世界恐慌の引き金か?とか、そういうレベルの問題じゃないと思う。もっと文明史的に深刻な兆候ではないか、と。
EUってのは、冷戦後のヨーロッパが生き残りを掛けて、中露米に対抗するために作ったものであるというのは知られるところ。(間違ってないよね?)
で、ギリシャってのは地政学的に重要で、ヨーロッパ側に繋ぎとめておかなければ、近くに火薬庫バルカンはあるし、そのちょっと先には「世界反動の砦(かつての共産主義辞典から)」であるロシアがいる。EUに組み込まないわけにはいかなかった。
得をしたのはドイツ。比較的に経済力の弱い地域を組み込むことで、ユーロの価値は下落し、域内競争力を得たのだ。当然、損をしたのは経済力の弱い地域。ギリシャもその一つ。このことを見落としてはなるまい。
そういうのを分かっているから、ドイツの頑なな態度に他のEU諸国が怒るのも分からないではない。IMFでさえも借金棒引きをドイツに打診している。確かにかつてのギリシャ政府も碌なもんじゃないし、今の政府にも同情する点が多いとはいえ、個人的には余りシンパシーを感じないが。
で。この騒ぎを横目に見て、多くの日本人は「我が国も財政赤字が酷いし、大丈夫かな」とか、「いやいやいや、民間レベルを含めて外国に債務があるし、国債は基本的に国内で消費出来ているから今のところは大丈夫(将来は?)」などとの議論をしている。不安には根拠があるし、回答は多分この方向で正しい。だけど。史的唯物論と名付けられるマルクス主義の洗礼を受けた者はそれに留まらない観方をしちゃう。
ドイツはどうやって大儲けしたのか? 域内での製造業の優位さに依拠してである。仕事が一杯取れたということだ。逆に言えば、域内の仕事を奪ったということである。高度資本主義においては、圧倒的な生産性が当たり前の状態である。今や、仕事があること=勝ち組である。それは、古典的なマルクス主義の意味での搾取される側になれることが勝ち組である、ということである。それにありつけないということは、負けである。考えようによっては悲惨なものだ。「搾取されるほうがハッピー」なんだから。失業よりもましでしょ?という。
かつての階級闘争理論は、国際連帯を唱えつつも、権力を得た場合の政策理論は一国内に閉じるものであった。ところが、物流革命、情報革命により資本は易々と国境を超え、国内的階級闘争は易々と置き去りにされることとなった。戦闘的労働組合を有する国家や地域からは資本は逃げ、それぞれの国家権力に対峙するに任せている。それに対抗すべき労働組合の国際連帯は今はない。労働組合、すなわち労働者階級は負けるべくして負けている。「搾取されるほうがハッピー」な程度には。
国家は資本を呼び込むべく他国に対するアドバンテージを資本に提示する。すなわち、税制、労働者の質、立地条件など。ドイツは比較的賃金が高く(多分税金も)、その点では不利だが立地条件と圧倒的な労働者の質で勝利している。今、世界中でこのような競争が行われ、国家と国民は疲弊しつつ、資本の運動を支配できる者が他と比して圧倒的に儲かる仕組みになっている。
さて。ギリシャ国民は怠け者だという議論がある。確かに、そういう話は事実だろう。小生とて、「役人だらけでその役人の給料は民間よりもはるかに高く、しかも55歳から現役時代と同じ額の年金が貰える」と聞けば正直「アホか」と思う。だが。約束された年金が一切もらえないとなると、55歳以上の高齢者の多くは収入が絶たれる。人間の生きる権利を奪いかねない無収入は許されざることである。
ギリシャばかりが目立つが、競争力のない国家群もヤバい財政事情にある。ギリシャが飛べば、そこに飛び火することを各国は恐れる。また、同時に、ギリシャを「甘やかす」ツケも恐れているのだ。例えば、借金棒引きを大きくすると、同様の対応を他の国も要求するであろうと。所謂モラルハザードである。
IMFもEU諸国も難しい対応を迫られているのは確かだ。結局のところ、諸国による妥協が必要だ。そして、ドイツが儲けるために出来たと結果的に見えるEUが継続的に維持出来るには、勝者からの再分配の仕組みが必要なんだろうな。そして、EUに入る諸国には、国際資本に対峙可能な「力」が必要なんだろう。でも、世界はEUだけじゃない。アメリカもあれば日本も中国もロシアもある。中東やインドも侮りがたい。これらの諸国の間の再分配が望まれるし、そうなると先に記した国際競争力の優位・不利も緩和されることだろう。
国益は今や一国の力じゃなく、国際協調の中にしかないのだ。それを忘れる場合、その国家は破滅するだろうな。そして、人を呪わば穴二つ。強者は弱者と分かち合うという、あらゆる良質の宗教や思想が示す共産思想の実践でしか世界は救われまい。

4