フランスの11月13日の夜(日本時間で14日)に起きた同時多発テロは、2001年9月11日と同様の意味づけを世界に与えるのみならず、それ以上の困難を予感させるものであった。
テロに対する怒りは背景を考えると悲しみに変わった。そして、以下のような書き続けている考察に修正を齎すものであった。
http://red.ap.teacup.com/tamo2/2123.html
いや、正確にはこれまでの考察を粉砕し、その破片をかき集めることを余儀なくさせるものであった。要は、大きく書き換えなければならない出来事であった。
小生の考察はどの点で粉砕されるのか、あるいはされるべきなのか。それは、「脱領土化」あるいは「移民」から考えるべきものが考えられていない点である。
小生の考察は、内部矛盾から外延されて包摂されるべき事象については考えている。それを「伸び代」と表現している。そこでは「外部」が十分に考えられていない。
ある文化、文明を持った国や社会があるとする。かつてはじわじわとそこに外部が浸透するというイメージだった。だが今や様々なものが易々と国境や文化圏を超えて侵入してくる。元々住んでいる人たちにとっての「外部」が易々とバリアを超えてくる。良いものだけではない。貧困も、犯罪も、差別も易々と超えてくる。そして、テロリズムさえも。
かつては国境などに国家・社会内部の独自性は守られていた。学生だった頃には中核派の諸君がよく言っていたものだ「日本帝国主義内部の城内平和」と。確かに、外国に耐えがたいほどの貧困や抑圧があるとしても、日本から遠く離れた「海の遠くの物語」であった。
だが。グローバリゼーションと言われて久しい。通信や輸送システムの発達は情報と物流、人間の移動を容易にした。それでも政治体制や宗教に由来する差別や貧困、抑圧はかつて第三世界と呼ばれたところには残った。資本が投下されて発展するところもあったが、そうはならなかったところもあった。そこから人々は逃げ出した。主として移民として。逃げ出せなかった人たちは極端な貧困、差別、抑圧の下にあった。逃げようにも逃げようのないサバルタン、というわけだ。
絶望的な状況の中、かつての収奪の主体たる西欧社会に彼らは牙を剥いた。理屈などどうでもいい。こういう状況でテロは昏い喜びを齎した。ビン・ラディンは数億人の英雄なのだ。
さて。逃げ出した人々はしかし、その多くは西欧社会では最下層のプレカリアートとなった。これらのプレカリアートは彼らの、そして彼らの父祖の祖国の民衆と同じく、絶望的な状況の中で昏い喜びを見いだした。ISILに接触し、訓練を受け、死にこそ意味を見いだすのだ。
テロの主体は貧困、差別、抑圧と共に脱領土化を果たし、先進国の中枢に「いる」ようになった。彼らは警察で封じ込まれない程度には多数なのだ。
そういう次第で、現前するテロ組織をいくら弾圧して封じ込め、壊滅したつもりになろうが、差別や貧困、抑圧がそのままならばテロリストは様々な形で復活し、いたちごっこだろう。
テロとの闘いとは、軍事的なそれは対症療法、それも絶望的な対症療法に過ぎない。差別や貧困、抑圧との闘いであるべきだ。それはローマ法王のおっしゃった言葉を借りれば「第三次世界大戦」、その戦争は「戦争に反対する戦争」としての、第三次世界大戦なのだ。
多くの先進国は民主主義国家である。ならば、絶望の中にいる他者=外部を包摂するためのシステムを作らなければ嘘だろう。一つの方法は移民を国家の中にしっかりと位置づけ、権利を十分に与えることである。勿論、他者=外部と接触する地域、民衆には多大な負担が掛かる。それを支える仕掛けも必要だ。ゴミルール一つとっても、とても大変なことであるのは生まれ故郷で聞いている。所謂移民排斥に根拠がないわけではない。きれいごとでは絶対に済まない。だが、よりましな事態にし、テロの危険を低減するにはこの「ディストピア」しか道はないだろう。
そして。移民をせずに済むように、彼らの、彼らの父祖の土地から貧困と差別と抑圧をなくす努力をしなくてはならない。物事の矛盾が最も集中しているのはここなんだから、最優先の課題は本来ここのはずである。その上で、国家主権を生存権レベルの人権に優先させてはならない。この点では、西欧の「帝国主義」を断固支持したい。人権などの至高の概念は、西欧の人殺しの歴史の上に得られた、得難い人類の財産だと小生は思う。
そして我が日本は、「たおやめ」の国。奇跡のような憲法九条を今のところ冠している。数多くの失望を齎しつつも、この憲法の(直接的と言うより間接的な)効果のおかげでアラブ世界をはじめ、第三世界での日本の評判は悪くはない。日本は、軍事以外の分野で協力できることが多いだろう。これは伊勢崎賢治先生の受け売りだが。「ますらお」を封じた国なんだから、それはそれでやるべきことはいくらでもある。
フランスに平安を。そのためには、世界中の被抑圧民族や民衆=プレカリアートに平安がなければならない。

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