『重力とは何か』(大栗博司著、幻冬舎新書260)
大統一理論、超弦理論に至る道。ミクロ(素粒子)とマクロ(宇宙)の奇妙な交差。極限において、何が起きるか、起こり得るか、起きているか。物理学はどのようにして改められてきたか。
非常にドラマチックかつエキサイティングで、その内容を逐一紹介することは出来ない。気に入ったり、書きとどめておきたいことを。
・この宇宙に満ちている力に関する定数は、微妙なバランスを齎している。例えば、重力がちょっと強いとあちこちにブラックホール、弱いとそもそも恒星などが出来なかった。
・法則を使い倒せるだけ使い倒し、限界を見極め、そこで見出される新たな法則に、次は従う。物理学者は急進的保守主義者@ジョン・ホイーラーである。
・大体、10の9乗のスケールごとに物理の法則はステップアップしていった。
・E=Mc^2は、光粒子のやり取りで説明できる。光の圧力、作用・反作用。
・水星の動きが一般相対性理論の正しさを証明。
・重力波を検知・測定できるようになれば、光では観測できない宇宙の姿が分かるようになる。だが、そのためには3×10^22分の1の精度の測定が必要。
・ビッグバン理論を支持したために矯正収容所に入れられたソ連の学者がいる。ちなみに、ビッグバン理論という名前は、反対者による命名。
・確かに、宇宙の始まりがある、という考えは、エンゲルスの『自然の弁証法』やレーニンの『唯物論と経験批判論』に反するからね。
・どんな形のものであれ、ブラックホールになれば特異点を有する。ロジャー・ペンローズのトポロジーによる仕事だが、彼はアインシュタインの方程式を直接解かずに、解の性質を見いだす方法を編み出したらしい。
・全ての物質は「波」でもあるので、位置を確定できない。「波」は「波」としてあるので、波の中のどこに「ある」と決めつけられないからだ。
・量子力学と特殊相対論の結論として、反粒子が予言され、実証された。
・アホほどゴツい加速器を作って、エネルギーを集中させると、微小なブラックホールが出来、事象の地平線が発生。それが、測定限界。10の−35乗mくらいの大きさ。(プランクの長さ)
・量子的な揺らぎを評価すると、計算に「無限大」が色々と起きる。そこで繰り込み理論が発明されたが、エレガントじゃない。
・アインシュタインの重力理論と量子力学を組み合わせるともっと悲惨なことに。時間と空間の構造そのものが揺らぐミクロ世界。様々なパラドックス。それを解決してくれそうなのが「超弦理論」。
・素粒子がアホほどの数発見されたから、考え出されたのが超弦理論。力を伝えるフェルミオンと物質を形作るボゾン。
・ミクロの世界ではパリティ対称性がわずかに破れているから、世界があるというのはどこかで読んだが、超対称性とやらを導入すると、南部陽一郎の弦理論(ボゾンしか扱えなかった)でもってフェルミオンも扱えるようになった。だから、「超」弦理論なのだ。
・これが成立するには、空間は九次元である必要があった。そして、変な謎の粒子が現れた! 調べると、変な粒子が重力子だった!
・しかあし! 場の量子論で素粒子実験が説明できることが分かり、一旦超弦理論は下火に。だがだが! 超弦理論が重力を含んでいて、それは統一理論の可能性を示すと考えたジョン・シュワルツは超弦理論を見捨てず、ついに素粒子の最終的な模型であることを示し、さらに余剰次元を小さな空間に丸めるメカニズムを明らかにした。
・超弦理論では基本単位の弦が「波」なので、無限大を考える必要がないらしい。そんなこんなで、標準模型の道具として再度注目の的に。
・六次元空間の計算が必要となったが、トポロジーを用いた方法でブレークスルー。
・ブラックホールに落ちた粒子は負のエネルギーを持つことが出来るので、対生成した粒子の片方がブラックホールに落ちたら、エネルギーの保存則を保ったまま、対消滅を起こさなくても済む。
・ブラックホールの中は超光速。その中は奇想天外。エネルギーを「時間方向の運動量」と捉えると、エネルギーが運動量のような振る舞いを始め、その値は正にも負にも成り得る。
・ブラックホールは消滅し得る。負のエネルギーを持つ粒子を吸収すれば、質量=エネルギーを失っていくから。(ホーキング放射)
・ビッグバン後のインフレーションは超高速。それにより宇宙の地平線が出来、その近くで粒子が対生成すれば、一方が負のエネルギーを持って地平線の向こうに行き、一方は正のエネルギーを持ってこちら側に残る。ここには揺らぎがあった。それが、現在の宇宙放射の揺らぎに刻印されている。また、揺らぎが星や銀河を作った。
・ブラックホールの表面には投げ込まれた物質のデータが残る!(エントロピーがある)そしてそのエントロピーは、表面積に比例する。
・この理論を敷衍していくと、「三次元空間のある領域で起こる重力現象は、すべてその空間の果てに設置されたスクリーンに投影されて、スクリーンの上の二次元現象として理解できる」(p260) ホログラフィー原理!
・ホログラフィー原理では、そのスクリーンには重力が含まれていない! こうして、三次元の一般相対論+量子力学 の問題は、二次元の量子力学に翻訳された・・・。
・ブラックホールの情報問題に関する賭けで、ブラックホールでも情報が残ることが判明し、ジョン・プレスキルはホーキングらから、野球大百科事典をゲットしたらしい。
・クォーク同士をくっつける素粒子であるグル―オン(「強い力」の素粒子)のプラズマは、液体のようであり、しかも完全流体に近かった。グル―オンとは「にかわ」。これは予想外のこと。だが、実験に先立ち、ホログラフィー原理によってダム・ソンがそれを予言。(三次元空間のプラズマを、四次元空間の果てに投影されたホログラムと考えて計算。量子力学だけでは解決可能な問題を、重力理論を含む問題に翻訳して解き易くした。)
・「高温超電導物質」の性質も、ホログラフィー原理で説明されつつあるらしい。
・超弦理論による素粒子モデルの可能性は10の500乗もあるらしい。
・「人間原理」を用いなくても、宇宙は説明できるよ、多分。

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