『誰も農業を知らない プロ農家だからわかる日本農業の未来』(有坪民雄著、原書房)
この本は、日本の農業を通じた日本論でもあるとまず思った。日本全体のことは誰も分からない。同じように、農業と言っても多種多様であり、全てに通じている人はいない。だが、断面から農業の課題が見えてくるように、この著者は農業を通じて日本の課題を浮かび上がらせるのに成功していると思う。少子高齢化、都市部、特に首都圏への人口集中など。そして、著者は自分の専門分野についてデータを駆使し、説得力をもった議論をしている。
一言で農業と言っても大きく分けて五種類(穀物、野菜、果樹、花卉、畜産)ある。そして、それら全てに通じるわけにはいかない。六次産業化というが、一次産業の人たちが打って出るにしても長年二次産業や三次産業をやっている人たちが競争相手、簡単に勝てるはずがない。農薬や遺伝子組み換えの品は厳格な検査がなされているので基本的に安全。農薬より危険な自然物質は大量にある。農業の大規模化はコスト投資が膨大で、スケールメリットが出るとは限らず、天候不順や価格変動による損失を考えると大規模こそが大損をする可能性が多く、その時傷が深くならない小規模兼業農家が強い。小規模兼業農家は利益度外視で農業をしている場合が多い。ハイテク農業は徐々に広がるだろうが、時間がかかりそう。農協も農水省も時代ごとに頑張ってきたが、変化においつけていないようだ。その上で、脱サラ農業はラーメン屋をやるより有利だが、仕組みが大切。日本の農業は本気を出せば4億人分の食料を作り出せる。食育のため給食を無料にするべき。他にも面白い言葉がいっぱい並んでいる。「通俗理解」とは逆のことが多い。農業に関心のある人にはお勧めだ。何度も著者は書いているが「著者も農業の全容を知らない」のである。その上で、データをしっかり踏まえれば課題も解決策も見えてくるということを教えてくれる本である。その上で、こと農業について小生の考えを少し書くと、農業は治山治水を支えている。その経済性を数値的に評価出来ていればもっと良かった。勿論少し効果については触れていたが。

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