場に勤務している人ならお分かりと思うが、「なんて少ない数字なんだ!」。
こういう次第である。解決の方法としては、ナンバーリングアップというものがある。しかし、数百も並んだマイクロリアクター群のどこかに不具合が発生する場合、不具合箇所をどうやって発見するのだ? とか、そもそもそんなに安くないマイクロリアクターを一杯並べると、装置コストがかかりすぎる。
これらのことから、色々と考えておられる方がいる。縦はペッタンコ(0.2oとか)だが、幅は1mとかの「紙型」の装置にしてしまう、など。この場合は、工作精度を高めないと偏流が激しい懸念があるらしい。
でもね。イメージに縛られない人なら、マイクロリアクターの発想を、利用できると思う。マイクロリアクターの利点の一つに、層流であることが挙げられる。教科書的でちょっと何だが、例えば1oφで、水で1m/sで流れている場合、径はいくらまで層流と考えてよいか、を考えると、臨界レイノルズ数を2300とするならば、2.3oφくらいである。(動粘度を10^6m2/sと仮定)
0.2oφでなくて、2oφでもいいのだ。そうなると、面積は100倍なので、処理量は100倍になる。但し、混合や除熱速度は1/100になるので注意。しかし、ビタミンA合成プロセスみたいなアホみたいな発熱や、混合時間を極端に短くしなければならない事例は、そんなにないと思う。
ぺったんことの組み合わせなら、2o高さで幅10センチとかにすれば、断面積をさらに大きく出来る。出所はうろ覚えだが、上手いこと障害物を設置してやれば、結構均一に流せるし、このくらいの大きさなら偏流も小さかったと思う。
また、液・ガス系はともかく、液・液系(油水)系なら、高さを10oくらいにして、流してやるのも一興かと。粘度があれば、層流に近いかもしれないし、むしろ逆に乱流になって有難いことがあるかも知れない。
んなわけで、小生は、工場エンジニアに近い立場から、マイクロリアクターの利点を保持しつつも、ある程度はバルク工場のスケールを可能ならしめる、「ミリリアクター」ってのが良いと思う。それでもまあ、ファインケミカルかなあ。脳内にネタはあるのだが、どうアピールすべきかは良く分かっていないのが残念である。
にしても、そういう場合は発熱、物質移動を組み込んだ数値流体解析が装置設計に必須になるんだろうなあ。相間物質移動の精度の向上が望まれるのである(謎)。

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